レバノン情勢にも緊張感高まる
テルアビブ発
2011年02月01日
チュニジアの政変から飛び火したエジプト反政府デモの混乱が、国内経済や今後の和平交渉に影響を及ぼすのではと懸念する声が出始めている。さらに、レバノンで発生した内政をめぐるデモについても、その先行きを懸念するメディアは多い。パレスチナでは、カタールの衛星テレビ局アル・ジャジーラなどが、中東和平交渉に関連するパレスチナ側の情報をリークした問題を受け、打ち消しに追われている。中東情勢の先行きに不透明感が強まってきた。
<レバノンの政権崩壊でガス田開発に支障も>
イスラエルではエジプトでの反政府デモの影響とともに、レバノンの内閣崩壊と新首相の指名、それに伴う国内各地でのデモ発生などの混乱を、緊張感を持って報じている。イスラエルとレバノンのヒズボラ(イスラム教シーア派の急進的政治組織)の間で、2006年夏に軍事衝突(イスラエル政府は同衝突を「戦争」と定義)が発生しており、両国の緊張が今なお続いているためだ。
レバノンでは、親米派のハリリ暫定首相が率いる挙国一致内閣が崩壊し、11年1月25日、スレイマン大統領がヒズボラの支持を受けたナジブ・ミカティ元首相を首相候補に指名した。親米派のハリーリ暫定首相支持派がこれに反発して国内各地で抗議デモを展開、一部では治安部隊との衝突も発生した。
イスラエルと緊張関係が続くヒズボラの影響が強い首相が就任すれば、対イスラエル外交にも影響することが予想される。イスラエル国内の報道では、政府・軍としてはヒズボラがレバノンを支配したとしても、両国がすぐに大規模な軍事衝突に至ることはないとの見方を示している。ただ、ヒズボラの背後にいるイランの影響力が、イスラエルとレバノンの国境線まで迫ってくるという懸念は、一層大きくなりつつある。
レバノン情勢の不安定化で、イスラエル北部・ハイファ沖海底の天然ガス田開発への影響が懸念される。この件では、イスラエルとレバノンの海上境界線についての認識の食い違いから、海域の領有権をめぐり対立が続いており、今後レバノンで対イスラエル強硬派のヒズボラが主導権を握った場合、同ガス田開発に支障が出る恐れがある。
<情報リーク問題に揺れるパレスチナ>
パレスチナでは、アル・ジャジーラなどが公開した08年ごろの中東和平交渉に関する機密情報が内政上の問題を引き起こし、デモが発生している。同情報には、パレスチナ自治政府が首都と主張する東エルサレム内のユダヤ人入植地の大部分を、イスラエル側に譲歩することを政府自身が認める案などを提示していたという内容が含まれていた。このため、アッバース大統領をはじめ政府高官は打ち消しに追われている。
パレスチナ自治政府は、リークされた情報について「でっち上げ」と反論しているが、ガザ地区・西岸地区の両地区でアッバース大統領を批判するデモが発生している。一方で、パレスチナ民族解放運動(ファタハ)支持者は、アッバース大統領支持のデモを行うなどの混乱が続いている。
なお、イスラエルでは、今回リークされた内容がイスラエル側にとって特段不利な内容ではないことから、主にパレスチナ内の混乱を報じているにとどまる。報道では、オルメルト前首相の、当時のイスラエルがいかに和平交渉に力を入れ、妥結する姿勢であったかということ、そしてイスラエル側のこうした姿勢にもかかわらず、パレスチナ側の拒否で締結に至らなかったことなどの主張が伝えられている。イスラエルの政府関係者からは、本件に関するコメントや発表は今のところない。
(中村志信)
(イスラエル・レバノン・パレスチナ)
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