アンリツ、拠点開設の決め手は労働力の質とコスト競争力−欧州の新ビジネスモデルを探る(3)−

(ルーマニア)

ブカレスト発

2011年03月22日

情報通信分野で、計測器事業を展開するアンリツは、ブカレストにソフトウエア開発拠点アンリツ・ソリューションズを2010年10月に設立した。労働力の質やコスト競争力が設立の決め手となった。同社は、通信品質の監視問題解決(モニタリングソリューション)を提供するサービス品質保証(サービスアシュアランス)事業の開発力を強化する。

<サービス品質保証事業を担当>
サービスアシュアランス事業は、インターネット上を流れるデータ(データトラフィック)の大容量化による通信品質の低下に対応するため、通信事業者にモニタリングシステムの計測技術を提供する。同社は「MasterClaw」と呼ばれるシステムを通じてGSMなど各種通信方式に対応するネットワーク監視システムを提供し、携帯端末スマートフォンに代表されるモバイル・インターネット・サービスの通信品質を保証する。

アンリツ・ソリューションズは、アンリツがデンマークとイタリアで開発しているソフトウエアの品質評価、コーディング(プログラミングとほぼ同意語)とサポート業務を担当する。

<技術力とコストのバランスを評価>
ブカレストで行われたルーマニア法人開所式に出席したアンリツの山口取締役は「東欧諸国は急速にIT化、ネットワークインフラの構築が進展しており、開発拠点としてだけではなく、市場参入の足がかりとして意識している」と、開発能力と市場性の両面を評価している。

同社はルーマニアに開発拠点を設けた理由として、ITエンジニアの能力、労働コスト、地理的条件などを挙げる。特に、エンジニアの労働コストは、西欧にある開発拠点の3分の1程度で、欧州諸国の中でもコスト競争力で強みがあると判断した。

また、ルーマニアは西欧諸国との時差が1〜2時間のため、西欧の開発拠点への適時サービス提供が可能で、経営管理コストの点からも時差の大きいインドより優位にある。さらに、英語能力やエンジニアのレベルが高いという強みを生かし、将来的にはソフトウエア開発・サポートを世界各国に提供する拠点の1つとして、ルーマニア法人を成長させていく計画を持っている。

<目立つ外資系IT企業の進出>
ルーマニアでは、ソフトウエアプログラマー、IT技術者を活用するかたちで外資系企業の進出が増加している。10年12月には、ポーランドのABCデータによる地場スコプ・コンピューターズの株式51%の買収(推定500万ユーロ)など、外資系企業による地場企業の買収も数件あった。

同年11月には米国のグーグルが事務所設立、インテルが研究開発(R&D)拠点設立を立て続けに発表し注目を集めた。インテルのソフトウエア&サービスグループのカツォヒラキス副社長は、シェアード・サービス・センター(SSC)やソフトウエア開発拠点として魅力的な国だとして、労働力の質や地理的条件を進出理由に挙げている(2010年11月19日記事参照)

また、11年1月には、米国のIBMが、トランシルバニア地方トゥルグ・ムレシュ市に医療部門の研究センターを設立する計画が当地紙に報道された(「ジュルナルル」紙電子版1月31日)。IBMルーマニア経営責任者のトゥドール氏も、進出理由としてインテルのカツォヒラキス副社長と同様の理由を述べている。

ソフトウエア・サービス経営者協会(ANIS)は、10年のソフトウエアの輸出額を前年比10%増の4億4,000万〜4億9,500万ユーロと推計している。同協会のドラゴミール常務は「ソフトウエアの輸出は回復基調に入った」と語る。輸出の増加は、西欧や北米の需要回復が寄与したとみられる(「フィナンチアルル」紙1月31日)。

(余田知弘)

(ルーマニア)

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