第三次産業向けが伸びる上海と江蘇・浙江の「中心都市」(華東地域)−10年上半期の対中直接投資動向−
上海発
2010年09月08日
2010年上半期の華東地域(上海市、江蘇省、浙江省)の対内直接投資状況をみると、上海をとりまく「中心都市」(南京、無錫、蘇州、杭州、寧波)では第三次産業向けの投資が相次いでいるが、実行金額は伸び悩んでいる。上海市では、地域統括本部などの「総部経済」向け投資を行う産業分野のすそ野が広がっている。
<華東地域全体:1年半ぶりに2ケタ成長を回復>
10年上半期の華東地域の対内直接投資額(実行ベース)は259億ドル(前年同期比12.2%増)と、08年(通年)以来1年半ぶりの2ケタ成長となった(表1参照)。
国務院が10年5月24日に承認した「長江デルタ地区区域規画」([2010]38号、以下「規画」)には、外資の利用レベルの向上を図るため、「外商投資企業の形式審査の試行」による利便性の向上と「外商投資企業による国内企業の改組改造(M&A、資本参加、戦略同盟の結成など)」の奨励が盛り込まれた。
「規画」は、長江デルタ地域(上海市、江蘇省、浙江省)を、国のGDPの5分の1(21.7%)を占める「国内総合実力最強区域」、アジア太平洋地区の国際ゲート、「現代サービス業」と先進的な製造業の中心、と位置付けた上で、09年から15年にかけての発展目標を明記している。「発展の中心」の上海に加えた、南京、蘇州、無錫、杭州、寧波など16の「核心区」を中心に、長江デルタ地域はハード・ソフト両面からの一体化を目指す。
<上海市:4.1%増、投資は大型化からサービス化へ>
上海市への投資(実行ベース)は、前年同期比4.1%増と09年(通年)並みの伸びだったが、契約件数は14.9%増、09年3月から前年同月比でマイナスだった契約金額も10年2月から12ヵ月ぶりにプラスに転じた結果、上半期は12.2%増の74億7,700万元(1ドル=約6.8元)に達した。上海市の総外資実行額は、6月末までの累計で1,000億ドルを突破した(1,006億7,400万ドル)。広東省、江蘇省に次ぐ第3位で、全国の10分の1を占める。
「規画」では、上海市は、a.産業創新基地とR&Dセンター、b.「虹橋総合交通ハブ」活用によるビジネスセンター、c.「現代サービス業」(市中心部)と先進製造業・ハイテク産業・現代農業基地(市郊外)、と位置付けられた。中国の発展モデルで先頭を走る上海市では、直接投資も大型化からサービス化へとシフトしている。
復調した投資件数の牽引役となったのが、サービス産業をはじめとする第三次産業だ。
産業別では、実行金額で第三次産業が増加を続ける一方、第二次産業は2ケタの減少となった(表2参照)。その結果、第三次産業と第二次産業の投資額は、08年の2:1から4:1まで拡大した。
<地域統括本部設置業種が多様化>
多岐にわたる奨励策の対象となる地域統括本部などの本部機能(「総部経済」)向け投資も活発だった(表3参照)。
21社の設立が承認されたグローバル企業の地域統括本部には、米クラフト(食品)、スイスのノバルティスファーマ(製薬)、米ディズニー(娯楽・メディア)、ブラジルのバーレ(資源開発)、フランスのソデクソ(給食受託・施設管理)とレクセル(電気機器流通)が含まれる。国別では、米国8社、日本6社、フランス3社など。
上海市商務委員会の沙海林・主任は「新たに承認された地域統括本部は、鉱産物、電力・エネルギー、自動車部品、包装、特殊化学品、食品、不動産、文化娯楽、飲食管理に広がっている」と語る(第18次グローバル企業地域統括本部承認式、10年7月14日)。
R&Dセンターとしては、5月にドイツのバイエル(医薬)傘下のバイエルマテリアルサイエンス(自動車用軽量化素材)、7月にフランスのロレアル(化粧品)がそれぞれ浦東新区に技術評価センターを設立した。
3月、米マクドナルド(飲食)は、世界7番目となる社内人材育成機関「ハンバーガー大学」の設立を発表。5,000人が「入学」できる規模だ。香港の「大学」を上海に移転し、急拡大する事業展開に対応するマネジャークラスの育成を図る。
<日本から上海へは金額で減るも件数で4割増加>
国・地域別(契約ベース)では、日本が前年同期比で27.4%減少したのを除き、主要国からの投資はおおむね増加した。件数では、逆に日本が39.6%増加していることから、投資金額が少ないサービス業などの対中投資意欲が増していることがうかがえる。
