地熱開発とIPP方式を重視−アジア大洋州の再生可能エネルギー政策−
ジャカルタ発
2010年09月30日
近年、旺盛な国内需要に支えられ年平均約6%の経済成長を遂げているが、経済発展を持続的に力強く推進していくためには、安定的なエネルギー供給が不可欠だ。政府は2014年までに新たに1万メガワット(MW)の新規電源を開発するプログラムを策定し、この中で再生可能エネルギー比率を過半とする計画を決定した。また、再生可能エネルギー開発にかかわる企業への税制優遇や関連機器の税免除措置も発表した。
<1万MWの電源開発の51%を再生可能エネルギーで>
政府は10年1月8日付大統領令10年第4号で、14年までに新たに1万MWの新規電源を開発する計画「第2次クラッシュプログラム」(10〜14年)を策定した。
この電源開発計画は、先に制定された第1次クラッシュプログラム(同じく1万MW、06〜09年)に続くものだが、第1次クラッシュプログラムが中小規模石炭火力だけを対象としていたのに比べ、a.地熱(全体の39%)や水力(12%)など再生可能エネルギーの開発に重点を置き、b.独立発電事業者(IPP)方式を全体の49.6%に導入する、といった特徴がある。再生可能エネルギー重視は、地球環境問題への関心の深まりと、発電コストが燃料市況に左右されにくいことが背景にあるとみられる。
また第1次クラッシュプログラムでは中国系企業の落札が目立ったが、計画期限までに完工しなかった例や、資金面で問題を抱えた例があったとされ、第2次クラッシュプログラムはこうした反省を踏まえて実施するという見方もある。
<税制など優遇措置を発表>
第2次クラッシュプログラムに続き、政府は1月29日付の財務相令No.24/pmk011/2010(PDF)で、再生可能エネルギーを利用した発電事業に対する以下の税制優遇措置を導入した(注)。対象は地熱、風力、バイオ燃料、太陽光、水力、海流・海洋温度差などで、政府が再生可能エネルギー開発に注力する姿勢がうかがえる。
(1)投資合計額の30%相当額の課税対象額からの控除(6年間にわたり各年5%)、固定資産償却期間の短縮、国外への利益送金の源泉徴収税率について10%への低減、欠損金繰越期間の最大10年までの延長(政令2007年第1号施行規則16/PMK.03/2007に準じ、これらの事業に適用を拡大)。
(2)特定戦略的な関連機械・機器の輸入時の付加価値税の免除(政令2001年第1号に準じ、これら事業の関連機械・機器に適用を拡大)。
(3)関連機械・機器の関税免除(財務相令154/PMK.011/2008と176/PMK.011/2009に準じ、これらの事業に関連する機械・機器に適用を拡大)。
(4)政府予算に基づく税の優遇(戦略的な機器類・部品の輸入に対する輸入関連の税軽減を図る)。
<地熱発電に日本企業のビジネスチャンス>
日系企業にとっては、第2次クラッシュプログラムの39%を占める地熱発電開発への参入に大きなチャンスがある。経済産業省の委託で実施された国際協力機構(JICA)開発調査「インドネシア地熱発電開発マスタープラン(2007.9)」によると、同国には、2万7,000MWの発電が可能な世界最大級の地熱エネルギーがあるとされる。しかし、これまでの発電の利用率は約1,200MWと全体の約4.5%にとどまり、政府は地熱による発電容量を14年までに約4,000MW、25年までに9,500MWまで引き上げるとしている。
地熱発電では、地下約2,000メートルからくみ上げる熱水から蒸気を取り出して発電するが、これらの発電所建設や腐食性に強い地熱発電用タービン施設製造に関する技術は、日本が世界に誇る高い技術を持つ分野で、世界市場で東芝、三菱重工業、富士電機システムズの3社で約80%のシェアを持つ。海外インフラ・エンジニアリング事業としても、日本にとって最有力の分野の1つだ。
インドネシアでは地熱発電設備全体の約50%を住友商事と富士電機システムズの共同体が手掛けており、10年2月にもウルブル地熱発電所(110MW)の建設工事を両社で受注した。工事資金はJICAの円借款を活用するが、地熱発電所向け円借款としては過去最大規模とされている。
IPP地熱発電事業としては、伊藤忠商事、九州電力、現地の大手エネルギー系持株会社メドコ、バイナリー発電プラントメーカーのオーマットによるコンソーシアムが、北スマトラ最大のサルーラ地熱発電所(約300MW)の建設についてインドネシア電力公社(PLN)と協議している。電力買い取り価格を含む事業採算性の課題もあり、日系企業にとって新たなビジネスモデルとなる地熱IPPプロジェクトを受注できるか注目される。
地熱発電所は環境問題や脱化石燃料の観点から、世界的にも注目される再生可能エネルギー分野で、10年4月にはバリ島で「世界地熱会議(WGC)」が開催された。この会議には、日本を含む85ヵ国が参加した。
この会議に出席したユドヨノ大統領が「世界トップの地熱発電大国を目指す」とアピールするなど、政府も地熱発電IPPへの投資呼び込みに意欲的だ。地熱発電所建設プロジェクトの落札競争が激しくなる中、10年7月にはトルコ政府がインドネシア政府との間で地熱分野の共同調査・探査に関する覚書(MOU)を締結した。
日本も10年8月、国際協力銀行(JBIC)がインドネシア政府との合意を踏まえ、政府系インフラ金融公社PT SARANA MULTI INFRASTRUKTURとの間で、「環境に配慮した経済成長に向けた協力にかかわる協議の実施および地球環境保全業務(GREEN)適用を想定した環境配慮型プロジェクト推進のための覚書」を交わした。この覚書では、環境配慮型プロジェクトを支援するファンド設立も視野に入れている。ファンドは二酸化炭素排出を抑制できる地熱や太陽光発電プロジェクトに活用する方針とされ、具体的案件の形成を通じて、日本企業の事業展開が期待されている。
(注)インドネシア石油協会による英訳(PDF)、三菱UFJ銀行の日本語による紹介(PDF)がある。
(市原克典)
(インドネシア)
ビジネス短信 4ca2fc8c80e80