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金融部門の強化と経済多様化を推進−金融危機後の成長モデルを探る(2)−

(欧州、ルクセンブルク)

ブリュッセル発

2010年06月02日

同国はサービス業を中心とした産業構造への転換に成功し、欧州の金融センターとしての地位を確立したが、金融危機に伴う景気後退の影響を受け、2009年の実質GDP成長率はマイナス3.4%まで落ち込んだ。今後は14年を目標に、歳出増によって悪化する財政収支を均衡させ、公的債務残高をGDP比30%以下に抑えることが課題になる。リュック・フリーデン財務相は「経済モデルの変更はない」と強調し、金融部門の競争力強化と経済多様化に引き続き注力していく考えだ。

<国際金融センターとして成功>
IMFは10年4月、世界経済見通し(WEO)を発表し、ルクセンブルクの1人当たりGDPを10万7,599ドル(10年)と予測した。金融危機前の10万6,983ドル(07年)に比べて616ドル増加しており、金融危機を経た現在も依然として世界首位の座を確保し続けている。

ルクセンブルクは、鉄鋼業に依存していた60年代から単一産業に依存する危険性を十分に認識し、経済開発政策を積極的に打ち出すことで産業構造改革を実現させた国だ(2008年9月19日記事参照)。70年代には石油ショックに伴う鉄鋼業の不振に直面するが、それ以前から経済の多様化を国是とし、a.欧州レベルでの経済協力関係の構築、b.投資誘致による経済多様化の推進、c.国際金融センターの開発、を政策指針としてきた。

中でも国際金融センターとしての成功は顕著で、金融監督委員会(CSSF)によると、4月30日時点で、24ヵ国150社の銀行が拠点を構えているとされる(表1参照)。ルクセンブルク中央銀行(BCL)のイブ・メルシュ総裁は「(銀行、投資ファンド、保険などを含めた広義の)金融業界は、ルクセンブルクのGDPの26%を生み出している。純粋な仲介業に限定しても15%に達する」(「レコー」紙4月27日)と、金融部門の重要性を強調する。間接的なものも含めると、同部門で6万5,000人の雇用が創出されているといわれ、労働人口の5人に1人が金融関連の仕事に従事していることになる。

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<ICT振興など経済多様化を推進>
政府は、情報通信技術(ICT)、電子商取引(eコマース)、メディア、物流、自動車部品、素材開発、プラスチック工学、医療技術、環境技術など先端技術を活用した新産業の育成にも力を入れている。

特に00年代に入ってICT振興を政策の柱の1つと位置付けた。EUの電子署名指令、電子商取引指令(注1)を加盟国の中で最も早い00年8月に国内法に導入したほか、政府と金融部門を中心とする主要企業は05年11月、官民共同事業として、認証機関ルクストラスト(LuxTrust)を設立した。ルクストラストが電子署名のための公開鍵基盤(PKI)を提供することで、政府ばかりでなく、金融部門やそのほかの企業、一般からの要望が強まっていた電子商取引でのセキュリティー強化に対応した。また、スカイプなど国際競争力を持つIT企業も誕生した。

09年3月には、インターネット環境のさらなる発展と、欧州の電子商取引のプラットフォーム化を推進することを目的に、商用インターネット相互接続ポイント(IXP)のルシックス(LU-CIX)を設立するなど、欧州のICTセンターとしての地位を築くために投資環境を整えている。

中小企業ばかりでなく、AOL、アマゾン、イーベイ、ペイパル、ナップスター、アップル・アイチューンズ、楽天など、数多くの多国籍企業が欧州本社の所在地としてルクセンブルクを選んだことも、ICT戦略の成功を示すものだろう。

<景気の影響を受けやすい小規模経済>
ルクセンブルクの財政は変動が激しい。これは、経済規模が小さい上、金融サービス部門からの税収や、非居住者からの税収が大きな比重を占める(注2)という特異な経済構造に起因している。景気が良く、金融サービス部門からの税収が増加する局面では財政が安定する一方、景気後退期には悪化が早い。

