価格や官民連携で日本の牙城に迫る−中韓企業躍進への対応−

(インドネシア)

ジャカルタ発

2010年05月07日

中韓企業は主に電機・電子分野での躍進が目立つほか、インフラ事業の分野でもプレゼンスを高めている。しかし、いまだに日本企業、日本製品に対する絶対的な信頼は揺らいでいない。日本勢にとってこの優位性を武器にどのように戦っていくのかが課題になる。シリーズ最終回。

<ブランドイメージの確立に成功した韓国家電>
家電分野は、もともと日本優位の市場だ。例えば地方では、「ナショナル」が欲しいと家電販売店を訪ねる客がいまだにおり、「パナソニック」に変わったと伝えると「いらない」という答えが返ってくるという。「家電=ナショナル」というほどに浸透しているということだろう。地場企業が「ナショナル」によく似たロゴを作ったほど、日本の家電メーカーは絶対的な地位を確立してきたといえる。

ところが、近年は韓国のLGエレクトロニクス、サムスン電子が国内市場で大きく伸びている。消費者の満足を得られるスペックを確保した上で、多くの製品を日本製よりも安く提供し、また、インドネシア専用モデルの投入にも工夫がみられる。LGが発売した、デング熱を媒介するネッタイシマカを撃退するエアコンはその典型だ。

また、日本勢の未参入分野で、韓国企業が大きく伸びているのが携帯端末だ。インドネシアの携帯通信市場は大きく成長を続けており、2009年末時点で大手3社だけでも契約数は1億4,000万件を超える。携帯端末市場は、ノキア、ソニー・エリクソンが牽引しているが、LG、サムスンが投入するスタイリッシュで手ごろな価格の携帯端末も人気を集めている。両社とも、非常に上手にブランドイメージを確立したという印象だ。

市場調査会社GFKによると、08年の家電シェアではLGが25.1%でトップに立つ。日本勢ではシャープが20.9%でLGに続くシェアを持つが、シャープを含めた日本メーカー4社のシェアは50%強だ。一方、韓国勢はLG、サムスンの2社で35%強のシェアを獲得している。日系家電メーカーの幹部は「韓国勢の強さは広告宣伝のやり方にある。例えば、ジャカルタ国際空港に設置されているテレビはほとんどがLG、サムスンだが、広告宣伝用に無料で設置しているようだ。同じやり方は無理かもしれないが、日本勢にも工夫が必要だ」という。

<官民連携でインフラ分野に参入>
インフラ分野にも韓国が参入している。自国の林業事業者の進出に当たり林業特区の設置を求め、特区周りのインフラは自前で整備するといった、官民連携ともいえる手法での参入を検討している。鉄鋼分野では、ポスコが国営製鉄最大手のクラカタウスチールと組み、大規模な鉄鋼事業に乗り出すことを決めた。インドネシアの鉄鋼生産量を倍増する一大プロジェクトを、11年にかけて手掛けていく計画だ。

<台頭する中国製品、発電分野でも存在感>
パソコンでは日本、米国などのブランドの知名度、信頼感は依然として高いが、台湾のエイサーが低価格での攻勢を強めるなど競争は激化している。中国企業では、レノボ(聯想集団)の存在感が増している。また、携帯端末の分野でも、ノキアなどの高機能携帯端末とよく似た形状の端末が投入されるなど、急速に中国製品の浸透が進んでいる印象がある。

自動車の分野は、日本車のシェアが95%に上り日本勢の独壇場ではあるが、先般、中国の自動車メーカーの進出が報道された。主に低価格車の分野に参入するとみられる。

貿易では、10年に入って中国製品の大量流入に対する警戒感が強まっている。1月に本格発効したASEAN・中国自由貿易協定(FTA)により、廉価品を中心とした中国製品の大量流入が国内産業に大打撃を与えるとの懸念が広がっている。インドネシア側が中国に求めている関税撤廃の延期は実現性が低く、国内規格の導入といった非関税障壁による対応にも限界があり、今後、中国製品の流入増加は避けられない状況だ。

インフラ分野でも、中国の存在感が増している。深刻な電力不足に悩むインドネシアは、その解消に向けた1万メガワットのクラッシュプログラムを導入したが、石炭火力発電の第1次プログラムでは、価格で勝り、迅速な資金拠出が可能な中国が大部分を請け負う結果になった。日本企業には、再生可能エネルギーで5割を賄う予定の第2次プログラムで、特に地熱発電分野での受注が期待されている。

中韓企業の台頭は目覚ましいが、それでもインドネシアは日本が優位性を持つ市場であることは確かだ。地場企業が自社製品に日本語の宣伝文句を入れることもあり、驚くほどに親日的だ。価格が安ければ売れる市場というわけではない。現に、同じクラスの日本車よりも3割以上も安い中国製の自動車は、ほとんど街中では見かけない。日本企業にとっては、現地の特性をしっかりとらえ、ニーズにあったものを着実に投入することがカギになる。

(塚田学)

(インドネシア)

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