建物の省エネ化に補助金を支給−欧州各国の省エネルギー政策−

(オーストリア)

ウィーン発

2010年07月29日

EUの気候変動エネルギー対策を受けて、政府は2020年までに全エネルギー消費に占める再生可能エネルギーの割合を34%に高め、同時に温室効果ガスを05年基準で16%削減し、エネルギー効率を20%高めるという数値目標を設定、08年12月には達成のため3つの戦略を打ち出している。

<建物への省エネ設備導入を促進>
目標達成のため、08年12月、a.エネルギー効率の向上、b.再生可能エネルギー利用の拡大、c.エネルギー安定供給の確保、という3つの戦略が発表され、国を挙げて省エネルギーを推進している。特に、エネルギー効率の向上については、企業や家庭の建物への省エネ設備導入促進に力を入れている。

国内のエネルギー消費の現状(08年)をみると、化石エネルギーが72.1%を占めているが、水力以外の再生可能エネルギー17.1%、水力10.8%と水力を含めた再生可能エネルギーの割合が27.9%と欧州の中でも高いことが特徴だ。05年時点のEUの統計によると、オーストリアの再生可能エネルギー比率は23.3%で、スウェーデン、ラトビア、フィンランドに次いで第4位だ。さらに再生可能エネルギーの割合を高めるため、水力、風力、バイオマス、太陽光発電の拡大に取り組んでいる。特に、水力発電は電力生産の要となっており、15年までに規模の大小を問わず既存の発電所を拡張して電力生産量の増加を目指している。

<環境重視の設備改造に補助金>
国内のエネルギーの3分の1以上は、住宅や建物の冷暖房や温水で消費されるため、この分野の省エネ化が20年を期限とする目標達成の近道と考えられている。政府は、従来の建物や住宅を省エネルギーに貢献する環境配慮型に転換するための予算を09年に総額1億ユーロ計上した。

政府は、このうち半分の5,000万ユーロを企業向け補助金として計上し、オフィスビルや工場施設の断熱処理など、暖房・冷却需要を低減する環境関連投資額の15〜30%を補助。また、工場での生産稼働時に発生する廃熱の再利用や、排水システムを効率化する設備投資に対しても、30%の補助金を出した。

個人向けには、住宅の外壁、屋根、床の断熱処理や、気密性の高い窓や扉への交換による住宅の省エネ・リフォームを含め、従来の化石燃料による暖房システムを環境配慮型のシステムに交換する場合、総費用の20%または最大5,000ユーロを補助、暖房システムの転換だけの場合は最大2,500ユーロを補助した。しかし、09年7月で申し込み件数が申請枠いっぱいになり、早々に打ち切られた。

<省エネ政策の効果は評価分かれる>
省エネルギー策の支援は多岐にわたり、政策に対する評価もまちまちだ。

市場調査分析会社のKEPは、政府のエコ住宅奨励策について疑問を投げかけている。同社がマイホーム建築やリフォームを考えている個人にアンケート調査したところ、政府の補助金がなくてもエコ住宅への転換を実施したいという回答者が90%を占めた。この結果は、補助金による支援効果は限られることを意味しており、実際、09年の断熱材業界全体の業績は悪いままだ。

一方、断熱材メーカーのバウミット・ボプフィンガーは、エコ住宅奨励策により業績が回復し、十分に効果があったとしている。また、あるウィーンの建築会社の担当者は、エコ住宅奨励策は、同社の売り上げに直接の影響はなかったが、業界におおむね貢献していると肯定的にとらえている。

ミッターレーナー経済相とベラコビッチ・エネルギー相は、政府の支援により20年の目標の数値に近づくだけでなく、環境関連の雇用が創出されると強調。現在、この分野に18万5,000人が従事しているが、20年までにさらに10万人の雇用が生まれると期待している。

また、ウィーン市では、エネルギー消費の増加率を15年までに03年比で7%に抑制することを目標に、省エネルギープロジェクトを立ち上げ、200に及ぶ政策を実施。同市の省エネ対策担当者によると、エコ住宅や企業の環境配慮型設備投資支援に力を入れているが、特に、エコ住宅への支援の結果、エネルギー消費量の削減が顕著だったという。

(田中由美子)

(オーストリア)

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