難民対策が喫緊の課題
ミラノ発
2011年03月10日
リビア情勢が混迷する中、天然ガス供給の停止や難民の流入などの影響が徐々に出始めている。リビアだけでなく、北アフリカからの難民対策は喫緊の課題になっており、政府は対応を迫られている。
<リビアは最大の原油輸入先>
イタリアとリビアは地理的にも近く、また歴史的にも関係が深い。イタリアは1911年、現在のリビア一帯を支配していたオスマントルコに戦争を仕掛け、翌12年に支配権を獲得した。その後、第二次世界大戦が始まり、43年にリビアを追われるまで、植民地支配は約30年間続いた。政府は現在も、エネルギー確保の観点からリビアを重視しており、2008年8月には両国首脳の間で「イタリア・リビア友好パートナーシップ協力協定」に署名するなど、友好関係を保っている。
両国の貿易関係をみると、恒常的にイタリアの輸入超過になっている。エネルギー輸入の多くを、リビアに頼っているからだ。イタリア統計局(ISTAT)によると、10年1〜11月のリビアからの輸入の66.9%は原油(約70億6,200万ユーロ)だ(表1参照)。次いで天然ガス(約19億1,900万ユーロ)が18.2%を占めており、原油と天然ガスを合わせると輸入全体の約85%になる。イタリアが輸入する原油の約23%はリビアからで、最大の輸入先だ。天然ガスは約11%がリビアからで、アルジェリア、ロシアに次ぐ3番目。
一方、輸出では36.6%を占める石油精製品(約8億7,000万ユーロ)が最大の輸出品目だ。次いで機械、自動車、計測器などの機械関係製品が続く(表2参照)。
<大手企業を中心に投資も活発>
イタリア貿易振興会(ICE)の報告によると、イタリアは欧州内で3番目、世界で5番目のリビアへの投資国となっている。100社以上が進出しており、その多くが石油、インフラ、建設用の製品や技術に関する機械分野関係の企業で、大企業が中心。例えば、石油・天然ガス分野では、ENI、EDISON、MaireTecnimontなど、建設分野では、Impregilo、Bonattiなど、輸送機器分野ではフィアットグループのIvecoなどが投資している。
最近では、航空宇宙・防衛産業最大手のFINMECCANICAが、リビア企業との合弁で設立したLIATEC(Libyan Italian Advanced Technology Company)の新工場が、10年4月に稼働を開始した。この工場はヘリコプターの組み立て工場で、ヘリコプターのメンテナンスや関係する技術のトレーニングサービスも展開する予定。将来的にはアフリカ市場への窓口になる工場を目指すという。
石油・天然ガス分野のENIは、リビアにとって非常に重要な存在だ。同社は1959年にリビアに進出し、石油と天然ガスの開発を続けてきた。経済紙「イル・ソーレ24オーレ」によると、ENIの現在までのリビア向け投資額は約500億ドルで、石油生産については2042年、メタン生産は47年までの契約があり、今後さらに200億ドルの投資計画があるという。
同社は2月22日、リビアでの天然ガス生産活動の一時的な中断により、イタリアへの供給も一時中断すると発表した。ただし、天然ガスには備蓄があり、またアルジェリアやロシアからの供給は継続しているため、イタリアの顧客への供給は続けられるとしており、今のところ影響は出ていないようだ。
<流入した難民で満杯の収容施設も>
政府は、混迷するリビア情勢への対応として、艦艇を派遣し、現地に残されているイタリア人や進出イタリア企業の従業員などの救出活動を行っている。また、一連の北アフリカ情勢の混迷に端を発した難民流入問題への対応として、人道ミッションの派遣を3月3日に決定した。
人道ミッションは、まずチュニジアの難民キャンプに対して、食料や医療支援を行う予定。特にチュニジアで働くエジプト人労働者が集まる難民キャンプに的を絞り、最終的にはその本国帰還を支援するとしている。このミッションに対して、政府は500万ユーロの予算を計上した。ロベルト・マローニ内相は「チュニジアからイタリアに流入する難民に先手を打つためでもある」と説明している。
今後、同ミッションは、シチリア州カターニアからリビアのベンガジに艦艇を派遣し、リビアの難民にも同様の支援を行うことを想定している。
しかし、11年1、2月には、北アフリカを中心とする6,333人の難民が132隻の船を使って既にイタリアに上陸した、との報道もある。その大多数がシチリア州南部のランペドゥーサ島に到着しており、現地の難民用一時滞在施設は既に収容可能数を上回っているという。
(三宅悠有)
(イタリア・中東・北アフリカ)
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