豊富な再生可能エネルギー資源にビジネスチャンス−アジア大洋州の再生可能エネルギー政策−

(タイ)

バンコク発

2010年10月06日

エネルギー省が3年ごとに改訂する「電力開発計画(Power Development Plan:PDP)」で、再生可能エネルギー開発の方向性が定められており、現行のPDP2010は、2022年の中間目標として、再生可能エネルギーによる発電容量を4,803メガワット(MW)としている。3年前に策定されたPDP2007の目標のほぼ5倍に引き上げられた。民間による小規模発電開発を支援していることも特徴だ。

<エネルギー政策の最高意思決定機関は首相府直轄>
政府は、再生可能エネルギーを含むエネルギー政策全般の最高意思決定機関として、首相府直轄のエネルギー規制委員会(ERC)と国家エネルギー政策委員会(NEPC)を設置している。ERCはエネルギー事業の規制、運用規則の制定を所管し、NEPCは国家的なエネルギー政策を推進する組織として位置付けられている。エネルギー省は立案と政策の実施庁としての役割を担っている。PDP2010は、10年3月12日にNEPCで承認された。主な内容は以下のとおり(<>内は改訂PDP2007との比較)。

(1)計画対象期間:2010〜30年(21年間)
(2)電力需要予測:年平均4.3%増
(3)設備開発計画:
○電力輸入量:全容量の25%以下
○輸入プロジェクト:17年までに特定<12年までに特定>
○石炭火力開発:19年以降〔独立発電事業者(IPP)を除く〕<16年以降(IPPを除く)>
○小規模発電事業者(Small Power Producer:SPP)開発量:3,919MW(21年まで)<1,959MW(21年まで)>
○極小規模発電事業者(Very Small Power Producer:VSPP)開発量:2,470MW(21年まで)<558MW(21年まで)>
○再生可能エネルギー:3,957MW(21年まで)<946MW(21年まで)>
(4)温室効果ガス(GHG)削減:20年時点でキロワット時(kWh)当たり二酸化炭素(CO2)排出量を改定PDP2007の数値以下とする。

<再生可能エネルギー発電能力を30年までに6,101MWへ>
PDPの再生エネルギーの定義はバイオマス、バイオガス、ごみ、太陽光、風力、小規模水力となっており、大規模水力は含まれていない。

09年のピーク消費電力は4月24日に記録した2万2,315.4MWだった。一方、09年末の発電容量(最大電力)は2万9,212MWで、うち49.0%に当たる1万4,328.1MWは政府系のタイ電力公社(Electricity Generating Authority of Thailand:EGAT)、48.8%に当たる1万4,243.9MWは民間の事業体、残りは近隣国からの買電だ。内訳は天然ガス発電70%、石炭火力発電13%、水力発電12%。残りの5%が再生可能エネルギーと輸入電力などとなっている。

PDP2010は、30年時点の電源開発で、天然ガス発電の割合を40%程度まで逓減させる代わりに、輸入電力、再生可能エネルギーの割合をそれぞれ18%、8%まで逓増させていく目標を掲げている。

再生可能エネルギーの発電設備は30年までに6,101MWまで拡大する方針で、特にバイオマス、風力、太陽光の開発を促進する計画だ(表1参照)。

表1 再生可能エネルギーの発電容量の現状と目標

<小規模発電事業者、太陽光・風力発電を優遇>
投資案件には、法人税免税などタイ投資委員会(BOI)による恩典がある。これに加え小型の発電事業者には、電力の買い取り保証制度がある(表2参照)。発電事業者が再生可能エネルギーによる発電の一部をEGATなどに売却する際、固定プレミア価格を上乗せした価格で買い取る制度だ。発電容量に応じて90MW以下のSPPと、さらに小規模な10MW以下のVSPPに区分されている。PDP2010では、VSPPの再生可能エネルギー比率を5%以上とする目標を定めており、極小型の再生可能エネルギー開発を重視している。

表2再生可能エネルギーに関する固定プレミア価格一覧

SPPに対する恩典をみると、太陽光と風力は固定プレミア価格で買い取る期間が当初10年間なのに対し、それ以外のエネルギーは当初7年間となっており、太陽光発電と風力発電に手厚くなっている。こうした小規模発電の奨励は92年のSmall Power Producer Law制定にさかのぼる。

<外資系企業にもビジネスチャンスが拡大>
政府の再生可能エネルギー政策に呼応するかたちで、日系企業を含む外国企業による投資や設備の受注が積極的に行われている。低緯度にあり、天候に恵まれて日照時間が長く、太陽光発電の好条件を備えていることも外国系企業の関心を集めている。

最近では、10年5月に、東北部のナコンラチャシーマー県で建設される太陽光発電所の設備として、京セラが6MW分の多結晶シリコン太陽電池を受注した。さらに同年7月、バンコク北部のロッブリ県で着工された73MWの太陽光発電所は、薄膜太陽電池をシャープに発注した。この発電所は太陽光発電としては世界最大級の規模で、三菱商事が傘下のダイヤモンド・ジェネレイティング・アジア(DGA)を通じて33.3%の出資をしている。こういった日系企業のビジネスチャンスは今後も期待されている。

なお、国内にはもみ殻、サトウキビや、養鶏・養豚などに由来するバイオマス、バイオガス資源も豊富にある。現地資本のS.P.M Feed Millは、養豚場を経営するかたわらバイオガス発電にも積極的に参画しており、10万頭の養豚施設で使う電力をすべてバイオガス発電で賄っている。同社のソムチャイ社長は、既にドイツ企業との提携の話を進めているが、発電効率の高いバイオガスに対する恩典が十分でないため、政府に一層の支援を要望しているという。

(当間正明)

(タイ)

ビジネス短信 4cabd676b2778