アラブの騒乱に国民は高い関心
モスクワ発
2011年02月03日
親子の世襲政権が17年にわたって続くアゼルバイジャンでも、チュニジアやエジプトなどアラブ諸国での一連の反政府活動に対する関心が高まっている。現地専門家は、反政府系メディアはこれらの国との政治体制の共通性を基に大きく報じているものの、短期的には国内で同様の動きが起きることはないとみている。
<欧州機関は議会選挙の有意性を疑問視>
アゼルバイジャンでは、ヘイダル・アリエフ(在職1993〜2003年)、イルハム・アリエフ(03年〜現在)の親子が17年間にわたって大統領の座を占めている。10年11月に行われた議会選挙では、イルハム・アリエフ大統領が党首を務める新アゼルバイジャン党が議席の過半数を獲得した。アゼルバイジャン人民戦線党やムサワト党といった有力野党は議席を失った。
議会選挙の監視活動をした欧州安全保障協力機構(OSCE)の民主制度・人権事務所は、11年1月25日に発表した最終報告書の中で、「有意で競争性のある選挙のための一定の必要条件は、今回の選挙で欠落していた。平和的な集会、表現の自由が制限されており、自由で独立したメディアを通じた政治的議論はほとんど不可能だった」と厳しく評価している。
このような政治体制や社会に対してアラブ諸国での反政府活動がどのような影響を及ぼすか、現地の独立系政策調査機関「プロファイル」のアキフ・アブドゥラエフ社長に聞いた。
<メディアによって異なる報じ方>
問:アゼルバイジャンのメディアは、チュニジアのジャスミン革命、エジプトでの反政府デモなどを伝えているか。
答:もちろんメディアはアラブ諸国での社会的騒乱を報じているが、メディアによって報道する内容と量が異なっている。政府系紙や国営テレビ放送の報道は十分とはいえない。また、デモ参加者を非難する向きもあり、「無秩序な群衆」とか、「暴力集団」などと評している。多くの民間メディアも当局の影響下にあるため、報道内容はそう変わらない。
民間放送局のANSテレビはある程度の中立性を保ち、特段の評論をせずに報じている。「新ムサワト」紙(野党ムサワト党が発行)やラジオ局「アザドリグ」〔ラジオフリーヨーロッパ・ラジオリバティー(RFE/RL)のアゼルバイジャン語放送〕は最近の動向を大きく報じ、アラブ諸国とアゼルバイジャンの政治体制を比較するように論じている。
問:国民は一連のアラブ諸国情勢を関心を持ってみているか。現地有識者は政治への影響について何か論評しているか。
答:国民は非常に大きな関心を持って見ている。アラブ諸国との政治体制の類似性が関心を呼び起こしているのは明らかだ。自国への影響について、大学や職場のほか特にインターネット上で議論されている。
政府系紙に登場する当局に近い専門家は、一連の騒乱を当該諸国の政治によるものではなく、西側諸国によって引き起こされたものだとしている。独立系の専門家はそれほど偏向していない。それぞれの国の汚職の横行、専制的な体制、反体制派の抑圧、物価上昇、失業といった要因が社会的な不満を増大させた、と論じている。これらの要因は国内にもあり、社会的騒乱が起きる可能性は否定できない。しかし、専門家によって可能性の度合いについての考え方は異なる。
<直ちに波及することはない>
問:政府や大統領は反応や声明を出しているか。
答:大統領は今のところ、アラブ諸国の騒乱に対してコメントを出していない。しかし1月27日に唐突に、ラミズ・メフディエフ大統領府長官が議長を務める汚職対策に関する国家委員会が開催された。政府筋によると、この会議はアラブ諸国での騒乱を受けて招集されたようだ。汚職問題のほか、当局の恣意(しい)的な制度運用についても議論されたという。政府内で何らかの緊張が生じたのでは、と分析する専門家もいる。
問:アゼルバイジャンの政治体制に対する今後の影響をどうみるか。
答:アラブ諸国とアゼルバイジャンの政治体制には多くの類似点がある。そうはいっても、アゼルバイジャンで同様の活動が起こる可能性は、短期的にはないだろう。奇妙な話だが、国民の政治に対する無関心や、民主的活動が正常に機能していないことが、この国の政治体制を安定化させる役割を果たすだろう。しかし、その状況はそう長く続かないかもしれない。
(浅元薫哉、エカテリーナ・クラエワ)
(アゼルバイジャン)
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