豊富な多言語能力人材が魅力−中・東欧の活用で効率化図る−
ワルシャワ発
2010年09月16日
ビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)センターへのインタビューでは、各社とも多言語能力を備えた人材やコスト、通信インフラなどのビジネス環境に満足していた。一方、国際ネットワークの有無や受託事業の種類などにより、雇用形態や運営体制などに相違点がみられた。
<BPO分野の進出支援を強化>
ポーランド情報・外国投資庁(PAIiIZ)や政府はBPOセンターの誘致を積極的に進めている。2010年上半期にPAIiIZが支援した投資プロジェクトの業種別内訳はBPO分野が最も多く、製造業を上回った。
ジェトロは10年7〜8月、ポーランドに進出しているBPOセンター4社にインタビューした。同じBPO分野でも、企業の規模や海外ネットワークの有無などにより、受注業務や雇用方針などのビジネスモデルに相違点がある。インタビューの概要は以下のとおり。
<「業界最多の拠点数」で国際的にサポート>
CTM(本社ワルシャワ)は97年に設立。04年にフランスのテレパフォーマンスの傘下に入り、顧客サポート、技術サポート、営業、市場調査、債権回収などの業務を請け負っている。テレパフォーマンスは世界51ヵ国に276拠点を構え、欧州ではフランス、英国、イタリア、スペイン、ポルトガル、ギリシャ、ポーランド、スロバキア、ルーマニア、アルバニアの10ヵ国に拠点がある。ポーランドではワルシャワとシエルドルツェ(ワルシャワから東に70キロ)の2拠点合わせて400人体制で10ヵ国語に対応している。
ポーランドの人員は中・東欧拠点の中で最大だが、市場が毎年大きく伸びているため、10年中に倍増する計画だ。現在の顧客は、通信、インターネット、放送、金融、保険、エレクトロニクス、食品などの約30社。「業界最大の拠点数」(チーフオペレーションオフィサーのカタジナ・ブジョゾフスカ氏)を構えており、顧客企業の国境を越えた要求に対応できる点が特徴だ。
例えば在ポーランド家電メーカーの顧客サポートサービスの場合、ポーランドで生産した製品であっても、販売先はドイツ、チェコ、スロバキア、ルーマニアなど多岐にわたる。このような場合、すべてポーランド事業所で対応するのではなく、ネットワークを活用して、業務を各国のグループ会社に割り振って対応することも可能だ。
技術サポートや消費者サポートなどの業務では、オペレーターに高いレベルの知識や対応ノウハウが求められる。食品分野の消費者サポート業務では、消費者に安心感を与えられるとして40〜50歳代の女性による対応を顧客企業から求められるなど特殊な要望を受けている。そのため同社では、オペレーターの9割を長期契約で雇用しており、ノウハウの蓄積や人材開発に取り組んでいる。長期雇用は人材の定着にもつながると考えている。
まだ同社では、優秀でやる気のある人材は積極的に登用している。例えば、ジェトロとのインタビューに対応したコールセンターマネジャーのヤチェック・ブウォダルチク氏は、2ヵ月前まではトレーナーだった。そのため、オペレーターに対する業績評価には徹底して取り組んでいる。対応件数や獲得した顧客の数などを1時間単位で評価しているが、同時にこの作業は、顧客に対して適切なアプローチをしているかなど業務の見直しにも役立てている。
<長期契約で人材育成やノウハウ蓄積>
サイテル・ポルスカ(本社ワルシャワ)は04年にポーランド拠点を設立。27ヵ国に145拠点を持つ多国籍企業で、従業員は6万5,000人。欧州の統括拠点は英国にあり、ポーランド拠点での業務もすべて英国の拠点から割り振られている。日系企業とのビジネスの実績もあるという。
ポーランド事業所の従業員は500人で、欧州、ロシアの16ヵ国語に対応できる。欧州・アフリカ地域には、ポーランドを含め、ベルギー、ブルガリア、デンマーク、フランス、ドイツ、アイルランド、イタリア、モロッコ、ポルトガル、スペイン、オランダ、英国の13ヵ国に進出しており、24時間年中無休体制で対応している。
