中東の混乱で原油価格上昇を懸念
ニューデリー発
2011年02月14日
政治・経済面でそれほど緊密な関係がないため、エジプトの騒乱については強い関心を示しつつも、形勢を静観している。ただし、中東情勢の不透明化による原油価格の上昇は、大きな懸念材料で、状況によっては通商・金融政策の見直しを迫られる可能性もある。
<平和的な解決を期待>
ともに非同盟主義を掲げるエジプトとの関係は、1955年に当時のネール首相とナセル大統領によって友好条約が締結されて以来、良好に推移している。直近では、ムバラク大統領が2008年にインドを訪問し、シン首相が09年にエジプトを訪問している。
政府によると、在エジプトのインド系住民は約3,500人で、うち3,300人がインド国籍を持つ技術者や労働者、残り200人がインド系のエジプト人だ。エジプトは観光地としても人気が高く、年間約9万人が観光で訪れている。政府は、エジプトで足止めされたインド人観光客や駐在員の一部を帰国させるため、1月末に2機のチャーター機をカイロに派遣している。
両国の貿易関係はそれほど緊密ではない。インドの対エジプト輸出は14億ドル(輸出総額は1,788億ドル)で、繊維製品、石油関連製品(軽油など)、機械類、輸送機器、食肉など、品目ごとに分散している。一方の輸入は17億ドル(同2,884億ドル)だが、8割以上が原油・天然ガスで占められており、典型的な対資源国貿易となっている(表参照)。
在カイロのインド大使館によると、エジプトにあるインド系企業は、合弁企業が7社、子会社が11社、ほかに駐在員事務所や連絡事務所などが300ヵ所程度ある。主要企業は、GAIL(天然ガス)、Birla(化学・繊維)、Emami(消費財)、Dabur(消費財)、Kirloska(エンジン・ポンプ)、Jindal(鉄鋼)、Mahindra(自動車、IT)、Ranbaxy(医薬品)、Tata(IT)、Wipro(IT)、Oberoi(ホテル)など。
インド企業にとってエジプトは、中東・アフリカの主要市場であるほか、アフリカ諸国への輸出・営業拠点にも位置付けられている。ほとんどの企業が、カイロまたはアレクサンドリア周辺に進出している。デモによる混乱や妨害を避けるため、一部で操業を停止したり夜間の操業を控えたりする動きが出ているようだ。
エジプトの混乱に対して、政府は今のところ、静観の立場を取っている。外務省は2月1日、「平和的な解決を期待する」との手短な声明を発表しただけだ。しかし、2月3日にはクリシュナ外相が、デモ参加者にインド人ジャーナリストが襲撃された事件に対して遺憾の意を示すとともに、現地取材の自粛と注意喚起を呼び掛けている。
メディア各社は、エジプトの動向については連日トップニュースで取り上げているものの、政治・経済的な結び付きが希薄なためか、報道される内容には客観的な論調が目立つ。主要紙「ヒンドゥー」(2月1日)は「インドは内政不干渉の立場を貫き、外国に民主主義を強いるような行動は控えるべきだ。政府は公式声明の中でエジプト国民に理解を示し、またエジプト政府が早くそうした国民の声に耳を傾け、平和裏に事態を収拾するよう促せ」という社説を掲載した。
<油価高騰が悩み>
一方で、エジプト騒乱に伴う原油価格の上昇に懸念の声が挙がっている。小売価格が統制されている石油元売公社は、最近の油価高騰で多額の赤字を計上している。足元では、1リットル販売するごとにガソリンは1.9ルピー(1ルピー=約1.8円)、ディーゼル油が9.2ルピー、灯油が21.6ルピー、家庭用液化石油ガス(LPG)は14.2リットル入り1本当たり400ルピーの損失となっている。
この損失は政府と公社で折半しており、財政健全化を図る上で最大の足かせとなっている。食料品の高騰をきっかけにしたインフレが沈静化しない状況下、産業界の意向に反して、政策金利は上がり続けている。この段階でのエネルギー関連製品の値上げはさらなる物価上昇を招くことは確実で、政府内には焦燥感が広がっている。
(河野敬)
(インド・中東・北アフリカ)
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