雇用創出狙いSSCやBPOを積極誘致−中・東欧の活用で効率化図る−

(スロバキア)

ウィーン発

2010年09月27日

1998年に外資系企業の誘致に熱心なズリンダ政権が発足して以降、まず製造業への対内直接投資が始まった。02年以降は、低賃金や外国語能力の高さ、高技能労働者の確保しやすさ、西欧からの近さといった理由で、外国企業によるシェアード・サービス・センター(SSC)やビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)センターの設立が活発化した。

<国内最大のSSCは米国IBM系>
スロバキア投資庁(SARIO)のグズレイオバ・プロジェクトマネジメント・アフターケア部長(直接投資担当)によると、「現在国内のSSCやBPOの分野で約40社が活動し、合計1万人弱を雇用している。首都ブラチスラバ周辺に展開する企業が最も多いが、コシツェ、ジリナといった地方の主要都市にもいくつかの企業が進出している」という。

SSCでは、経理や人事などの管理業務とカスタマーサービスを行っているケースが多く、ロシアや中南米まで含めてカバーしているところもある。

SARIOによると、国内最大のSSCは米国IBMによるブラチスラバの「IBM−インターナショナル・サービス・センター(International Services Centre:IBM−ISC)」だ。同社はブラチスラバで約3,500人を雇用し、経理、融資手配、B2Bサポートとカスタマーサービスを行っている。10年2月には、IBMがポーツマスの英国本部から経理部門をブラチスラバに移動させるとの報道も流れた。IBMブラチスラバには「ロシア・デスク」もあり、ロシア向けのカスタマーサービスも実施している。

米国の通信大手AT&Tは02年に同社の欧州や北アフリカ、中東の顧客向けサービス、人事などのためのSSCをブラチスラバに開設、07年に拡充した。それに先立ち、06年にコシツェにも同様のSSC拠点を展開しており、同社の国内従業員数は09年現在、合計1,100人、投資総額は1,200万ドルを超えている。

また、米自動車部品大手ジョンソンコントロールズは07年にブラチスラバに「オートモーティブ・ビジネス・センター」を開設し、中・東欧地域の財務、購買、IT、人事などの社内業務を一括して行っている。また、同社は北米・メキシコでの会計業務をメキシコ・ユアレスからブラチスラバに移管し、同業務のさらなる集約化を進める予定で、将来的に従業員数を450人(09年)から拡大する計画だ。

欧州系の企業もスロバキアでSSCを展開している。例えば、ドイツの化学大手ヘンケルは中・東欧本部(ヘンケルCEE)をオーストリアのウィーンに置き、中・東欧から中央アジアまで32ヵ国をカバーしている。ヘンケルCEEは07年9月、ブラチスラバに中・東欧23ヵ国の子会社の経理を集約的に担当するSSCを開設した。開設当初は60人程度だった従業員数は、09年には400人に増加した。

BPOセンターとしては、米コンサルティング大手アクセンチュアが02年、ブラチスラバにITコンサルティングなどを行う「アクセンチュア・デリバリー・センター」を開設し、04年からは金融、経理などの業務受託を行っている。900人の従業員で、23ヵ国語対応により業務を受託している。また、ドイツのシーメンスはブラチスラバで、従業員1,000人超のITサービスとカスタマーサポートセンターを運営している。

ブラチスラバ以外の都市でもBPOセンターを展開する事例がある。ドイツのテレコム大手T−Systemsは、06年に東部のコシツェで従業員1,000人超のITサポートセンターを開設した。T−Systemsスロバキアは欧州20ヵ国で、主に大企業や公的機関のサーバーシステムのサポートを24時間体制で行っている。

<高学歴、多言語対応の人材に強み>
金融危機への対応として、国内の製造企業の多くは大幅な人員削減を行っており、スロバキア統計局によると、09年の製造業の新規雇用数は前年比で14.4%減少した。一方、通信や情報、不動産、金融などのサービス業の雇用は比較的安定しており、業種によっては09年は前年比で小幅に増加している。このような状況を踏まえSARIOは、雇用創出面で製造業への依存度を下げ、サービス業で技術や語学などの専門知識を習得した人材の雇用創出を狙い、SSCやBPOセンターの設立を積極的に支援している。SARIOのグズレイオバ部長は「現在も、SSCやBPO分野で外国投資家と交渉中のプロジェクトが22件ある」という。

同部長はSSCやBPOセンターの立地としてのスロバキアのセールスポイントを以下のように述べた。

(1)高学歴の人材
国内の労働力人口のうち、大卒者の比率は16%で、EU加盟国の中でも最も大卒者比率が高い国の1つ。総合大学は全国に33校あり、08/09年度の大学卒業者は5万8,477人だった。

(2)外国語能力
スロバキア人には(少なくとも)英語かドイツ語に堪能な人が多い。スロバキア語は「スラブ語系言語のエスペラント」といわれ、ほかのスラブ系言語と重なる部分が多く、相互のコミュニケーションが比較的容易とされている。また、スロバキア語や英語以外を母国語とする外国人も、ドイツ語(1,248人)、ロシア語(1,190人)、フランス語(693人)などが多い(10年7月時点、出所:労働省)。

先のAT&Tは、これらの理由のほかに、先行事例としてITやハイテク関連のサポート業務を行っている他社がスロバキアにいたことも進出の要因として挙げている。

ただし、スロバキアは全人口が540万人で、労働力人口は半分の270万人しかいないため、周辺の中・東欧諸国に比べ、労働力供給の絶対数が限られている。

なお、調査会社のA.T.Kearneyが09年にまとめた報告書「The Shifting Geography of Offshoring」では、「BPOやSSCの展開先としてのスロバキアの魅力は、08年に比べ09年は大幅に下がった」としている。

これについてSARIOのグズレイオバ部長は「(09年は)金融面での魅力、労働力の能力と供給、ビジネス環境という3つの基準のうち、金融面での魅力だけが大幅に悪化した。その原因の1つは、08年から09年にかけた大幅なドル安と、この為替レートの変動を反映した各種コストの上昇だと考えられる。同じ原因でポーランドやハンガリーも下落したと理解している」と話している。

(エッカート・デアシュミット、野村栄悟)

(スロバキア)

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