原油・食料価格高騰でインフレ懸念、2年ぶりの利上げ−リビア進出企業は撤退も−

(リビア、ロシア、中東、アフリカ)

モスクワ発

2011年03月02日

混乱するリビアに進出しているロシアのエネルギー関連企業は操業を取り止め、関係者は既に退避を始めている。アラブ情勢混迷の長期化によって原油価格が高騰し始め、国内のインフレ懸念がこれまで以上に高まっていることから、ロシア中央銀行は約2年ぶりに政策金利を引き上げた。

<リビア進出企業は国外退避開始>
反政府デモの規模が拡大し国内が内戦状態に入ったリビアには、ロシアのエネルギー関連大手が進出しており、いずれも操業できない状況に陥っている。

ガスプロムは2006年からリビアの天然ガス鉱区の探鉱を行うとともに、権益を獲得している。反政府デモが起きた翌日の2月16日、イタリアの政府系エネルギー企業エニ(ENI)からリビアでの原油採掘事業の権益の一部を譲り受ける契約を締結したばかりだった。ガスプロムの発表(2月16日)によると、この契約はその後、リビア側の許可を経ることになっているが、プーチン首相は2月24日、訪問先のブリュッセルでの記者会見で、「リビア市場でロシアとイタリアが協力する事業については、条件が整っていない。いま誰がリビアに行くというのか」と述べ、状況を注視していく考えを示した。

ガスプロムよりも早く05年にリビアに進出したタトネフチは、現地の国営石油会社と合弁で原油の採掘を行っているが、既に80人を超える関係者のほとんどが国外に退避した。タトネフチの本社があるタタルスタン共和国のファリド・ムハメトシン共和国議会議長によると、操業停止による同社の損失は2億ドルに上るという(イタルタス通信2月25日)。

ロシア鉄道は08年4月、スルト〜ベンガジ間550キロの地中海沿岸の鉄道敷設工事を受注した。子会社が工事を請け負っているが、2月16日から中断しており、政治情勢が安定しない限り再開のめどは立たない。ロシア鉄道から派遣された社員はロシア非常事態省の航空機などで避難を開始した。工事には総勢3,500人の労働者が従事していたが、2月25日現在、ロシア鉄道社員123人、外国人労働者700人がリビアに残っている(インターファックス通信2月28日)。

<政府、物価抑制強める>
アラブ諸国の混乱の長期化に伴い、原油価格が高騰している。ブルームバーグのデータによると、北海ブレント原油のスポット価格(2月28日)は1バレル当たり112.65ドルに達した。米国エネルギー情報局(EIA)によると、2月18日のロシア・ウラル産原油価格は99.28ドルで、08年9月以来の最高値を記録した(図1参照)。これを受け、原油価格上昇によるインフレ押し上げ懸念が浮上している。

図1ウラル産原油価格の推移

加えて10年夏の猛暑の影響で食品価格が上昇し、11年の消費者物価上昇の勢いは10年よりも強くなっている(図2参照)。2月21日時点の物価を前年12月比でみると、ジャガイモは23.9%、キャベツは20.9%、白砂糖は8.5%上昇した。

図210年と11年の消費者物価上昇率

ロシア、ベラルーシ、カザフスタンで構成される3ヵ国関税同盟は、甘しょ糖の一部の品目の関税を3月1日〜4月30日までの間、1トン当たり140ドルから50ドルに引き下げる決定をした。このほか、連邦反独占局が食品の不当な値上げを調査し摘発するなど、政府は物価抑制に本格的に取り組み始めた。

<中銀、政策金利を0.25ポイント引き上げ>
ロシア中央銀行は食料価格と原油価格の高騰という国内外の2つの要因によりインフレ圧力が高まっているとして、2月28日から政策金利を7.75%から8%に引き上げた。引き上げは08年12月以来。中銀は11年に入って預金準備率の引き上げを行っているが、今回の政策金利引き上げと同時に、再び預金準備率を引き上げた。

業界アナリストによると、これまで続いてきた金利など資金調達コストの低下は終わったという。政策金利は夏ごろまでに8.25%、年末までには8.5%に引き上げられるとみられている。しかし、投資会社メトローポルのアナリスト、マーク・ルビンシュテイン氏は「金融危機の時に比べると、金融機関が中央銀行から資金を調達する必要はないので、金融機関の金利政策に大きな影響を与えることはない」と分析している(ビジネス紙「RBKデイリー」2月28日)。

(浅元薫哉)

(ロシア・リビア・中東・北アフリカ)

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