今回の金融危機では、多くのEU加盟国と同様、主要な金融機関の破綻を回避するため、公的資金の注入を余儀なくされた。さらに、経営が悪化した企業に対する国家補助(上限50万ユーロ)、貸し渋り対策としての投資保証、短期輸出信用保証の供与などによって、黒字だった財政は09年に赤字に転落した。07年にはGDP比6.7%だった公的債務残高も、13.7%(08年)、14.5%(09年)と年々増大した(表2参照)。

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財政収支は09年から赤字になったが、そのGDP比は0.7%と、EU27ヵ国のうちスウェーデン(0.5%)に次いで小さく、アイルランド(14.3%)やギリシャ(13.6%)に比べれば極めて小さい。しかし、10年には3.5%まで悪化するという欧州委員会の予測(PDF)もあり、楽観は許されない。

欧州委は5月12日、ルクセンブルクに対しては初めて、安定・成長協定に基づき、過剰赤字手続きを開始する報告書(PDF)を発表した。フリーデン財務相も「複数年にわたって公的債務を増やし財政赤字の埋め合わせをすることは、(国際金融活動に左右されやすい)ルクセンブルクが取るべき道ではない」「(EUからの勧告に従って)11年からは赤字を削減しなければならない」と強調する。

<14年の財政収支均衡を目標>
政府統計局(STATEC)は4月の景気速報(PDF)で、09年の実質GDP成長率はマイナス3.4%だったと発表した。危機の影響はほとんどの業種に波及したが、最も影響を受けたのは製造業と金融部門だった。国際金融センターのルクセンブルクで金融部門への波及は不可避で、09年に失われたGDPの3分の1が同部門の低迷に起因するとされる。

しかし、金融部門は09年第3四半期(前年同期比2.6%増)から回復し始めている。フォルティスやデクシアのような主要金融機関の破綻を回避するため、ベルギーやオランダ、フランスなどと協調して早期に公的資金を注入したことが、金融部門の信頼回復につながったともいえる。

フリーデン財務相は4月13日、財政赤字削減のための政府目標を発表した。14年に財政収支を均衡させ、公的債務残高をGDP比30%以内に抑えることを目標にし、「それ以降、歳出が歳入を上回ることは許されない」と表明している。同相は「レコー」紙(4月27日)とのインタビューでも「今日の債務は明日の税金となる」とコメントし、債務を減らし財政を健全化させる意向を繰り返した。

同相は、同紙から「危機の影響が最も強まったとき、問題の原点となる銀行や金融業界によって成り立つルクセンブルク・モデルの変更を考えなかったか」との質問を受け、次のように答えた。

「世界は金融・銀行業を必要としているし、実体経済には銀行が必要だ。しかも、(ルクセンブルクのような)小国にとってサービス部門は発展させるのが最も容易な部門だと考える。従って、ルクセンブルクの経済モデルを変更することはない。しかし、経済の多様化や、金融市場の強化・多様化は常に気にかけている」

(注1)各指令の正式名称は、「電子署名のための欧州共同体枠組みに関する欧州議会・理事会指令1999/93/EC」(PDF)(官報に掲載された00年1月19日に発効)、「域内市場における情報社会サービス、特に電子商取引の一部の法的側面に関する欧州議会・理事会指令2000/31/EC」(PDF)(官報に掲載された00年7月17日に発効)。ルクセンブルクは、これらEU指令を「00年8月14日法」で国内法に導入(即日発効)した。
(注2)ルクセンブルク経済開発局によると、近隣国から越境通勤している「コミューター」は労働人口約30万人の約3分の1を占めるとされる。彼らは統計上、ルクセンブルクの人口に含まれておらず、ルクセンブルクの1人当たりGDPが高額になる要因の1つになっている。

(和泉浩之)

(ルクセンブルク)

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