グローリー、代理店子会社化でさらなる飛躍を目指す−欧州の新ビジネスモデルを探る(6)−

(イタリア)

ミラノ発

2011年03月25日

金銭処理機、情報処理機、自動販売機、カードシステム・サービス機器などの開発・製造・販売・保守サービスを行っているグローリー(本社:兵庫県姫路市)は、2010年8月にイタリアの代理店だったシトラーデ・イタリア(Sitrade Italia)を子会社化すると発表し、10月に同社の株式を取得した。シトラーデ財務担当副社長の安居弘明氏とグローリー経理統括部の吉田聡史氏にイタリアでの取り組みについて聞いた。

<充実したアフターサービスで顧客のニーズをくみ上げる>
グローリーは中期経営計画の中で、成長戦略として海外事業展開を加速することを掲げ、販売網の整備・拡充に取り組んでいる。10年には営業力やソフト開発力などを取り込むことを目的に、同社にとって欧州最大の販売代理店だったシトラーデを子会社化した。シトラーデは、グローリーのイタリア国内向け販売代理店として成長し、30年以上にわたって関係が続いている。欧州全体では、銀行向けの卓上型紙幣入金機の販売が多いが、イタリアでは銀行向けの正損識別機能付き窓口用紙幣入出金機の販売が多い。

シトラーデの戦略は、まず地方を中心とした小規模な銀行を中心に販路を広げ、徐々に大規模な銀行へと販売を拡大していくというものだ。イタリアの銀行は、「横の関係」が強く、一社が導入すると評判を聞いた他社にも導入が広がることがある。アフターケアも重視しており、本社兼営業店の機能を持つミラノを含めて合計7支店それぞれにアフターケア対応が可能な人材を配置している。それ以外の地域でも、各地で個別に技術者と契約し、問題が発生した際に迅速にケアできる体制を整備している。

同社はイタリア全土にネットワークを持つが、あくまで自社で対応できる範囲までしかビジネスを拡大しておらず、安居氏はこうしたやり方について、「イタリア企業の典型だ」という。

商品形態、デザイン、機能などについて、シトラーデからグローリーに改善を要求することもある。安居氏によると、要求を受けたグローリーが設計を変えてカスタマイズすることで、さらに製品が売れるという好循環につながることも多いという。これはシトラーデが顧客ニーズを十分にくみ上げていることを表している。

<欧州売り上げの相当部分を稼ぎ出す>
グローリーの直近期の欧州地域の売上高は100億円規模で、その相当部分をイタリアが占めている。ドイツにはグローリー・ヨーロッパがあり、同社の傘下に、買収したライス(ドイツ)とグローリー・フランスがある。シトラーデはグローリー・ヨーロッパと並ぶ欧州での2大拠点の1つになっている。銀行向けの正損識別機能付き窓口用紙幣入出金機は同社がイタリアで最大のシェアを持つ。

同社がイタリアで高いシェアを確保しているのは以下のような理由からだ。

(1)欧州中央銀行(ECB)が11年に市中に流通する紙幣の厳正管理を指令したこと。そのため、金融機関が損券(破損または汚れた紙幣)を回収することが義務化され、損券を識別する機能の付いた機械の販売が伸びている。同指令はユーロ圏全体に当てはまるが、特にイタリアは損券が多く出回っており、ほかの市場よりも識別機のニーズがある。

(2)銀行強盗が多いこと。イタリアでは強盗を防ぎ、セキュリティーを強化するため、窓口用紙幣入出金機の下に金庫が付いた同社製品を購入する銀行が多い。同社の製品を導入していることを示す黄色いステッカーを店頭に貼り、強盗が銀行に押し入っても金を奪うことはできないことをアピールしている銀行もある。

(3)銀行の支店数が多いこと。現在合理化競争が激しくなっており、窓口の行員を減らし機械化を進めている銀行が多い。

<さらなるシェア拡大狙い子会社化>
シトラーデは持ち前の営業力を生かし、イタリアの銀行への同型機種の販売ではトップシェアを誇っている。しかし、3大銀行のウニクレディト、インテーザ・サンパオロ、モンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナに対して、今後いかに食い込むかが課題になっている。

そのような状況下、シトラーデは知名度だけで販路を拡大していくことに限界を感じ始めていた。グローリーとしても、競争激化や不況の影響もあり、今までと同様の右肩上がりの成長が見込めない状況で、さらなるシェア拡大を目指したい両社の思惑が合致し、子会社化に合意した。

中長期的には、イタリアでのノウハウをテコとして欧州や世界へ販売を拡大することも狙っている。例えば、イタリアで販売が好調な窓口用紙幣入出金機は、銀行の勘定システムと接続する必要があるが、シトラーデは機械とシステムをつなぐインターフェース部分の開発を独自に行っている。

グローリーの吉田氏によると、インターフェースの開発を代理店が独自に行うことは、ほかの代理店にはないシトラーデの強みの1つ。これは銀行との信頼醸成にも役立ち、窓口用紙幣入出金機の販売好調にもつながっている。

<東欧やロシア、アフリカに販路拡大へ>
グローリーの世界戦略上、欧州は米国、アジアとともに営業の柱になっている。国ごとにそれぞれの通貨に対応した識別機の開発を進めるには時間やコストが必要になるが、欧州のように単一通貨の地域では効率の良い販売ができる。また、ユーロ導入国が増えれば自然に市場が拡大していくことにもなり、この意味でも欧州は魅力的な市場だ。02年からユーロ通貨の流通が始まったが、今後新しい紙幣に切り替わることがあれば、また新たなビジネスチャンスになる。

将来は東欧や欧州と関係の深いアフリカ市場を開拓し、合わせて欧州市場の掘り起こしをする戦略をとっている。ロシア、ウクライナ、チェコ、トルコなど東欧やロシアの市場では銀行の合理化が進行中で、現在も高額の商談を多く抱えている。また、既存の欧州市場でも、スーパーのレジで自動的に釣り銭の出るレジ釣り銭機の新規開拓を狙っており、今後は銀行だけでなく、スーパーなど流通分野にもターゲットを拡大していく計画だ。

イタリアの銀行も、不況の影響で最近は設備投資を控えており、シトラーデも需要が頭打ちになっている。同社はイタリアでは11年内は同様の経済状況が続くとみている。しかし、グローリーはシトラーデという優秀な代理店を子会社化することで体制を固め、ECB指令、ユーロの切り替えなどのニーズをとらえ、イタリアモデルを活用して、欧州全域、そして世界へと確実に飛躍しようとしている。

(三宅悠有)

(イタリア)

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