SSCやBPOはプラハなど3都市に集中−中・東欧の活用で効率化図る−

(チェコ)

プラハ発

2010年09月24日

チェコ投資・ビジネス開発庁(チェコインベスト)によると、シェアード・サービス・センター(SSC)やビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)センター投資案件数は2010年上半期までに56件。設置先は首都プラハのほか、ブルノやオストラバに集中している。SSCやBPOセンターの設置動向について、同庁ビジネスサポートサービス・プロジェクト部長のイバ・エレトバー氏に聞いた。

<言語能力が高いIT関連人材が豊富>
チェコインベストによると、10年上半期までに同庁が仲介して実現した国内のSSCやBPOセンターの投資案件数(注)は56件。部門別では圧倒的に会計・経理が多く全体の39%を占め、以下コールセンター(21%)、人事(10%)、IT維持・管理(8%)、IT顧客サポート(6%)と続く。

エレトバー部長は「コールセンターの割合が比較的高いが、これは顧客と直接会話をするのに必要な言語能力を持つ人材が豊富という事実を証明している。また、IT顧客サポートを加えたIT業務の割合も14%と高く、これもIT部門に適した人材が豊富なことを示している」と説明する。

IT部門への投資の例として挙げられるのが、最大規模のSSCであるDHLの「ITサービスセンター」だ。同社が04年にプラハに設置した同センターは、1,300人を超えるIT専門家を雇用している。同社は米国、マレーシア、ドイツにもITサービスセンターを設置しており、チェコは世界4ヵ所のITサービスセンターの1つ。同社はチェコを選定した理由として、質の高い労働力、確立された通信網、ロケーション、航空便接続の良さ、中・東欧では最も発達した交通網、コストの低さ、政府の支援・助成金を挙げている。

<国内第2の都市ブルノでの設置が増加>
設置件数がプラハに次いで多いのは国内第2の都市ブルノで、全体の28%を占めている。エレトバー部長は「ブルノは05年以降、オフィスビルの建設が急進し投資が集中した。また、市内に大学が2校あり、人材が豊富なことから、近年ブルノはSSCやBPOの設置先として中心的な存在になっている」と話す。

欧州最大級の家電小売りDSGインターナショナル(英国)は07年9月、ブルノにグループの会計を担当するSSCを開設した。顧客やサプライヤーへの請求や支払いシステムの開発が主要業務で、従業員は200人。欧州14ヵ国を対象に、7ヵ国語対応の業務を行っている。同社はブルノを選択した理由として、人材確保のしやすさ、オフィスの質と価格、税制、政治的安定性、の4点を挙げている。

また、北モラビアのオストラバへの設置数が全体の1割を占めている。エレトバー部長はオストラバの利点として、大学と空港の存在を指摘している。

米国GEマネーが06年に開設したコールセンターは、チェコとスロバキアの顧客を対象としたローン返済の取り立て、人事・研修業務を行っている。08年からは顧客サービスのバックオフィス機能、IT業務の一部、リスク管理業務なども手掛けるようになり、従業員数は当初の50人から750人に増えた。同社はオストラバを選択した理由として、プラハへの交通の利便性、国内第3の大学生人口、適当な人口構造、高失業率、低賃金、オフィス価格の安さ、地方自治体の誘致姿勢、を挙げる。

パルドビツェなどの地方都市を選択したケースもみられるが、それらはプラハ、ブルノ、オストラバ以外の地方都市で生産活動を行っている企業が、付随するかたちで社内にSSC機能を設置した例が大半を占め、SSCを単独で設置するのは極めてまれだ。

エレトバー部長は「例えばオロモウツ、プルゼニュなどの都市は人材が豊富だが、Aクラスのオフィスビルの供給力に欠ける。ブルノにオフィスビルが建ち始めた05年ごろはデベロッパーが投機的に建てていたが、現在は買い手が確保されていない限り建設に着手しない。一方で、入居を検討する投資家は実際のオフィスを見てから入居を決める傾向がある。その結果、入居可能な質の高いオフィスビルが既に用意されている都市が、投資先として選ばれることになる」と説明する。

一方で「ブルノやオストラバについては、企業によっては航空の便が悪いことを問題視することがある。特に外国への定期直行便は便数や行き先がごく限られているため、ブルノが投資先候補から外れ、結局ポーランドの都市が選ばれた例もある」という。

<10年に入り、投資は拡大傾向>
SSCやBPOセンターの進出案件数の推移をみると、03年から徐々に増加し、08年が14件でピークだったが、09年は2件に急減した。特にBPOの進出は13件のうち12件が05年までに行われており、それ以降は08年の1件だけになっている。10年に入り、ドイツのオフィスレンタル業Algecoによるプラハへの会計・経理関連でのSSCの設置、国内に進出済みのシーメンスとドイツ証券取引所のSSC業務の拡大、IT分野のBPO業務を01年から展開している米国IBMによる投資拡大の計画が明らかになっている。

今後の展望についてエレトバー部長は「リーマン・ショック以後は労働市場が買い手市場となり、語学や会計などの専門知識を持つ労働者でも、労働条件についての過剰な要求は控えるようになってきた。労働コスト面では投資家に有利に働いてきている。10年に入ってからの投資に関する問い合わせ状況をみると、今後SSCやBPO分野の投資は伸びていくと思う」と自信をみせている。

また日系企業の投資の可能性については「残念ながら、まだ日系企業と接したことはない。既に国内に工場を持つドイツや英国の企業が、製造部門に付随するかたちでSSCを設置した例がある。また、欧米系以外の国籍の企業では、台湾企業がSSCを設置している。日系企業は製造部門で積極的な投資を展開してきており、日本語に堪能な人材はまだまだ不足しているものの、欧米地域を担当する日系企業のSSCが設立される可能性は十分考えられると思う」と期待を寄せている。

なお、SSCやBPOセンターの設置の上で特に重視される人材について、同部長は「人の入れ替わりが激しい点が問題だ」と、人材確保の難しさを指摘する。その理由は「被雇用者の圧倒的多数がスキルの高い大卒者だが、SSCやBPOセンター業務の大半はマニュアル仕事のため、一定期間勤めた後、より変化のある仕事を求めてほかの企業に移ってしまう」からだという。

(注)ソフト開発センター、ハイテク修理センターは含まない。また外国語を使用し、複数国を対象とするものに限る。

(中川圭子)

(チェコ)

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