ブリュッセルとフランダース、専門家を派遣して啓発活動−欧州各国の省エネルギー政策−

(ベルギー)

ブリュッセル発

2010年07月28日

ブリュッセル首都圏地域とフランダース地域では、補助金支給だけでなく、専門家派遣など人的サービスの提供を通じた啓発活動により、省エネ制度の利用者拡大に成功している。ベルギーの省エネ政策の第2回。

<ブリュッセルは建築物向けを最優先>
ブリュッセル首都圏政府の省エネ対策は、建築物向けを最優先分野としている。背景には、a.建築物に起因する温室効果ガスが最も多い(建築物70%、製造業3%、運輸24%)こと、b.再生可能エネルギーの活用は限定的なこと(例えば、太陽電池は建物の影や歴史的建造物が多いため、利用場所が限られる、大型風力タービンはザベンテム空港が近いため建設が禁止されている、小型風力タービンはまだ技術的に問題がある、バイオマスは新たな大気汚染問題を引き起こす可能性があるなど)、c.運輸分野はブリュッセル域外からの流入車両の管理が難しい、といった首都圏特有の事情もある。

一方、省エネ建築物の推進に際しては、a.ブリュッセルでは用地が限られるため新築はほとんどなく改築が中心になる、b.ブリュッセルに多い集合住宅(アパルトマン)やメゾン・ド・メートル(高級な旧宅を改築した住居)では、家主が高齢者で借り主が若者という場合が多く、前者は長期投資に消極的で、後者は経済力不足のためにまとまった投資ができない、c.省エネ建築物についての知識不足が原因で省エネの意識があっても行動に移せない、といった課題がある。

こうした状況を踏まえ、ブリュッセル首都圏政府は、16項目の建築物への省エネ投資を対象とした補助金支給のほか、アドバイザー制度、省エネ建築物デモンストレーションプロジェクトを通じ、省エネ建築物に対する理解の普及や投資の拡大に向けて取り組んでいる(表1参照)。

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<自治体に専門家を派遣>
ブリュッセル首都圏政府が進める代表的な省エネ政策の1つが、地域エネルギー管理行動計画「プラージュ(P.L.A.G.E)」(PDF)だ。プラージュは、ブリュッセル首都圏地域にある19のコミューン(自治体)が保有する建築物について、技術的・経済的な有効性にかんがみた省エネ支援プロジェクトで、2005年から始まった。

ブリュッセル首都圏政府は、各コミューンに対し、建物監査員による省エネポテンシャルの評価と優先すべき実施措置の見極めなどを行う人的支援を実施。建物・施設管理者の間で省エネとエネルギーコスト削減の潜在性に関する認識を高めている。

具体的にはまず、公共建築物(病院、コミューン施設、公団など)のコスト削減につながる省エネを実現した。例えば07〜09年の間に5つの病院で年間エネルギー消費量が8.3%削減され、結果的に年間120万ユーロのエネルギー費用削減につながった。そのほかの主な成功例は表2のとおりで、ブリュッセル環境管理研究所(IBGE)によると、同計画全体で、大規模な投資を行わずに過去4年間で20%の省エネに成功したという。

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ブリュッセル首都圏政府は現在、これらの成功事例をハンドブックにまとめる作業を進めている。またエネルギー関連経費が年間50万ユーロを超える公共・民間部門建築物を対象に、建築物の省エネ化専門家を活用して同様の取り組みを行うよう勧めている。

<ファシリテーターが消費者を啓発>
ファシリテーター(アドバイザー)制度は、ブリュッセル首都圏政府が専門家を任命し、消費者や投資決定者(学校なら校長など)向けに、省エネ建設物の普及に向けた啓発セミナーや専門的な助言を行っている。

ブリュッセル首都圏政府は、情報不足から省エネ建設物が普及しないという問題に取り組むため、必要な情報を無料提供するこの制度を前記の補助金制度と組み合わせて実施している。現在、集合住宅、サービス施設(病院、老人ホーム、プール、学校など)、コージェネレーション(熱電併給)、再生可能エネルギー、エコ建築など分野ごとにファシリテーターを配置している。IBGEは「現在では、市民の省エネ意識が高まり、より具体的で技術的な問い合わせが増えている」と評価している。

<フランダースは住居と運輸向けを重視>
「フランダース・エネルギー効率行動計画2008-2010」(PDF)によると、EUの「エネルギーサービス指令」(PDF)が定める全エネルギー消費のうち、住居の占める割合は35%、運輸31%で、この2つが大きな割合を占めている。

フランダース政府はこのため、住居と運輸部門の省エネを重視している。特に、家計最終消費者向け配電システム事業者に対しては、エネルギーの合理的利用(REG)のため、公共サービス義務(PSO、注)の履行を求めている。フランダース政府エネルギー庁(VEA)によると、「このREG促進のためのPSOが省エネに最も寄与している」という。

フランダース政府の主な施策と16年末時点の年間エネルギー削減量(予測値)は表3のとおり。

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<最終消費者への省エネサービスを義務化>
REG促進のために配電システム事業者に課されるPSOとは、EUの「エネルギーサービス指令」に基づき、フランダース地域の家計最終消費者向けに配電接続やメーター管理を行っている(電力供給は行わない)配電システム事業者に対し、エンドユーザー向け省エネサービスの提供を義務付けたものだ。

これによって配電システム事業者は、例えば、光熱費の支払い能力がない低所得者の住居を訪問し、断熱性の高い屋根や床材、廃熱再利用型セントラルヒーティング、高性能窓など省エネ製品の導入や省エネ行動のための啓発活動を行っている。なお、配電システム事業者のコスト負担は、電力料金に転嫁することが認められている。

配電システム事業者は毎年、当局の承認を得た計画書に基づき、目標(住居顧客で年間2%、非住居顧客で1.5%の省エネ)を達成しなければならない。目標が達成できなかった場合は罰金が科せられる。このサービスは、PSOの一環だが、今後はビジネスとして成立させることも視野にあるようだ。ただしVEAによると、「現時点ではビジネスとして成り立っていない」状況で、あくまで社会サービスの一環にとどまっている。

このPSOは、フランダース地域で現在、最も成功している施策の1つといえ、着実に省エネを実現している。特に内容が強化された07年以降はその実績の伸びが大きい(図参照)。

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(注)PSOとは、一般的には採算が合わないが社会的ニーズがある事業に対し、政府が入札などを通じて特定の企業に事業遂行を求める(義務付ける)もの。特に、過疎地の電車やバスなど交通サービスに多く、以前は公的機関(国、自治体など)が行っていたサービスを、自由化に伴いPSOに切り替える場合もある。採算が取れない分は、政府の助成金で補てんする。フランダース地域の場合、入札は行わず、すべての公共・民間配電システム事業者を対象としている。

(和泉浩之)

(ベルギー)

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