世界から注目される福島発の医療機器−福島大・高橋副学長に聞く−

(米国)

ニューヨーク発

2011年06月28日

福島大学の高橋隆行副学長率いる研究開発チームは、6月7〜9日にニューヨークで開かれた医療機器の加工技術展示会「MD&M EAST」で、最先端の医療機器技術を発表した。震災の影響で約2ヵ月間大学が閉鎖状態になり、研究開発(R&D)も停止、一時は出展を見合わせたという。しかし、福島の復興を世界に伝えたいとの思いから出展を決意した。研究開発チームが開発した内視鏡などの技術に注目が集まり、世界的な医療機器メーカーなどからの具体的な商談も多かったという。6月9日に高橋副学長に話を聞いた。

<着実な復興を世界に伝えたい>
「福島県発の医療機器開発技術で、福島が着実に復興していることを全世界に伝えたい」と語るのは、「MD&M EAST」で、高機能内視鏡などに使用できる新技術を発表した福島大学の高橋副学長だ。新技術の開発は、2年前から地元の中小企業などと協力して進めてきた。

出展に向けた最終調整を進めていたちょうどその時、東日本大震災が起こった。それに続く原子力発電所の被災により、大学は約2ヵ月間実質上閉鎖、R&Dも停止した。高橋氏は、震災の影響は大きく、一時はMD&M EASTへの出展を取りやめようと考えたという。そんな中、米国をはじめとする世界中の国や地域から多くの支援があり、その支援現場を目の当たりにした。「われわれが立ち止まっているわけにはいかない。支援をいただいた世界中の人々への感謝を込め、今こそ福島の復興の力をみてもらいたいと考え、出展を決意した」と語る。

福島大学研究開発チームを率いる高橋副学長(中央)、鶴岡高専佐々木准教授(左)、福島大学山口教授(右)

<開発技術を組み合わせた内視鏡を試作>
福島大学研究開発チームが中心となって開発したのは3つの部品だ。1つ目は内視鏡に使われる、ブレ(がたつき)が発生せず動作範囲も大きい運動方向を変える立体カム(国際特許取得審査中)。2つ目はがたつきがなく小型で伝動能力が高い減速機(国際特許取得審査中)。3つ目は世界で最も薄い角度センサー(国内特許取得済み)だ。

立体カムと減速機は、工業用宝石加工部品メーカーの並木精密宝石(東京)、地元福島県の精密加工メーカーのアトム(磐梯町)、山形県の鶴岡工業高等専門学校の佐々木裕之准教授と協力し、角度センサーは松尾製作所(愛知県大府市)との共同研究で開発につなげた。さらに防水機能を備えた角度センサーを、福島大学の山口克彦教授が中心となり開発中だ。それぞれの技術は単独でも航空宇宙やロボット産業分野などで応用できる画期的なものだ。研究開発チームは、その技術を組み合わせ、現在外科手術で一般的に使われている内視鏡の直径サイズと同じ13ミリのものを試作し、MD&M EASTで展示した。

高橋氏は「現在、手術現場で使われている内視鏡は、一般的に自由度が小さく、内臓の裏側などの処置が困難だ。また、内視鏡の屈折部で生じる誤差やがたつきにより、微細な操作が難しかった。その2つを克服する新しい技術をわれわれは具現化した」と語る。

直径13ミリの内視鏡の試作品(左)、厚さ3ミリと世界で最も薄い角度センサー

<小型化の実現に向けR&Dが続く>
出展した内視鏡はまだ試作品だが、高橋氏は「直径が13ミリの内視鏡を年内に製品化したい。そして、2〜3年後をめどに、現在13ミリの直径を5ミリまで小さくし、内視鏡の屈折間隔(関節部から関節部までの長さ)を30ミリまで短くすることが目標だ」と語る。実現のカギを握るのは、歯車、立体カム、センサー、モーターなど主要部品の小型化だ。実現すれば、手術用などの医療機器としての実用性が格段に高まる。高橋副学長は「歯車、立体カム、センサーなど主要部品で企業と協力し、R&Dを進めている」と説明する。

R&Dが続く直径5ミリの内視鏡の試作品

<高い技術が注目され具体的商談が相次ぐ>
出展を終え、高橋氏は「厳しい時期での出展だったが、非常に大きな成果が得られた」と振り返る。成果の1つは、内視鏡の試作品や角度センサーに、世界的な医療機器メーカーや精密機器メーカーなどから具体的な商談が相次いだことだ。「具体的な商品例を示したことで、世界的なメーカーから具体的な商談を得られた。これら企業とコミュニケーションを深めていき、大学の持つ技術を実際に使用できるものに変えていきたいと」語った。

もう1つの成果は、福島が着実に復興していることを世界に示せたことだ。「会場では、多くの来場者から、応援の声をいただいた。その一人ひとりに、これまでいただいた多くの支援に感謝を述べるとともに、少しずつ復興に向け頑張っているとのメッセージを発信できたことは大きな成果だった」と語る。

企業と連携したR&Dで、技術を実用化していくという福島大学研究開発チームの取り組みは、福島発の医療機器開発技術として注目を浴びている。

(打田覚志)

(米国)

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