崩壊から再建に取り組む−金融危機後の成長モデルを探る(12)−

(アイスランド、欧州)

コペンハーゲン発

2010年06月16日

人口31万人の小国ながら、近年、外資の獲得と積極的な投資により好調な経済を謳歌してきたが、金融危機の打撃は大きく、経済は急激に冷え込んだ。IMFから緊急融資を受けて、経済の立て直しに全力を挙げる中、豊富な水力・地熱発電を利用したアルミニウム製品や水産物の輸出が経済の下支えになっている。

<1人当たりGDPは4位から19位に>
2007年の1人当たりGDPは、6万5,187ドルと世界第4位だったが(2008年9月24日記事参照)、09年には3万7,977ドルと大幅に減少し、順位も第19位に大きく下がった(IMFの10年4月の世界経済見通し)。アイスランド・クローネの対ドル価値がおおむね半減したことが大きな要因だった。

実質GDP成長率は、08年は1.0%だったが、09年はマイナス6.5%と落ち込んだ。金融危機の影響で民間投資・住宅投資・公共事業が大幅に減少し(前年比49.9%減)、個人消費も大きく冷え込んだ(14.6%減)ことが響いている。他方で、輸出は為替下落の影響などで増加し(6.2%増)、輸入は国内需要の低迷で大幅に減少しており(24.0%減)、これら外需の好調さが内需の不振を緩和する効果を果たした。景気は依然として深刻だが、10年のGDP成長率は、民間投資の回復などによりマイナス1.9%と見込まれている。

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<3大銀行が破綻>
3大銀行(グリトニル銀行、ランズバンキ銀行、カウプシング銀行)は、08年10月に経営破綻し、相次いで国有化された。

それまで各行は、海外市場から巨額の外貨を短期資金として調達し、それを投資会社に融資し、投資会社は積極的に海外企業の買収などリスクのある長期の投資を行ってきた。ヘッジファンドのように大きなリスクを抱えるビジネスモデルだ。07年末の3大銀行の総資産はGDPの約9倍にも達する規模になり、政府が救済できる範囲を超えていた。08年初頭から各銀行の資金調達でスプレッドが拡大した。08年9月のリーマン・ブラザーズの破綻を契機に、国際金融市場が資金供給を手控えるようになり、各行は外貨の流出に対応することができず、経営に行き詰まった。

また、各行は国内でも企業や家計に対して積極的に融資を行い、景気が好調だったこともあり、株価や住宅価格の高騰をもたらした。企業や家計は巨額の借り入れを行い、外貨建ての借り入れも行われていた。その後、株価や住宅価格の暴落やクローネの下落により、企業や家計部門も巨額の損失を被った。

07年までの経済は、アルミニウム精錬事業の大型投資などの民間投資やブームの住宅投資、さらには好調の個人消費に引っ張られて高い成長率で推移してきたが、金融破綻の結果、投資も個人消費も大幅に減少し、マイナス成長の要因になった。

<IMFの緊急政策で当座をしのぐ>
政府は、IMFに緊急融資を要請し、08年11月に総額21億ドルの融資を受けることで合意した。また、政府は、北欧諸国から合計で25億5、000万ドルの融資を、ポーランドから2億ドルの融資を受けることでも合意した。

政府は、持続的な回復を確実にするための主な課題として、財政の持続可能性、通貨の安定、金融部門の再構築を掲げている。

07年の公的債務残高はGDPのわずか23%だったが、10年にはGDP比111%まで急増することが見込まれている。08年は、税収の低迷に加え、銀行の破綻処理などに伴う歳出の急増のため、財政赤字はGDPの13%になった。09年は、税収の一層の低迷に加え、失業保険給付や利払い費の増加があり、公共投資を削減しても、なお財政赤字はGDP比17.2%まで拡大する見込みだ。

10年予算では、消費税率の引き上げ、富裕層への課税などの増税を行うほか、行政経費や公共投資の削減などにより、財政赤字を9.6%まで縮小するとしている。さらに、11年には4.1%まで減少させる見通しだ。

通貨の安定に関しては、クローネの下落を防ぐため、政策金利の設定に際して適切な金融政策を行うとしている。また、08年11月に導入された資本規制では、09年10月に外貨の資本流入は自由化された。しかし、資本流出についての規制はまだ残されたままだ。

政府は、3大銀行を国有化した後、新・旧銀行に分離した。新銀行には国内の預金と貸し付けを移管し、旧銀行には外貨建て債務などが残された。新銀行は当初、資本を持たず、資産が負債を上回った分は旧銀行の債務者への返済に充てるとされていた。政府は、09年7月に各行のResolution Committee(委員は金融監督庁が指名した会計監査法人、裁判所関係者などで構成)と債務処理と資本注入などについて合意した。

この結果、旧銀行のResolution Committeeと政府は、新銀行に対してTier1比率(国際決済銀行が定めた自己資本比率に対する規制で、自己資本の中の基本的項目の比率)が約12%になるよう資本注入を行うとされた。その後、2行については09年9月に資本注入が行われ、残りの1行にも09年12月に実施された。また、政府は、議会に金融規制と監督機能を強化するための法案および預金保険に関する法案を提出している。

<豊富な水力・地熱発電を生かしアルミニウム産業が成長>
国内の電力は、水力発電が75.5%、地熱発電が24.5%と、100%再生可能エネルギーによって賄われている。しかも、現在利用されている発電量は、潜在的な利用可能量の3分の1とされており、今後、さらに発電量を増やす余地がある。これまで安価で豊富な電力を利用して、アルミ精錬企業の積極的な誘致を図ってきており、大規模な投資が行われた結果、アルミニウム生産が主要産業の1つになっている。

地熱は、発電のほか、建物の暖房、融雪、温室などに幅広く利用されている。現在、地底深くまでドリルで掘り進むことによって、火山のマグマに近いところから500〜600度といった高温のエネルギーを取り出して活用する研究が進められている。また、再生可能エネルギーによって発電された電気で水素をつくり、水素燃料電池によって車や船舶を動かすといった取り組みも進んでいる。

<貿易は赤字から黒字に転換>
09年の輸出は、為替レートの下落で、ニシン・タラ・シシャモなどの水産物が増加し、前年比7.3%増、輸入は内需の低迷で工業用原材料、資本財、輸送機械などが減少し、13.3%減となった(表2参照)。この結果、貿易収支は903億アイスランド・クローネ(1クローネ=約0.7円)の黒字に転じた。黒字は02年以来。

従来、水産物が主要輸出品目で、00年代初頭には輸出の6割を占めていたが、近年、アルミニウム製品が増えてきている。その結果、08年には、アルミニウムがその大半を占める工業製品が水産物を上回り、輸出の中で工業製品が5割、水産物が4割となっている。

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<EU加盟にはなお難問山積>
09年7月に、アイスランドはEUへの加盟を申請した。金融危機を通じて小国が自国通貨を防衛することの困難さを痛感し、EUに加盟しユーロを導入すべきとの考え方による。

94年に欧州経済領域(EEA)に加盟し、シェンゲン条約にも参加済みのため、国内法制度の多くはEUと整合している。アイスランドは、11年までの加盟交渉終了を目標としているが、漁業権をEUに開放することに国内での抵抗が強い。加えて10年1月にグリムソン大統領がアイスセーブ法案への署名を拒否し、3月の国民投票で法案が否決された(2010年3月9日記事参照)ことから、英国、オランダが態度を硬化させており、EU加盟への道筋は平坦ではない。

(岩元達弘)

(アイスランド)

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