国内デモの動き沈静化

(バーレーン、サウジアラビア、アフリカ)

リヤド発

2011年03月22日

不発に終わった3月11日「怒りの日」に続き、フェースブック上でデモが呼び掛けられていた3月20日も、リヤドをはじめ国内ではデモは確認されなかった。両日に備え、国王、政府、宗教界が一体となった取り組みが功を奏し、ネットを通じた反体制運動は沈静化すると予想される。

<新たな社会保障対策で対応>
平穏に過ぎた3月11日「怒りの日」の後も、治安当局は20日に備え、厳しい警戒態勢を敷いていた。アブドゥッラー国王は、王室と政府が、国民生活のさらなる安定と向上に配慮していることを示すため、金曜日の18日の礼拝後に国民に直接語りかけて緊急発表を行い、2月23日の大規模社会福祉策に続き、公務員の最低賃金の制定などに関する新たな勅令を発した。これは、20日のデモ呼び掛けを意識した対応とみられる。

翌19日には公的機関(官公庁、学校)を休日にした。18、19日の夜は、若者多数がリヤド市内の中心部オライヤ地区などに繰り出し、国旗を手に路上で踊るなど、勅令を祝って大騒ぎを繰り広げた。

<所得向上、失業・住宅対策など盛り込む>
18日の勅令による一連の社会保障施策の総額は5,000億リヤル(1リヤル=約21.6円)に上る。主な内容は以下のとおり。

(1)サウジ人公務員の最低賃金を月額3,000リヤルとする。
(2)失業中の求職者には、次期ヒジュラ暦(西暦では2011年11月に開始)以降、月額2,000リヤルを支給する(それまでに失業者の実態を調査)。
(3)国王直轄の「腐敗・汚職取り締まり委員会」の設立。委員長は大臣と同格。
(4)民間企業でのサウジ人の雇用機会創出のため、商工省、労働省による緊急会議の招集(19日に会議を開催)。新たなサウダイゼーション(サウジ人の就業機会拡大)進展に向けた取り組みを検討。
(5)6万人の内務省治安部隊の増員。
(6)すべての公務員、軍人に対し給与2ヵ月分に相当する特別手当を支給。
(7)すべての高等教育機関(大学など)で学ぶ男女学生に対し奨励金2ヵ月分を支給。
(8)新規住宅50万戸建設のため2,500億リヤルを割り当て。
(9)不動産開発基金による住宅ローンの上限を30万リヤルから50万リヤルに引き上げ。
(10)国内の医療施設拡充のため160億リヤルを割り当てる。
(11)国内モスクの修繕に5億リヤルを割り当てるなど、宗教省、宗教関連機関に対する補助。

サウジ人の所得向上、失業対策・就業機会の創出、医療対策、住宅問題への対応、宗教界への配慮などに幅広く目配りしている中で、特に注目されるのが、長年の懸案だった公務員の最低賃金を定めたこと、国内史上初の腐敗・汚職を取り締まる公的機関を設立したこと、サウダイゼーションへの取り組み強化だろう。

ただし、公務員の最低賃金制定は、民間企業にとっては賃金上昇圧力になること、民間企業に勤める従業員には適用されないことから、労使双方に不満も残っている。また、住宅ローンの限度額引き上げは、ただでさえ過熱気味になっている不動産価格の高騰とインフレに拍車を掛けることを懸念する声もある。

今回の勅令で、国民生活の保障や向上に寄与する施策はほぼ出尽くした感がある。これらはサウジ社会が抱える諸問題に対応するものとして、おおむね国民から評価されている。しかし、学生や若年失業者への補助は彼らを甘やかすだけの結果にもなりかねず、将来を考えた際に適切な措置だったかどうかは疑問が残る。

周辺中東諸国で高まっている政治的民主化への対応で、国王が今後どのような改革を進めていくかが注目される。

<懸念材料はバーレーン情勢>
国内の反体制の動きを封じ込めることにはひとまず成功したが、懸念されるのは隣国バーレーンの情勢だ。バーレーン政府の要請を受けたとはいえ、3月14日に湾岸協力会議(GCC)軍としてサウジ軍を派遣したことを非難する海外の声もあり、このことがイランを巻き込んだ政治・宗派対立が広がるリスクになる可能性もある。

バーレーン情勢は、サウジの安定に影響を与える可能性も否定できず、サウジ当局は、今後はバーレーン情勢の鎮静化に注力するとみられる。21日現在、東部州でのシーア派住民による大規模デモや企業活動に影響を与えるような動きは確認されていないが、当面注意が必要だ。

(村橋靖之)

(サウジアラビア・バーレーン・中東・北アフリカ)

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