ムバラク大統領辞任、6ヵ月以内に新政権発足へ

(中東、エジプト)

カイロ発

2011年02月15日

2011年2月11日、ムバラク大統領の辞任が発表され、長期政権に終止符が打たれた。同大統領から権限を委譲された軍の最高評議会は2月13日、議会の解散と憲法の停止を発表。今後6ヵ月以内に議会選挙を行い、新政府を発足させる方針で、平和的な権力の移行が行われるか注視される。

スレイマン副大統領は2月11日、ムバラク大統領が辞任し、軍の最高評議会に権限を委譲する、と国営テレビを通じて発表した。報道によると、大統領はカイロから紅海に面したシャルム・エル・シェイクに移り、国外には退避していないという。

<対話図るもデモの勢いは止まらず>
週明けの2月6日以降、銀行や多くの企業は業務時間短縮などの措置を取りながらも経済活動を再開させ、日常生活を取り戻し始めていた。スレイマン副大統領も、反政府運動側や野党、賢人委員会などとの対話を開始。大統領の即時退陣を話し合いの条件としていた穏健派イスラム原理主義組織、ムスリム同胞団も対話に応じ始めていた。大統領選出に関する憲法の条項の改正、先の人民議会選挙結果に対する不服申し立て裁判の実施、国民対話のフォローアップのための委員会設置、などで合意したと報じられていた。

しかし、当局に拘束されていたグーグル幹部のワエル・ゴニム氏(フェースブックを通じて1月25日の集会への参加を呼び掛け、1月28日に当局が拘束)が2月8日に釈放されると、同氏に影響を受けた市民のデモが勢いづいた。スレイマン副大統領やアブルゲイト外相からは、こうしたデモ活動が長期化し、エジプトを無秩序な状態に陥れるのであれば軍事介入せざるを得ない、との発言も出るようになった。

大統領辞任が発表された2月11日、タハリール広場をはじめ多くの場所で市民が祝福する様子が報道された。大統領の辞任発表直後、ワエル・ゴニム氏はCNNのインタビューに対し、「今は祝福するのみ。仲間も含め連日睡眠不足のためしばらく休む。自分は政治家ではないので、軍の最高評議会が信頼できるかどうかコメントできないが、エジプト8,000万人の国民を信じている。会社に戻り仕事をする」と話した。同様の事態が次に起こる可能性のある国はどこかという問いには、「フェースブックに聞いて」とコメントした。

今回のデモでインターネットの果たした役割は大きい。国内通信分野のGDP成長率をみても、10年は前年比13.3%と著しく伸びている。しかし、中央動員統計局によると、インターネット加入者数(09年10月現在)は1,402万人と、携帯電話登録者数5,300万人に比べると多くはない。

なお、デモ参加者にリーダー格はおらず、政権打倒後の共通したビジョンがないため、軍部に任された新政権発足は容易ではない。

<軍最高評議会、議会の解散と憲法の停止などを発表>
軍の最高評議会は2月13日、議会を解散、現行憲法を停止し、今後6ヵ月以内に議会選挙を行い新政権を発足させる、と発表した。現在の議会は10年11月28日に行われた選挙で選出された。しかし、同選挙の第1回投票では、前回(05年)選挙で議席の20%近くを獲得して躍進したムスリム同胞団系の無所属候補が1議席も獲得できず、同胞団や野党は不公正だとして、12月5日の決選投票をボイコットしていた。こうした経緯もあり、今回のデモでも、同選挙結果への不服申し立て裁判の実施を、要求の1つに掲げた。

現行の憲法は、米国が01年9月11日の世界同時多発テロ以降、中東の民主化構想を推し進め、エジプトでも長年抑圧されていた民主化要求運動が活発化する中で、07年3月に改正された。しかし、この憲法改正は野党やムスリム同胞団系の無所属議員がボイコットした信任投票で可決され、内容も民主化の流れに反して大統領の権限をさらに強化するものだった。

大統領選挙への立候補条件を定めた第76条の改正では、立候補者を擁立できる政党を、結党5年以上で議会で3%以上の議席を持つものとし、候補者は所属政党で1年以上の幹部経験を持つ者に限るとの条件が規定された。無所属の場合、250人の推薦(うち人民議会から65人、シューラー評議会から25人、地方議会議員から14人の推薦)が必要となり、議会で多数を占める与党に有利な内容となっていた。このため、今回のデモで、反体制側はこの点の改正を強く要求していた。

こうした背景もあり、軍の最高評議会は、議会の解散、憲法の停止などで、民主化プロセスに向け動き始めた。同評議会は国際的・地域的な約束、条約の順守を約束しており、その中にはイスラエルとの平和条約維持も含まれる。先の人民議会選挙、憲法改正はいずれも野党などが投票をボイコットし、投票率は10年12月の人民議会決選投票は27%、07年憲法改正信任投票は24.1%と低かった。異なる主義主張をいかに民主的にまとめていくことができるのか、今後のプロセスが注視される。

(薮中愛子)

(エジプト・中東)

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