モロッコでもデモが発生−ジャスミン革命後の周辺国の動き(2)−

(フランス、中東、アルジェリア、モロッコ)

パリ発

2011年03月04日

モロッコでも2月20日、民主主義を求めるデモが行われた。アルジェリアは、政府がデモ鎮圧を強化する一方、非常事態宣言は解除された。後編は周辺マグレブ諸国の動向。

<モロッコ:街頭デモは比較的平穏に>
アラブ諸国の中でチュニジア政変の影響が比較的少ないとみられていたモロッコでも、2月20日に初めての大規模な街頭デモが行われた。首都ラバトのバブ・アルハッド広場には2,000〜5,000人が集まり、国会前を行進した。この日はカサブランカ、マラケシュ、タンジールなど20近くの地方都市でも市民が集まり、1万人近くが参加する大規模な行動となった。

「モロッコに民主主義を」と訴えたデモ隊は、王権縮小を求める穏健派や王制廃止を求める急進派など主張の異なる参加者を取り込んだ。チュニジアやエジプトとは異なり、国王ムハンマド6世への個人的攻撃はみられない。デモはフェースブック上で作られた「2月20日運動」と称するグループの呼び掛けを、人権保護団体のNGOやイスラム派団体「正義と慈善(アル・ワル・イッサン)」の青年部などが支持したもので、政党の積極的参加はなかった。

政府側は運動の規模縮小を狙い、「デモが中止された」と公式メディアで情報操作したと伝えられる。街頭デモはおおむね平穏に行われ、治安警察側も抑圧的な態度を見せず平静に治安維持に当たった。しかしマラケシュではデモに便乗して150〜200人のグループが商店から物資を略奪したり、公共建造物に被害を与えるなどの暴動がみられた。

大規模なデモへの対処について、イスラム政党の「正義発展党(PJD)」の書記長は、投獄されている同党幹部の解放と引き換えに反政府運動に参加しないことを政府に約束した。また同党青年部にも、デモに参加しないよう圧力がかけられたとされる。これに反対した同党の幹部3人が辞職した。ほかの野党の統一的な動きは今のところみられていない。

また、ムハンマド6世の従兄で、現在米国スタンフォード大学で研究員を務めるムレイ・ヒシャム公が2月20日、フランス国際テレビ局「フランス24」のインタビューに対し、今回のデモへの支持を表明。長い歴史のある君主制は正当だが、その継続のためには英国やスペインのような立憲君主制への移行が望ましいと発言した。政治に直接関与する立場にはない同氏の発言だが、王室内部にも活動への対処に異なった意見があることを示唆しているとの見方もある。

カサブランカで2月21日に開催された経済社会委員会で、ムハンマド6世は、構造改革を継続し「モロッコモデル」を実現すると発言しつつも、大規模デモについては「扇動的・即興的な流れには屈しない」と述べている。

<アルジェリア:非常事態宣言を解除>
アルジェリアでは2月12日と19日に人権保護団体などが組織する「民主主義への移行のための全国連携(CNCD)」が呼び掛けた「全国行進」(2011年2月4日記事参照)が行われた。しかし、4万人以上動員された警察官(アルジェリア人権保護団体の発表)による厳重な警戒体制に阻まれ、多数のデモ参加者が拘束された。

反体制側を統合したCNCDはその後、現ブーテフリカ体制の終結と毎週土曜日の全国行進を呼び掛ける「急進派」と、政府の発表した社会対策を受け入れてデモの休止を求める「穏健派」の2派に分裂した。

政府はデモ・集会を抑圧する一方で、2月22日には1992年2月以来敷かれていた非常事態宣言を解除する法令を閣議で承認し、2月24日に発効した。これにより内務省に与えられていた特権(司法手続きによらない逮捕、国会解散など)は廃止され、逮捕、家宅捜査、電話の盗聴などは司法官の管理下で行われることになった。また最長12日間だった警察での拘置は48時間に短縮された。

非常事態の解除に続き、住宅建設の大規模計画や若年層失業者に対する雇用推進策など社会問題解決のための諸施策が発表されており、政治面やメディア関連の開放策にも期待が寄せられている。

こうした政府の融和策にもかかわらず、学生デモや、市町村の職員、医療関係者、裁判所書記官による給与の引き上げ要求デモのほか、東部カビリ地方のアナバでは数千人の失業者が雇用を求めて街頭デモを行うなど、主張を示威する活動は各方面に広がっている。しかし、これらの活動は分散的に発生しており、野党を含む反政府勢力の歩調も合わず、分裂状態だ。

<アルジェリアよりモロッコの動向に注目>
2月15日にフランス国際関係研究所(IFRI)で行われた「新チュニジアの展望」と題する討論会に出席した「ル・モンド」紙のマグレブ専門ジャーナリスト、ジャンピエール=チュコワ氏は、「フランスのメディアではアルジェリアへの幻想と期待からチュニジアで起きたことがアルジェリアにも起こるという予想があるが、10年以上続いた内戦(注)の傷跡はまだ深く、再び内戦状態になることを国民は望んでいない。今の運動が全国的なまとまった動きになる可能性は少ない」と解説した。

同氏は一方、モロッコについては「メディアは国民の王政に対する反発がなく、反対運動が起きる可能性は低いと分析しているが、アルジェリアより可能性は高いとみる。王制廃止を求める声は少ないが、政治の根本的改革に迫られている」と発言した。

(注)91年の総選挙の混乱を機に始まった政府・軍とイスラム勢力の内戦。10年以上の間に6万人以上の犠牲者を出した。ブーテフリカ元外相が99年に文民として34年ぶりに大統領選挙で当選。武装解除や出頭した過激派に恩赦を与える和解策を打ち出し、内戦は終息に向かった。

(渡辺智子)

(モロッコ・アルジェリア・中東・北アフリカ・フランス)

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