上水道整備は喫緊の課題、遅れる下水道整備−西バルカンのインフラ整備プロジェクト(5)−

(北マケドニア、アルバニア、コソボ、欧州)

ウィーン発

2010年05月21日

飲料水の確保はいずれの国でも市民の関心が高く、特に上水道整備が遅れているアルバニアやコソボでは喫緊の課題と位置付けられている。下水道は汚水処理の実情が目に触れにくいため、マケドニア、アルバニア、コソボの3ヵ国とも上水道に比べて市民の関心は薄く、整備も上水道に比べて遅れている。案件は多いが、欧州企業が強い分野だけに日系企業の参入には工夫が必要だ。

<追いつかない飲料水の供給>
アルバニアやコソボでは、上水道の整備が立ち遅れていた上、近年の急速な経済復興と建設ラッシュで飲料水の供給が追いつかなくなっている。

アルバニアでの上水道整備の優先プロジェクトについて、公共事業・交通・通信省で上下水道を担当する部局のハリ局長は次のように説明した。

人口第2の都市で、国内最大の物流と旅客輸送用の港湾があるデュレスでも飲料水供給が十分でなく、喫緊の課題として整備を進めたい。整備計画は、市内2ヵ所に地下水をくみ上げるためのポンプ、貯水槽、水の軟化装置を建設するもので、1ヵ所は2010年、遅くても11年までに建設し、もう1ヵ所も12〜13年には整備したい。前者で毎秒200リットル、後者で毎秒800リットルの飲料水を新たに供給する。特にポンプは、省電力で効率の高いものを設置したい。

ただ、前者は既に設計が済んでいるが、まだ財源が確保されておらず、後者は設計も財源確保もこれからだ。政府予算を主体とするが、外国政府などからの低利融資にも期待している。アルバニアには地区ごとに自治体などが運営する上下水道管理公社があるが、融資の決定は公共事業・交通・通信省に実質的な権限がある。

コソボの上水道整備の状況について、国内人口の約4割に当たる55万人にサービスを提供しているプリシュティナ水道公社のブブラク社長は、次のように説明した。

水道水は供給量不足で毎日10〜12時間は断水する。現在、首都プリシュティナ郊外北部にあるアルバニク人工湖から毎秒800リットル、プリシュティナ郊外南部にあるバドフツ人工湖から毎秒400リットルを取水し、さらに20ヵ所の地下水くみ上げ場からも取水している。

飲料水の供給量を増やすために、新たな地下水源の探索やイバル灌漑用水の転用が計画されている。地下水源の調査はドイツ復興金融公庫の融資で調査が行われる見込みだが、有望な新地下水源は見つかりそうもない。イバル灌漑用水の転用は、世界銀行などさまざまな国際機関が調査実施を政府に提案しているが、調査がいつ始まるかは未定だ。

水道管の漏水や不法な取水行為への対応も課題で、水道管の漏水率は約5割に上る。技術的な漏水対策工事は、ドイツ復興金融公庫などからの融資を受けて実施する予定。国内の上水道管の総延長距離は約800キロに及ぶ。また、米国際開発庁(USAID)の融資によるプリシュティナ近郊町村の上水道整備計画が進んでいる。

ポンプなどの設備納入や飲料水供給が追いつかない都市の上水道整備には、ビジネス機会がある。

<下水道整備ではスコピエ、ティラナで日本勢がFSを実施>
上水道に比べて下水道の整備状況はさらに遅れている。上水道は対象地域の約9割が整備されているというマケドニアでも、下水管の総延長距離は上水管の半分程度(約540キロ)にとどまり、下水管が整備されていない家庭などでは腐敗槽を利用している。下水管がつながっていたとしても、汚水は無処理で川などに放流されている。

アルバニアやコソボでも下水管の整備は上水道に比べて遅れており、やはり腐敗槽が利用されたり、下水管が下水処理場を介さずに河川につながっていたりする。コソボでは、雨水用の溝に汚水が垂れ流されている場所もあるという。

マケドニアの首都スコピエでは、09年6月までに国際協力機構(JICA)による下水道整備のフィジビリティー・スタディー(FS)が行われた。しかしスコピエ水道公社のジョレフスキ技術部長によると、下水道整備についてはFSを受けた具体的な工事計画は始まっておらず、これから検討する段階だという。政府は、スコピエの下水道をEUの加盟前支援措置(IPA)の支援基金による無利子または低利の資金で整備したいと考えている。下水道整備事業の財源は財務省が判断する。

アルバニアでは、国内全土の下水道整備に関するマスタープラン作成が予定されており、水道担当部局のハリ局長によると、まもなく作成業者の入札が始まる。一方で、下水道整備の優先度が高い首都ティラナについては08年4月に111億2,100万円を上限とする円借款(アンタイド)が決定しており、この資金で整備が進められる予定。ハリ局長によると現在設計中で、事業規模が大きいためいくつかの区画に分けて入札を行う。

ティラナ以外では、過去にドイツ復興金融公庫などの融資で整備された都市もあるが、基本的にはマスタープランを受けて整備計画が策定されるという。

コソボ環境省のベスコビッチ・アドバイザーによると、コソボでも下水道整備に関するマスタープラン作成の必要性を政府は認識しており、世界銀行などとの協議を行っているが、まだ具体化されていない。

プリシュティナ水道公社の10〜14年のビジネスプランによると、10年中に40万ユーロの融資または補助金を受けて下水処理施設に関するFSを行い、12年から順次建設に移したい意向。同社は具体的な財源としてEUのIPAの支援基金に期待しているが、外国政府などからの融資にも関心を持っているという。

下水道整備については、主要都市を含めてこれから計画が具体化される段階にあり、調査から案件の形成、機器の納入や建設まで、さまざまな商機が外国企業にある。

上下水道整備の案件は多いが、大半の案件がアンタイドの国際競争入札にかけられるため、ベオリア・ウォーターやGDFスエズなどの水メジャーと日系企業の参入条件は同じだ。例えば水不足が課題のコソボへの水リサイクルなど技術力を求められるアイデアや仕様の売り込み、官民共同での現地政府への売り込みなど、参入に当たっては工夫が求められよう。

(木場亮)

(マケドニア・アルバニア・コソボ)

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