各地で実行、契約ベースとも金額が増加(京津冀地域)−2010年の対中直接投資動向(2)−
北京発
2011年03月29日
2010年の京津冀地域(北京市、天津市、河北省)の対内直接投資額(実行ベース)は、北京市、天津市、河北省ともに前年比で増加、天津市は前年に続き2割増となった。各地で契約額も増加し、河北省はこれまでのマイナスから2割を超える伸びとなった。今後の実行ベースの拡大が期待される。
<北京市:契約額を3年ぶりに発表>
10年の北京市の対内直接投資は、契約額が前年比2.1%増の84億8,765万ドル、実行額が4.0%増の63億6,358万ドルと、ともに増加した。契約件数の発表はなくなったが、契約額を07年以降、3年ぶりに発表した。
国・地域別の実行額をみると、1位は香港で、17.2%増の31億2,863万ドル。2位の英領バージン諸島は前年の大幅増から一転し、38.0%減の7億6,255万ドルとなった。3位はケイマン諸島で、9.7%増の4億5,209万ドルと、上半期のマイナスから増加に転じた。日本は4位と上半期より順位を1つ下げたものの、70.2%増の4億692万ドルと前年の大幅減から急速に回復した。5位のシンガポールは99.0%増の2億4,888万ドルと倍増した(表2参照)。
産業別でみると、伸び率がプラスだったのは第三次産業で、8.5%増の56億3,213万ドルと、全投資実行額の88.5%を占めた。第二次産業は19.1%減の7億1,899万ドル(シェア11.3%)、第一次産業は同67.5%減の1,246万ドル(同0.2%)だった。しかし、第二次産業は契約額が2.1倍と急増し、今後の実行額は増加が見込まれる。
<不動産開発で大型投資>
北京市商務委員会によると、実行ベースで1,000万ドルを超える大型投資は、件数で全体の7割を占めた。さらに5,000万ドル以上の大型プロジェクトは34件、うち不動産開発に関係する案件は7件で、最大のものは香港の方興地産(中国)による2億8,700万ドルだった。
また北京市投資促進局によると、不動産以外の1,000万ドル以上の投資案件は、主に電子情報産業、バイオ・医薬産業、新エネルギー産業などに集中している。北京市が重点産業と位置付けている電子情報産業(液晶パネル、通信など)、自動車産業、石油化学産業、設備製造産業(環境保護設備、発送電設備など)、バイオ・医薬産業と都市型工業(食品飲料、工芸美術など)の6大産業で、投資案件の大型化が進んでいる。
日本企業の主な投資案件としては、三菱重工業が10年1月に地域統括会社「三菱重工業(中国)」を設立したことが挙げられる。資本金は3,100万ドルで、同社が全額を出資する。現在中国で需要が高まっている都市開発や省エネ・環境ビジネスなど大型プロジェクト案件を開拓するため、中央省庁や大手国有企業の意思決定機関が集中する北京に地域統括本部を置いた。
また10年7月、持ち帰り弁当の店「Hotto Motto(ほっともっと)」を日本で展開するプレナスが、北京中関村に中国で第1号店となる「好麦道」を出店した。今後5年間で全土に200店を開設する計画だ。
<天津市:引き続き実行額は2割強の伸び>
天津市では、契約件数が前年比0.7%減の592件、契約額が10.5%増の152億9,569万ドル、実行額が20.3%増の108億4,872万ドルと、件数はわずかながらの減少したものの、金額はいずれも2ケタの増加となった。
主な国・地域別の実行額をみると、1位は香港で、0.5%減の45億1,272万ドル。韓国が72.5%増の10億4,529万ドルと急伸して2位に入り、米国は3.3倍の7億7,117万ドルで3位となった。日本は4位で、62.7%増の5億3,545万ドルと、上半期のマイナスから大幅な増加に転じた。第5位はシンガポールで、24.4%減の5億848万ドルだった(表3参照)。
産業別実行額では、全体の45.7%を占める製造業が28.0%増の49億6,185万ドルと順調に伸び、交通運輸・倉庫業が60.8%増の13億1,645万ドルと急伸した。また、卸・小売業・飲食業は5.7%増の5億5,083万ドルと上半期の減少(前年同期比53.4%減)から増加に転じた。不動産業は48.6%減の9億2,156万ドルと、前年の増加から大幅な減少に転じた(表4参照)。
<卸・小売りなど、サービス業投資が好調>
天津市商務委員会は、10年の契約投資プロジェクトの特徴として、大型案件が増加したことを挙げている。投資の大型化が進んでいる業種としては、製造業では液晶、太陽光、パソコンなどの電気・電子分野や航空・宇宙分野、自動車・同部品など、国内需要の拡大に伴い、生産規模を拡大するための投資が増えた。製造業の契約件数は141件、契約金額は33億6,043万ドルで、特に航空・宇宙、新エネルギー、バイオ分野への投資が多かった。
卸・小売業・飲食業の契約件数は製造業を上回る147件と、業種別で最も多かった。契約額は70.4%増、実行額も5.7%増だった。同産業を中心とした第三次産業の契約件数は439件で、全投資件数の74.2%を占めた。また契約額は77.1%、実行額は52.9%と、いずれも高いシェアを占めた。
サービス業分野の日系企業の進出も進んでいる。イオンは10年9月に新店舗を天津経済技術開発区(TEDA)エリア内にオープン。伊勢丹も12年にTEDAに新店舗を開業する予定だ。これまでは製造拠点という位置付けが強かったTEDAだが、住宅地の造成などに伴う居住人口の増加により、新たに商業地としての発展も期待されている。
<濱海新区:市全体への投資の6割以上を占める>
06年6月に中央政府から「国総合・複合改革試験区」に認可された濱海新区への投資をみると、実行額は22.2%増の70億4,200万ドルで、市全体の投資額の64.9%を占め、市全体の伸び率を上回った。また域内総生産も、25.1%増の5,030億元(1元=約12.4円)と、市全体の成長率の17.4%を大きく上回った。金額でのシェアも55.2%と、市全体(9,109億元)の半分以上を占めている。濱海新区は航空・宇宙、石油化学、電子通信、自動車産業といった8大産業を重点産業として位置付けており、10年はサムスンLEDによる増資や、ロシアとの石油プラント建設プロジェクトなどの投資が行われた。
<河北省:契約件数、金額が順調に増加>
河北省の契約件数は前年比14.4%増の246件、契約額も26.3%増の32億9,000万ドルと、09年のマイナスから一転して2ケタ増となった。実行額も6.5%増の38億3,000万ドルと引き続き増加した。
河北省商務庁によると、同省に投資する主な国・地域は香港、米国、シンガポール、米国、日本などで、うち日本からの投資は、契約件数が20%増の12件、契約額は2.2倍の2億ドルと急増した。一方、実行額は1億4,000万ドルと9%減少した。契約額が500万ドルを超えた案件として、住友建機、住友重機械工業が唐山市に行った投資プロジェクトなどがある。
(清水顕司)
(中国)
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