インドのインフォシス、欧州事業のBPO拠点を設置−中・東欧の活用で効率化図る−
ワルシャワ発
2010年09月21日
外部の専門事業者に業務を集約・委託するビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)の発展に伴って、BPO事業者間の「ヨコ」の連携も新たな課題になっている。欧州では業際分野に専門性の高いサービスを提供するBPO事業者も評価され始めており、特集第5回はそうしたBPO業者の1つ、インドの情報システム開発企業インフォシスの事例を報告する。
<業務横断的な視点で市場開拓>
「BPO産業は、業務分野ごとの受託専門型と、専門分野を超えて受託対応する統合型に分化が始まっている」(日系情報システム企業)との指摘がある。特に「情報システム」分野は受発注伝票の処理に始まり、在庫管理・損益管理と企業内部門を超越した視点での業務処理が求められ、BPO産業の中でも特殊な位置付けにある。「情報技術アウトソーシング(ITO)センター」との呼称もあるように、各種業務を横断的にとらえて最適なBPO事業者の連携をシステムとして統合・供給するというビジネスモデルも可能だ。
インド企業インフォシス(バンガロール)は、こうしたことが可能なBPO事業者として、ポーランドを欧州事業の業務集約化の拠点として活用している。
<経理・会計業務の「即戦力」を供給する地方都市ウッジ>
インフォシスがポーランド中部のウッジに進出したのは、欧州総合電機最大手ロイヤルフィリップスエレクトロニクス(オランダ)との2007年7月の長期BPO委託契約が契機となっている。
両社は、フィリップスがインフォシスに対して「経理・会計」「調達管理」業務を委託すると同時に、これまでフィリップスが自社のシェアード・サービス・センター(SSC)として運営してきたインド(チェンナイ)、ポーランド(ウッジ)、タイ(バンコク)の拠点機能(人員約1,400人含む)をインフォシスが買収することで合意した。フィリップスは03年8月にウッジセンター(欧州・中東アフリカ向けの業務集約拠点)を開所しており、その業務機能をインフォシスが継承(07年10月)することになった。
インフォシスは、こうしたBPOセンターを世界13ヵ所に展開している。米国のアトランタのほか、メキシコのモンテレイ、ブラジルのベロオリゾンテ、中国の杭州(淅江省)、タイのバンコク、フィリピンのマニラ、インドのバンガロール、チェンナイ、グルガオン、ジャイプール、プネに加えて、欧州ではポーランドのウッジとチェコのブルノ(プラハに続く第2の都市)の2拠点が中心となっている。同社は世界を地域分割して、「顧客との距離」と「コスト効率」のバランスを取りながら、インフォシスBPOという事業会社を設置しているという。
ウッジ事業所(約900人)とブルノ事業所(約400人、04年8月開所)の機能は「相互補完的に欧州市場に対応しているが、ウッジは経理・会計業務に対する専門性が高く、ブルノはコールセンターなど多言語業務に対応できる」(インフォシスBPOポーランドのクリスティアン・ベステリ副社長)という。
ウッジはポーランドの中でも、経済・商学系の人材供給力が高いとされる。国内で人口第3位の都市だが、大学在校生(約14万7,000人)のうち経済・商学系在学生が約6万人と全体の約41%を占め、国内でも突出している(ワルシャワは、大学在校生約35万8,000人に対して、経済・商学系在学生が約7万9,000人で約22%、クラクフは約21万1,000人に対して、約3万7,000人で約18%にとどまる)。
また、「国際財務報告基準(IFRS)やそれらの作成ソフト運用についてのコースを履修している学生が多いため、企業からみても『即戦力』になる学生が採用できる」との指摘もある。ブルノ事業所は顧客企業10社の27ヵ国の拠点のために欧州15言語に対応した人材を抱える。これに対しウッジ事業所のコミュニケーション言語は英語が中心だが、より経理・会計業務に適応した人材活用を図っている。
<連携と競争のバランスを重視>
同社はコアビジネスとしての情報システムの開発に加え、顧客企業の経理・会計の実務担当者の要望に応じたソフトウエアの「カスタマイズ」に対応できる体制を整えている。労働集約的なソフトウエアの作成は賃金水準の低いインドの開発拠点で行うが、あくまで欧州の顧客へのインターフェースはウッジ事業所が担い、業務集約・最適地対応を徹底することで、欧州での「顧客の声」を商品開発に生かす方針だ。
しかし、欧州など27ヵ国(ロシアCISのほか、アラブ首長国連邦、トルコ、南アフリカ共和国も含む)にいる顧客への対応では、各国の経済法令、特に税法や税務当局の実務運用に対する知見が必要になる。この場合、各国の事情に詳しい法律事務所・弁護士、会計事務所・コンサルタントとの連携が不可欠だ。同社では、国際的に事業展開するグローバル事務所のほか、地場系事務所の専門家とも各国事情に合わせて連携している。ただ、これらの外部事務所にもBPOセンターとしての側面があるため、「彼らとは互いにパートナーであると同時に競争相手でもある」(インフォシスBPOポーランド)との冷静な見方を崩さない。
従来、日系企業には経理・財務(それに付随する情報システム)は企業の中枢を担う情報で、安易にアウトソースすべきではないとの意識もあったが、新興市場開拓など事業立地が多極化する中、外部の地域専門家(BPO・ITOセンター)を活用せざるを得ない状況にもある。市場開拓と同時並行でこうした地域でのビジネスを円滑化するため、広範な知見をもつ外部専門家の確保も検討する必要があろう。
なお、こうした統合型BPOセンター(インターフェース拠点)をポーランドで展開するインド企業としては、HCLテクノロジーズ(クラクフ近郊・ザビエジュフ、07年5月設立)、タタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS)(ワルシャワ、07年12月設立)などがある。
(前田篤穂)
(ポーランド)
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