現在の顧客は、通信、インターネット、金融、小売り、旅行、エレクロトニクスなど約10社で、ポーランド拠点からポーランド、ドイツ、ルーマニア、ロシア、チェコ、ハンガリーの6ヵ国向けに、技術サポート、バックオフィス、債権回収、営業、調査、予約・発券業務などを行っている。技術サポートなどは高いレベルの知識が必要なため、顧客とは長期契約を結ぶことが多い。社員も長期雇用の比率が全体の7割程度を占めており、人材育成やノウハウの蓄積に力を入れている。
ポーランドのビジネス環境については、「多言語に対応できる人材が豊富な点を評価」(ディレクターのアントニオ・ドス・サントス氏)している。英国での就労経験があるポーランド人が多いほか、ワルシャワには国内の各都市からだけでなく、近隣諸国からも人が集まる。コストに関しては、賃金水準は上昇しているものの、西欧に比べると競争力があり、オフィスの賃料も安い。BPOセンターにとって必要な通信インフラや安定した電力供給なども問題ない。空港も近いため、顧客との打ち合わせにも便利な立地だ。
また国内経済が好調なことから、ポーランドへの企業進出が続いている。企業進出が増えれば、BPO関連のビジネスチャンスも増える。同社はポーランドを今後も市場の拡大が見込まれる魅力的な市場とみており、現在ワルシャワ以外の都市での拠点設立を検討している。
<「国内向けのアウトバウンド」に特化>
オランダのTNTグループのディマル・ポルスカ(本社ウッジ)はチェコで創業し、00年にワルシャワに事業所を設立した。スロバキア、ハンガリーにも拠点がある。02年にTNTがディマルを買収したが、ディマルブランドで事業を継続している。ポーランドでは金融、保険、小売りなど向けに、営業支援や顧客サポートサービスなどを西欧、中・東欧、ロシアの10ヵ国語で対応している。
現時点では、先に挙げた2社とは異なり、主な顧客はポーランドで活動する企業で、国内向け商品の営業業務を受注している。具体的には、金融機関が保険商品に関するダイレクトメールを発送する時期に合わせて、送付先データベースに基づいて販売促進の電話をかけるほか、顧客からの問い合わせ対応を行っている。
アウトバウンド中心のため年中無休の営業はしておらず、月〜土曜の9〜21時を2シフトで対応している。ウッジに2ヵ所のコールセンターがあり、200人を雇用しているが、10年11月には100人を追加雇用する予定だ。オペレーターは契約期間が1年未満の短期契約が多く、短期契約の割合は全体の約8割を占めている。
同社は、当初はワルシャワに事業所を構えていたが、07年にウッジに移転した。主な理由は4つある。第1に、離職率が高かったことだ。ワルシャワには同業他社が多く、同じ建物にも競合企業が入居していたほどだった。第2に、人材確保の容易さだ。ウッジの人口は70万人で、そのうち学生が10万〜15万人と多いほか、ワルシャワと比較して失業率が高い。学生の多さでは、クラクフやブロツワフも当てはまるが、既に同業他社が多く進出している。
第3に、オフィス賃料が安い。同社の場合、ワルシャワと同じ賃料で3.5倍広いオフィスを借りることができた。第4に、顧客の意向。同社の拠点の1つは、顧客が用意したコールセンター用オフィスで、顧客の資産を利用してコールセンター業務を運営している。
顧客の多くはワルシャワに立地しているが、打ち合わせなどが必要な場合でも「ワルシャワから車で2時間の距離のため、いまでも問題はない」(ゼネラルマネジャーのヤシャ・ファンデルビーン氏)ものの、「現在進められている道路や鉄道などの交通インフラの改善計画にも期待している」という。
<多言語人材の確保面ではアイルランドを上回る>
サウスウエスタン・ポルスカ(本社ウッジ)はアイルランド系企業で、07年9月にウッジに現地法人を設立。アイルランドでは酪農企業からの要望に応えるかたちで、牛乳の出荷記録や会計業務の受注に始まり、97年に牛海綿状脳症(BSE)が発生した際には、農業省から家畜の登録業務を請け負った。その後アイルランドでブロードバンド環境の普及が進んだことから、通信インフラを生かしたBPO分野に注力するようになった。
