20年までに電力の20%を再生可能エネルギーで−アジア大洋州の再生可能エネルギー政策−

(オーストラリア)

シドニー発

2010年10月12日

政府は2020年までに電力の20%を再生可能エネルギーで賄うことを目標に掲げている。小売電力事業者は再生可能エネルギーによる電力の一定量の買い取りを義務付けられている。消費者や企業にはさまざまな補助金や支援プログラムがある。各州も各種の支援制度を設けている。

<炭素汚染削減計画の導入は13年以降に延期>
政府は09年春から、炭素汚染削減計画(CPRS)関連法案の成立を目指してきたが、野党自由党の反対で上院で2度にわたって否決された。

09年12月の国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)が不調に終わったことなどから、ラッド前首相は10年4月、CPRSの導入を京都議定書の期間が終わる13年以降まで延期せざるを得ないと発言。ギラード首相も前政権の方針に変わりはないとしている。

<小売電力事業者に販売電力の買い取り義務>
政府は再生可能エネルギーの利用促進を目的とした目標制度(RET)を設定している。09年8月にはRET関連法案の「再生可能エネルギー修正法2009」が可決された。

同法では、20年までに電力の20%を再生可能エネルギーによる発電で賄うとし、10年時点では年間1万2,500ギガワット時(GWh)、20年までに年間4万5,000GWhを目標とする。同法はまた、これらの目標を達成するため、小売電力事業者に対しては、販売電力量の一定割合について、再生可能エネルギー証書(REC、注)の買い取りを義務付けた。

気候変動・エネルギー効率化・水資源省は10年10月6日、RETの一部を改正し、11年1月から発電規模に応じて大規模発電(LRET)と小規模発電(SRES)に分割し、大規模発電(風力、商業用太陽光および地熱)で4万1,000GWh、残りを小規模発電(家庭用太陽光発電や太陽光温水器など)で達成するとした。小規模発電については発電量に応じて、RECを1メガワット時(MWh)当たり40オーストラリア・ドル(豪ドル、1豪ドル=約80.8円)で買い取る施策に変更した。

<個人宅と学校での利用推進に補助金>
気候変動・エネルギー効率化・水資源省は、再生可能エネルギーに関連したプログラムとして、10年9月現在、以下の4つのプログラムを実施している。

○太陽熱温水システムまたはヒートポンプシステムを購入した家庭などに対して、一定額を払い戻す制度
○太陽熱温水システム、再生可能エネルギーシステムなどを導入した学校に対して、一定額の助成金を支給する制度
○風力、太陽、地熱、海洋、バイオエネルギー、送電線、各種発電所などの情報提供
○再生可能エネルギーに関する各種の情報提供

<低炭素化に向けた実証実験にも支援>
資源・エネルギー・観光省は09年5月に、CPRSとRETを補う計画としてクリーンエネルギー・イニシアチブ(CEI)を発表した。CEIは、低排出エネルギー〔炭素回収・貯留(CCS)および太陽エネルギーを含む〕技術の研究開発と実証を支援する以下の3つのプログラムで構成されている。

○CCSフラッグシッププログラム
石炭ガス化複合発電(IGCC)2件と物流インフラプロジェクト2件の合計4件が09年12月に選定された。

○ソーラー・フラッグシップ・プログラム(SFP)
送電網に接続する大規模な太陽光と太陽熱発電所に対して、15億豪ドルの予算で実証支援を行う。規模は1,000メガワット(MW)を目標とし、対象案件は4件。

プロジェクトの選定は2回に分けて実施される。第1回候補案件として10年5月に8件が公表されており、この中から太陽光発電と太陽熱発電各1件が選定される予定(目標400MW、表1参照)。候補案件には三菱商事、三井物産、シーメンスなど外資系企業もかかわっている。なお、第2回選定は、第1回実証結果を確認した後、13〜14年に実施が予定されている。

表1第1回候補案件リスト

○再生可能エネルギーのためのオーストラリアセンター(ACRE)
再生可能エネルギーの技術開発、競争力拡大、商業化を目的とした政府機関として設立。主なプロジェクトなどは以下のとおり。

(1)ACREのソーラープロジェクト
再生可能エネルギーの技術開発を促進し、太陽光発電のコスト低減などを図るため、以下の2実証プロジェクトに対し9,200万豪ドルの支援を行う。

・CSエネルギー(支援額:3,180万豪ドル):小型線状フレネル反射器(CLFR・オーストラリアAusra開発)をクイーンズランド州ブリスベーン北西にあるコーガンクリーク石炭焚(た)き火力発電所に設置。23MW相当の蒸気を同発電所に供給する実証プラント。

・N.P.パワー(支援額:6,000万豪ドル):パラボラディシュ型太陽集熱器実証プラント(オーストラリア国立大学で技術開発・オーストラリア企業3社で構成される企業体)を南オーストラリア州アデレード北西にあるワイアラに設置。40MW相当の実証プラント。

(2)第二世代バイオ燃料の研究開発プログラム(開発・実証)を推進する資金の提供。

(3)地熱開発の掘削に必要な資金を提供(予算総額5,000万豪ドル)。これまでに表2のプロジェクトに対して承認済み。

表2資金提供を受けた地熱開発プロジェクト

<州政府もさまざまな支援>
各州政府も再生可能エネルギーなどに対する各種支援制度を設けている。10年9月に、ビクトリア州と西オーストラリア州で再生可能エネルギープロジェクトに関して以下の報道があった。

○ビクトリア州
州政府は、オーストラリア電力TRUenergyが州北西部ミルデューラに計画する太陽光発電所に1億豪ドル出資する。6万世帯の電力需要を満たし345GWhを供給する国内最大級の太陽光発電施設となる。同首相はさらに、20年までに農村部に数ヵ所の大規模な太陽光発電所を建設したいと発言している。

同州では、風力や太陽光発電の積極的な誘致を行っており、第一次産業省がエネルギー技術イノベーション戦略(ETIS)を策定し、褐炭の低排出ガス研究開発などに対する資金の補助を実施している。さらに08年4月から以下の2種類の支援を設定している。

(1)大規模で持続可能なエネルギー実証プロジェクトに対し7,200万豪ドルの資金を用
意。このうち2,500万豪ドルは、ジーロング地熱発電プロジェクトに対して支援を行う。
(2)CCSに、1億1,000万豪ドルの支援を行う。

○西オーストラリア州
コリアー州エネルギー相が、州中西部ジェラルドトン近郊に建設を予定している年間10MWh規模の太陽光発電プロジェクトに対して、総工費の約34%を負担する用意があると発表。同発電所は送電網に接続する太陽光発電所としては国内最大級となり、今後に予定される大規模プロジェクトの基礎になるとしている。

なお、国内の再生可能エネルギー市場については、ジェトロが10年3月に「オーストラリアにおける再生可能エネルギー市場の動向調査」を実施しており、主要な既設プロジェクトなどはジェトロのウェブサイト(PDF)を参照願いたい。

(注)RECは再生可能エネルギーによる電力の売買を円滑にするため、それを証券化する制度。再生可能エネルギーによる電力1MWh当たりRECが1枚、再生可能エネルギー担当官オフィスから発行される。電力系統が直接つながっていなくても、RECを購入することで小売電力事業者は再生可能エネルギーによる電力を購入したとみなされる。

(込山誠一郎)

(オーストラリア)

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