ムバラク大統領、就任以来初の副大統領任命
カイロ発
2011年02月01日
大規模なデモは31日現在も続いている。29日、ムバラク大統領は内閣を解散、就任以来初めて副大統領を任命した。内閣改造では納得がいかないと訴える一部の人々は、外出禁止令が出されたにもかかわらずデモを続けており、沈静化に向けてムバラク大統領の対応が急がれる。
<デモ沈静化の兆しなし>
首都カイロでは、25日に大規模なデモが行われた議会、省庁などが集中するタハリール広場の警備が強化されたこともあり、28日は同広場に続く10月6日橋付近を中心に大規模なデモが行われた。投石する一部のデモ参加者と、催涙弾などを使用して沈静化を図る警察側との衝突が複数の地元テレビ局や国際テレビ局で放映された。25日にはフェースブックやツイッター、携帯のショート・メッセージ・サービス(SMS)での呼び掛けでデモが拡大するのを防ぐため、インターネット回線と携帯電話が遮断された。
しかしデモは拡大を続け、外出禁止令が発表された(28日18時〜29日7時)。一部のデモ参加者は外出禁止令に背き、夜通し訴えを続けた。与党国民民主党本部が入居するビルに火が放たれる中、28日22時すぎには軍が出動した。デモ参加者は軍を歓迎している様子だが、軍は直接的に沈静化を図る行動に出ることはなく、街中にとどまっている。
ムバラク大統領は1月29日未明、今回の大規模デモ以来初めて地元テレビ局を通じて国民にメッセージを伝えた。引き続き発言の自由を約束するものの、一部の国民が社会の秩序を乱し、市民の生活を脅かしていることを懸念。自由とは無秩序な状態を引き起こすことではないとし、大統領として最大の責務である国家の安全と安定を最優先課題として取り組むと述べた。
また、雇用の創出、生活の向上、貧困対策が急務なことを理解しており、国民の苦しみの度合いも理解していると話した。暴力ではなく平和な手段で問題に取り組む必要があり、政府としても生活向上策を一部のエコノミストに任せることはしないとし、29日中に内閣を解散し、30日に新内閣を発表すると表明した。
29日は7時に外出禁止令が解除され、携帯電話は10〜11時に復旧した。しかし、28日の夜中から29日にかけ、ハイパーマーケットやショッピングモールなどで略奪、放火が続き、警官の姿は街から消えた。一部の市民が自衛団を組成している。29日は、前日より2時間早い16時から30日8時までの外出禁止令が出されたが、29日もタハリール広場に集まる一部の人々の姿は絶えなかった。
<治安を優先した人事>
ムバラク大統領は1月29日夕刻、就任後初めて副大統領を任命した。副大統領に任命されたのはオマール・スレイマン情報庁長官。首相にはアハマド・シャフィーク元空軍司令官を任命した。ムバラク大統領自身も空軍出身者で、治安を優先した人選であることがうかがえる。
1月30日は多くの政府・企業にとって週明けの出勤日だが、カイロには依然として警官の姿はなく、主要道路に軍の姿があった。空港には日本人を含む多くの観光客が足止め状態になっている。多くの日系企業は自宅待機措置を取っており、家族や一部の駐在員を退避させるにも空港で足止めになっているケースもあるようだ。
30日もタハリール広場には引き続き一部の人が集まり、大統領の退陣を求めていると報道されている。こうした中、ムバラク大統領がスレイマン副大統領や軍部と対策を練る会議の映像が映し出されたり、外出禁止が始まる16時前に初めて戦闘機2機がカイロの上空を飛び、軍のプレゼンスを示すかのようなパフォーマンスを行ったりした。
<具体的な後継者はまだみえず>
30日は外出禁止令の中でエルバラダイ前国際原子力機関(IAEA)事務局長がタハリール広場に姿を見せ、「エジプトは元には戻らない。変化は必ず訪れる」とデモ参加者を支持する姿が報道された。今回のデモ参加者には複数のグループがあり、リーダー格はいないといわれる。必ずしもエルバラダイ前IAEA事務局長を支持する人々ばかりではない。ムスリム同胞団が野党一致を呼び掛ける動きも報道されている。ムバラク大統領退陣後は「人々が決めること」と報道されているように、デモ参加者、市民が望む具体的な後継者の姿などはまだみえてこない。
ムバラク大統領は1月31日には警官が街に戻ってくると発表。実際、31日の朝、通勤途上で警官の姿も見られた。朝は静けさを取り戻しているが、車の通りは少なく、主要道路は軍が押さえている。軍は複数地域の刑務所から混乱に乗じて逃亡した脱獄犯を追うなど、治安の維持に努めている。
タハリール広場には31日現在も人が集まっており、31日は1時間繰り上げ15時から外出禁止となる予定。昼すぎには内務相にマフムード・ワグディ氏が任命されるなど、新たな内閣メンバーが発表される中、治安の確保と対策が急がれる。
ムバラク大統領は国民の声に応えることができるのか。引き続きかじ取りが注視される。
(薮中愛子)
(エジプト・中東)
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