ポーランド拠点設立の契機は、業務量が増え、アイルランド事業所の対応能力ではカバーしきれなくなったため。設立に当たっては、チェコ、ハンガリー、ウクライナ、インド、スペイン、メキシコと比較し、コスト、労働法、複数の外国語を話せる人材、交通インフラ、通信インフラなどを総合的に判断した。ポーランドには、潜在的な顧客が多いとも判断した。
従業員は10年8月時点で140人だが、今後85人増やす予定。欧州の9言語に対応可能で、24時間、年中無休体制を敷いている。レンタカー会社のコールセンター業務(電話、メール、ウェブチャットで対応)やホテルの予約受け付け業務を請け負っている。そのほか送金業務、支払い督促業務なども行っている。
ISO9001のほか、CCA(Customer Contact Association)の認証を受けている。アイルランドでは、CCA認証はBPO企業にとって必須の規格で、適切なソフトウエアを使用しているか、ソフトウエアや電話対応などの訓練体制、通話を録音するなどの品質チェック体制、情報セキュリティー体制について審査がある。
顧客は、小売り、食品、エネルギー、出版・メディア、通信、旅行業など9社。現時点では請け負っていない業務でも、依頼があれば対応する体制を整えるつもりだ。会計分野では、単純なデータ入力から会計報告の作成までを行い、「請け負う業務内容に制限はない」と考えている。
顧客とは3〜5年の長期契約を結んでいる。単に受託業務をこなすだけではなく、業務の遂行を通して効率化を提案・実施することを心掛けている。ある業務受託では、当初15人で対応していた業務を効率化して、3人で対応できるようになった。顧客に対しては、その分の値下げを行った。効率化を積極的に進め、コストを削減することで信頼に得て、長期的にはまた別の業務を受託して効率化を実現するWIN-WIN関係を構築したいと考えている。
ポーランドでは、10年4月から顧客獲得のための営業活動を始めた。現在1社から受託しているが、年内にはもう1社、契約を締結できる見通しだ。ポーランドでは、まだBPOの存在やメリットが正しく認識されていないため、BPOを説明することから始めている。近い将来、ポーランドでもBPOのメリットを理解し、利用する企業が増えると考えている。
ウッジが持つ最大の競争力は人材。ウッジを中心にした半径60キロの地域では毎年2万3,000人の学生が卒業しており、優秀な人材を確保できる。「多言語能力のある人材は、アイルランドよりもポーランドの方が確保しやすい」(ゼネラルマネジャーのビクトル・ドクトル氏)。同社はウッジ大学の学生に就労経験プログラムを提供しているほか、ウッジ市とも人材確保のための協力関係を構築している。
シェアード・サービス・センター(SSC)やBPOセンターの拠点としてはクラクフ、ブロツワフ、ワルシャワに立地している企業も多いが、人材確保の点で競争が激しくなっているため、ウッジに立地する方が良いと考えている。
<ウッジはワルシャワより30%低コスト>
交通インフラもある程度整備されている。ウッジからワルシャワまでの鉄道での移動時間は1時間30分で済む。将来予定されている高速鉄道が建設されれば30分に短縮される。ウッジ空港だけではなくワルシャワ空港も利用できる距離でありながら、人件費やオフィス賃料などのコストは30%安い。かつて盛んだった繊維産業の工場をリノベーションしたオフィスも増えている。広い土地が多く、拡張しやすい点も魅力だ。
150人の従業員のうち、85%と長期雇用契約を結んでいる。長期雇用の方が、会社への忠誠心の醸成、知識の蓄積の面で有利と考えているし、会社としても人材育成に取り組みやすい。ただ、業種によっては必要人数の季節変動が大きいため、一部は短期契約で対応している。例えば、レンタカーのコールセンター業務は、夏季の問い合わせ件数は年平均の1.5倍に上る。
離職率は業界平均を若干下回る程度とみている。優秀なオペレーターを毎週、毎月、毎四半期に表彰する制度を設けるなど、従業員のモチベーション向上に努めている。
(志牟田剛)
(ポーランド)
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