グループ企業12社を中国に展開する帝人は4月、中国事業の統括会社を設立。市場開拓、事業開発、新規投資を担う。三菱マテリアルは6月、販売・調達・管理機能を併せ持つ統括会社を設立した。
前年5月に施行された新たな「中国旅行社管理条例」では、外商単独資本旅行会社による分社の設立が解禁された。これに伴い、4月に近畿日本ツーリストと阪急旅行社、5月にH.I.Sがそれぞれ上海に分社を開設した。そのほかにも、貿易、物流、コンサルタント、飲食などのサービス分野に日本からの投資が相次いだ。
<江蘇省:16.5%増、蘇南で第三次産業向けが相次ぐ>
江蘇省への投資(実行金額)は、16.5%増と華東地域では唯一の2ケタ増となった。その伸び率は、ほぼ前年並みの「中心都市」(南京市、無錫市、蘇州市)と、それ以外の「重要都市」「その他」との差が鮮明だ(表5参照)。
その背景として挙げられるのが、「投資実行額の伸び率で第二次産業をはるかに上回る第三次産業」〔江蘇省商務庁の●(竹かんむりに旦)家祥・報道官〕だ。上海に近い蘇南の「中心都市」では、既に機械・電子産業が集積している。そのため「中心都市」では、既存の産業集積をバックアップするための研究開発センター、投資管理、技術サービス、レンタル、金融など比較的投資金額が少額な「第三次産業」向け投資が中心だ。
南京市では、2月に住友信託銀行が合弁で、3月にフィリピン首都銀行が単独資本で進出。無錫市では、5月にEMCOMホールディングスがコールセンター・アウトソーシング事業の合弁会社設立を発表した。蘇州市では、6月に損保ジャパンの中国現地法人である日本財産保険(中国)が、進出日系企業に対して保険サービスを提供するため支店の開設、7月に韓国国民銀行が国内3番目の支店の開設をそれぞれ発表した。
第二次産業への投資実行額は全体の66.6%を占めている。うち、電子、通信設備製造業向けは17.95%と、08年以来の前年比減少から増加に転じた。機械重工と電子製造業の大型プロジェクトを誘致した常州市は、実行額の伸び率で蘇南のトップに立っている。
蘇中、蘇北地域では、09年6月に国家戦略として認められた「江蘇沿海地区発展規画」で、南通市、連雲港市、塩城市を中心とする新しい工業基地と長江デルタの運輸センター開発の呼び掛けにより、実行額が蘇中で44.9%、蘇北で51.4%増加した。南通市では、6月に信越化学工業がシリコーン(ケイ素樹脂)工場を建設し、2011年に稼働すると発表した(投資額85億円)。
<浙江省:9.2%増、外資利用促進策を準備中>
浙江省への投資(実行金額)は、2年ぶりにマイナス成長から脱し、前年同期比9.2%増になった。江蘇省と同様に、「中心都市」と「重要都市」の伸び率の差が明らかになった(表6参照)。
実行金額で全省の4割強を占める杭州市では、前年同期比9%増加した。三井住友海上火災保険は4月、杭州に拠点を置く生命保険会社、信泰人寿に7%出資した。
6月には、リチウムイオン電池メーカー米エナーデルの親会社エナール・ワンが、杭州に拠点を置く中国部品大手の万向集団傘下の電気自動車部門と合弁会社設立を発表した。電気自動車向けリチウムイオン電池を、万向集団の既存顧客に供給する。
杭州市は、09年1月に「新エネ・省エネ自動車普及モデル都市」に、10年6月に個人向け新エネ自動車補助金の試行都市に選定された。同じく6月に公布された「外商投資審査認可権限の委譲にかかる問題に関する通知」(商貿発[2010]209号)でも、南京、広州、武漢、成都などとともに、3億ドル未満(奨励類・許可類)または5,000万ドル未満(制限類)の外商投資企業設立の認可や管理の権限が国務院から移譲された。
「規画」では、杭州市は「ハイテク産業基地」「国際観光レジャーセンター」「文化創造センター」「電子商取引センター」「地域金融サービスセンター」として、寧波市は「先進製造基地」「現代物流基地」として、位置付けられている。
浙江省商務庁は「国務院の外資利用促進策をベースに、外資利用促進に関する実施細則を策定している」と語る。外資企業の投資が江蘇省に比べ遅れていた浙江省も、「規画」や「省エネ・新エネ自動車モデル都市」の実現に向け、外資の積極的な導入が進展していくことになろう。
(張培葉、志村和俊)
(中国)
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