ASEAN・インドFTAが発効−未発効はカンボジアだけに−

(ASEAN、インド、フィリピン)

マニラ発・アジア大洋州課

2011年05月30日

政府が5月2日に公布した大統領令(EO)25号により、ASEAN・インド自由貿易協定(AIFTA)が5月17日、フィリピンで正式に発効した。ASEANでAIFTA未発効の国はカンボジアだけになった。AIFTAでは、フィリピンはほかのASEAN5ヵ国とは異なり、2022年末までの長期にわたる削減スケジュールで合意している。両国間の貿易が小規模なことやスケジュールが長期間に及ぶことから、効果は小幅にとどまる見通しだ。国内では当初、影響を不安視する声が大きかったが、貿易産業省(DTI)のカビンティン次官補によると、現在はAIFTAが着実に実施されることを望む声が大勢だという。

添付ファイル: 資料PDFファイル( B)

<貿易相手として互いに薄い存在感>
10年の対インド輸出額は4億980万ドル(構成比0.80%)、輸入額は5億3,770万ドル(0.98%)と、輸出入ともにさほど大きくない。インド側からみても、対フィリピン貿易は09年度の輸出総額の0.42%、輸入総額の0.11%を占めるにすぎず、貿易相手として存在感は極めて小さい。

インドとの貿易が少ないにもかかわらず、AIFTAに対して国内では産業界をはじめとして警戒する声も強かった。フィリピン側の輸入超過が00年以降拡大しており、08〜09年にピークを迎えていたからだ。さらに、既に署名・発効していた日本・フィリピン経済連携協定(JPEPA)、ASEAN・オーストラリア・ニュージーランドFTA(AANZFTA)では、フィリピン自動車工業会(CAMPI)やフィリピン自動車部品製造業者協会(MVPMAP)の反発が続き、FTA自体に対してネガティブな風潮が広がっていた。そのため、AIFTA交渉の際、ASEAN先行加盟国とは足並みをそろえず、関税削減期間を延長するかたちで合意・署名した。

<関税削減効果は小幅にとどまる見通し>
AIFTAで、フィリピン・インド間の関税削減スケジュールは、ほかのASEAN5ヵ国とは異なっている。インドとブルネイ・インドネシア・マレーシア・タイ間では、大部分の品目が16年末までに関税撤廃されるのに対し、フィリピン・インド間では19年末と、スケジュールが先延ばしされている(添付資料の表1参照)。さらに、フィリピンは高度センシティブ品目(HSL)を設定しており、最終的に削減スケジュールが終わるのは22年末だ。

インド側はフィリピンに対し、18年末までに64.1%、19年末までに74.3%の品目にかかる関税を撤廃する(添付資料の表2参照)。一方、ほかのASEAN5ヵ国に対しては、64.0%の品目が13年末までに関税撤廃される。こうしたスケジュールに加え、両国間の貿易が少ないため、関税削減効果は小幅にとどまるという見方が多い。

<輸入では牛肉・自動二輪、輸出では石炭・集積回路に恩恵>
具体的品目をみると、フィリピン側では、インドからの輸入上位品目にノーマルトラック(NT)品目は少ない。ただし上位2品目の牛肉、自動二輪は9〜25%引き下げられる見込み。一方、インド側では、フィリピンからの輸入上位10品目はすべてNTで占められている。ただし、主力産業の電気機器はWTO情報技術協定(ITA)により既に0%になっている品目が多いため、効果は薄い。しかし、そのほかの上位輸出品目(石炭や集積回路)は19年末までに無税になる。該当品目の輸出入者は恩恵を受けられよう(添付資料の表3、4参照)。

<着実な実施を望む声が大勢>
今回のAIFTAの発効に当たり、貿易産業省(DTI)のカビンティン次官補に5月20日にインタビューした。

問:インドへの輸出では、どのような品目が恩恵を受けられるか。

答:農産品や家具製品が恩恵を受けると予想している。

問:関税削減スケジュールは期日どおり行えそうか。

答:ASEAN事務局発表のスケジュールどおり実施できると認識している。

問:AIFTAについて、産業界からネガティブな声は出ていないか。

答:交渉中は何かと不安視する反応が強かったが、公布前の時点では、AIFTAが着実に実施されることを望む声が大勢を占める状況になった。実は、AIFTAの交渉中、食肉業界から牛肉・鶏肉・豚肉を除外品目にするよう要望があった。輸入肉は加工用のため、地元産食肉と激しく競合することはない、と説明を繰り返した。一方、食肉加工業者からはバッファロー(インドの水牛、野牛)が低関税で仕入れられるようになるため、歓迎する声は多い。

また、鉄鋼業界からも不安視する反応があった。しかし、インドから来る鉄鋼製品の多くはインド原産でなく、(鉄鋼会社の)親会社の製品がインドを経由して入ってくる形態が主流で、AIFTA税率は適用されないと考えている。一方、自動車関連製品はセンシティブ品目として除外した。業界団体は低価格の車両が輸入されることを非常に恐れていた。

問:原産地証明書(フォームAI)の発給など、手続き上で注意すべき点は。

答:特にない。発給手続きはASEAN自由貿易地域(AFTA)、ASEAN・中国自由貿易協定(ACFTA)、ASEAN・韓国自由貿易協定(AKFTA)と同じだ。

(鎌田桂輔、北見創)

(フィリピン・インド・ASEAN)

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