ユニクロ、独自ブランドの構築で攻勢−欧州の新ビジネスモデルを探る(2)−
パリ発
2011年03月18日
ユニクロは2009年10月、パリにグローバル旗艦店をオープンした。1年を経た10年の秋冬商戦では早くも「カシミア=ユニクロ」というブランドイメージが定着した。今のところ、欧州での進出国は英国(14店)とフランス(2店)だけだが、今後、早い時期にほかの大都市にも広げていく。スウェーデンのH&Mなど大手競合ブランドに対して、独自の商品コンセプトのほか、「日本式の細やかなサービス」でユニクロブランドの構築を狙う。
<パリでの成功の陰に英国での苦い経験>
09年10月にオープンしたパリ・オペラ店は、欧州では英国オックスフォードストリート店に次ぐ2軒目のグローバル旗艦店だ。オープニングから大々的に仕掛けたマーケティングが奏功し、最初の1年でパリでは「カシミアセーター=ユニクロ」というイメージが定着した。さらに10年の秋冬商戦では「冬=ヒートテック=ユニクロ」というコンセプトが広がり、パリ・オペラ店の真田秀信・最高執行責任者(COO)によると「10年9月からの累計で、オペラ店は世界最大の売り上げを達成した」。
しかし、この成功は、欧州進出の先駆けとなった英国での苦い経験が生み出した成果でもある。海外初店舗をオープンした英国では、幹部に欧米大手ブランドH&M、River Island、GAP、NEXTなどの経験者を採用した。当時、英国事業のテコ入れを手掛けていた真田COOは「英国では昔からこうしている、といった現地のやり方に合わせすぎた」と振り返る。その結果、既存ブランドとの差別化があいまいになり、ユニクロのブランドイメージ確立が遅れた。とりわけ店づくりでは、さまざまなコンセプトがミックスされた統一感のないものになり、独自の店づくりができなかったという。
また日本で年間50店の出店ペースで多店舗化するユニクロは、英国でもロンドンに進出した後、バーミンガムに出店。早い時期に地方に展開したが、「物流などのインフラができておらず、オペレーションをコントロールできなかった」と振り返る。このことから「国の首都に大型店をつくり、物流インフラを整備しつつ、ブランドイメージを確立すると、地方展開しやすい」とのアイデアをつかみとっている。
<「from Tokyo」のブランドイメージを強化>
英国での事業展開に比べ、フランスでの足取りは慎重だ。開店に先立ち、05年に婦人カジュアル衣類ブランドの「コントワー・デ・コトニエ(CDC)」を展開するフランスのネルソン・フィナンスと、ランジェリーブランドの「プリンセス タム・タム(PTT)」を展開するプティ ヴィクルを買収。フランスでの出店や欧州でのネットワークの構築に備えた。その上で07年12月にパリ郊外のラデファンスにアンテナショップを開設。およそ2年のテスト期間を経て、09年10月、パリ市中心にグローバル旗艦店を開店した。
パリ・オペラ店では、英国での現地至上主義を退け、独自の店づくりに注力。最初からユニクロの強みを生かす手法に切り替えた。フランス人スタッフの育成にも、日本国内の店舗用に作成・使用しているマニュアルを適用。特に現地の店舗スタッフには「おつりは両手で差し出す」「店内にごみが落ちていたら拾って捨てる」「レジでお客さんを待たせない」など日本式の細やかな接客サービスを教え込んでいる。
通常、フランスの小売店では商品が乱雑に置かれていることも、レジで待つことも、売り場が散らかっていることも当たり前の光景だが、真田COOは日本式サービスを「欧州のサービススタンダードを変えるほど徹底してやる」との意気込みをみせる。ファッション性を重視するH&M、ZARA、GAPなど大手競合ブランドに対し、ユニクロは「ベーシックで良質なもの」「服にイノベーションをプラスしたもの」を提案、商品のコンセプトでも違いを押し出しているが、同COOは「商品は頑張れば作れる。しかし、商品だけでなく、オペレーションとスタッフの質でも差別化する必要がある」と話す。
「ユニクロが勝つためには、お客さんをがっかりさせないこと、売り場がいつもきれいなこと、レジで待たなくていいことなどで、評価してもらわないといけない」。日本式接客サービスの徹底で「from Tokyo」というユニクロ独自のブランドイメージを強化する考えだ。
<欧州事業に必要な人材は現地で育成>
ユニクロを展開するファーストリテイリングは、20年の売上高5兆円を目標に掲げる。欧州でも1兆円の売り上げを目指しており、今後、同地域での多店舗展開を加速させる。既に「パリ・オペラ店が話題になったことで、欧州各都市でもファッション雑誌などに取り上げられ、ユニクロの認知度は高まっている」という。
真田COOのコメントのとおり、欧州ではまず人口の多い都市に大型店を設置し、その店を軸にユニクロのブランドイメージを浸透させ、物流など国内のインフラが整った時点で、地方都市に進出していく。フランスではパリ市内の店を5店舗くらいまでに増やした上で、地方の主要都市に拡大する計画だ。
グループ傘下のCDCとPTTは既にドイツやスペイン、イタリアなどで店舗網を広げており、これらの国での事業展開が全くのゼロベースではないこともユニクロの強みだろう。
欧州での多店舗展開に必要な人材は、パリ・オペラ店でユニクロのDNAを身につけたスタッフにキャリアアップしてもらい、さらなる成長のチャンスを与えていく。ユニクロは、どの仕事ができればグレードは何で、給与がいくらと、全世界で統一した評価基準と昇給制度を設けている。能力と結果次第で誰でも昇給できるシステムを現地スタッフに明示することで、モチベーションの向上に成功した。
パリ・オペラ店ではオープニング当初に採用した200人のうち、ユニクロの企業理念にコミットしたほぼ半数のスタッフが残っている。真田COOは「スタッフは急激に成長している。09年10月のオープン時に300人以上で店を回していたが、10年末は260人くらいで前年以上の効率化を達成できた。早く出店しないと、彼らにこれ以上の成長のチャンスを与えられない」と話す。残ったスタッフ全員が将来の新規店舗の店長候補だ。急速な多店舗展開に備え、人材マネジメントでもグローバル化を進めている。
(山崎あき)
(フランス)
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