成功もたらす4つの要因−欧州の新ビジネスモデルを探る(1)−

(ユーロ圏、EU)

欧州ロシアCIS課

2011年03月17日

財政危機などの影響を受け、景気回復が遅れている欧州にあって、自社の強みを生かして積極的にビジネスを展開している進出日系企業や欧州企業がある。欧州で成功している7社にインタビューした結果、(1)ワンストップサービス、(2)コスト削減に寄与するサービス、(3)M&Aによる販売ネットワークとブランドの入手、(4)他社を圧倒する優位技術、という4つの成功要因が浮かび上がった。8回に分けて欧州での新ビジネスモデルを紹介する。

<環境分野にビジネスチャンス>
インタビューは2010年10月以降、パリ、ロンドン、ブリュッセル、デュッセルドルフ、ブカレスト、ミラノ、アムステルダムなどに事務所を持つ日系企業6社、現地企業1社に実施した。業種は環境、機械、繊維、アパレルなど。欧州経済の回復の遅れに伴うビジネス環境の厳しさに直面しながらも、いずれの企業も自社の製品・サービスの強みを見極めて欧州市場に果敢に取り組んでいる。

例えば環境分野について、日本の太陽電池製造装置メーカーのエヌ・ピー・シー(NPC)は「欧州は高い環境意識、政府の優れた支援プログラムもあり、アジア、北米よりも最優先している」とし、また、オフィス管理サービスのマイティー(英国)は「世界に類をみないリサイクル分別の先進国である日本企業には技術的優位がある」として、商機の潜在性を示唆した。

さらに、炭素繊維メーカーの東レは「12年以降、自動車の二酸化炭素排出規制強化があり、大型車メーカーには軽量化への切実な思いがある」とし、環境規制による軽量化技術にもビジネスチャンスがあることが分かったという。

また、欧州拡大のメリットを感じている企業もある。

紙幣入出金機メーカーのグローリーは「共通通貨を使用する地域では効率の良い販売が可能。ユーロ加盟国が増えることは市場がおのずと拡大すること」としている。

<4つの成功要因>
今回、7社へのインタビューから、(1)ワンストップサービス、(2)コスト削減に寄与するサービス、(3)M&Aによる販売ネットワークとブランドの入手、(4)他社を圧倒する優位技術、という4つの成功要因が浮かび上がってきた。

(1)ワンストップサービス
従来業務に加え、提案・改善サービスを提供することでワンストップサービスを行い、顧客の利便性を高めている企業がある。

マイティーは、オフィスのゴミ回収にとどまらず、資材調達時から包装を省くなどごみそのものを減量する提案や、コンプライアンス強化に対応する情報漏えい防止の書類処理サービスも行っている。

グローリーは銀行に紙幣入出金機を単体で納品するだけでなく、各行の独自インターフェースの開発サービスも提供しており、銀行との信頼感醸成に成功している。

アンリツはルーマニアにソフトウエア開発拠点を開設。西欧と時差の大きいインドよりも、時差が1〜2時間しかないルーマニアは、西欧に適時にサービス提供できる優位性があるとしており、顧客の利便性が高い。将来的には同拠点から、西欧だけでなく世界各国に対して開発・サポートを提供したいと計画している。

(2)コスト削減に寄与するサービス
イタリアではコスト削減の観点から、銀行員を減らして機械化を進めている。グローリーの紙幣入出金機は銀行の合理化競争に寄与している。

マイティーは、金融機関のコスト削減意識が高まり、オフィス管理費用を見直すところが多くなったことで、金融危機後にもかかわらず受注を伸ばしている。

(3)M&Aによる販売ネットワークとブランドの入手
競合する企業の買収や合弁会社を設立することで、メリットを獲得する企業も少なくない。円高ユーロ安の為替相場も後押ししているのかもしれない。

アシックスは北欧のトップブランドを買収したことで、それまであまり取り扱っていなかったアウトドア用品やウィンタースポーツ用品などを手にし、品ぞろえの強化に成功している。

NPCはドイツの競合会社を買収することで、買収先の強い販売ネットワークを手に入れた。

(4)他社を圧倒する優位技術
多くの企業は他社を圧倒する技術を売りにしている。

ユニクロは商品の品質だけでなく、スタッフの接客術の品質を高めることに注力しており、ほかの店との差別化に成功している。同社は、欧州のサービススタンダードを変えるくらいの気概を持ってやっている、としている。

東レは世界の炭素繊維生産の4割を占めている。同社はダイムラーと炭素繊維複合材料(CFPR)製自動車部品の製造・販売会社を設立、ダイムラー向けに部品の供給を開始する。

グローリーの防犯技術は非常に高い。銀行では同社製品が導入されていることを示すステッカーを貼り、強盗が押し入っても金を奪うことはできないとアピールしているほどだ。

欧州で成功するビジネスモデルはさまざまで、上記4つの要素はあくまで一例だ。

近年まで欧州ビジネスは拡大と深化への対応が主流だった。しかし景気後退面では、環境など新分野へのチャレンジや、限られた需要を新しい高付加価値技術やサービスで獲得していかなければならない。

(植原行洋)

(EU・ユーロ圏)

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