欧州委、航空産業に包括的支援策−アイスランド火山活動の影響−

(EU)

ブリュッセル発

2010年04月30日

欧州委員会のカラス副委員長(運輸担当)は4月27日、今回のアイスランド火山噴火の影響を踏まえて、航空産業への包括的な支援策を発表した。支援策には、噴火の影響に対する一時的措置・緊急対応策だけでなく、構造的な改革も含まれている。

<柔軟な一時的措置が必要>
カラス副委員長は発表で、航空各社への影響を緩和するために、柔軟な一時的措置が必要との認識を示した。例えば、夜間飛行の制限では、立ち往生した航空機利用客が早く帰途に着けるよう、また航空貨物便が正常に戻るように、加盟国が制限を一時的に緩和できるようにすべきだと指摘した(注)。また航空各社が航空路管制に通常支払う経費について、一定期間、支払いの一時的な引き延ばしを認める措置なども挙げた。

<国家補助は一定基準の下で実施>
また、欧州としての協調を確実にするため、緊急に取り組むべき課題を指摘した。その1つとして、航空各社の損失を補う支援策は正当化されるとの認識を示した。EUでは、加盟国の企業支援が国家補助に当たるとされた場合、原則として欧州委の認可を受ける必要がある。欧州委は、支援が国家補助のかたちなら、欧州レベルで確立された基準で実施されなければならないと指摘した。欧州委は国家補助のガイドラインを提示する意向だという。

即時協調して取り組むべき課題として、航空機利用客の権利のエンフォースメントを挙げた。企業間の対等な競争環境(レベル・プレイング・フィールド)を確保するために、どの航空会社も法的義務を怠って利益を得ることは許されないとして、欧州委としても各国の管轄機関と協力し、共通の実施基準を確認する考えがあることを明らかにした。

さらに、今回の大規模噴火のような災害に備えて、早急にリスク管理計画に取り組む必要性も指摘した。欧州委は、専門家グループを組織し、リスク管理のための手法を開発しようとしている。諸外国とも連絡を取りながら、10年9月に開催予定の国際民間航空機関(ICAO)の総会に、EUとしての提案を提出する意向だ。

<欧州空域一元管理に向けて作業急ぐ>
欧州委は、中期的な観点から構造的な課題についても言及した。第1に欧州空域の一元的管理の必要性を指摘した。特に、今回のような欧州全体の危機に直面した場合、強固な協調があって初めて欧州として迅速な対応が可能になるとし、10年末を目標に欧州空域の一元管理に向けた作業を進めることを明らかにした。

また長期的な観点からも、運輸全般の危機管理計画に取り組む必要性を取り上げた。特に今回の経験を踏まえて、ある運輸手段、例えば飛行機が運航できなくなった場合に、ほかの手段、例えば鉄道が迅速に代替することが求められている。このために、汎欧州移動計画を推進する必要があると指摘した。

カラス副委員長は、航空会社の基盤となる環境整備について、長期的に航空会社を支援する協調的な取り組みを確実にすると同時に、今回のような危機への対応をフォローアップする仕組みを創設する考えがあることを明らかにした。

これらの包括的支援策は、5月4日の臨時の運輸相理事会で議論される見込みだ。

(注)欧州委の説明文書(PDF)によると、空港での騒音関連の運航制限に関する指令2002/30/ECが、騒音被害を防止するための運航制限の基準を規定している。しかし、同指令には緊急時の一時的な制限解除について定めがないことから、通常時は運航が制限される時間帯に制限を解除できるかは明らかではない。そこで欧州委は柔軟な運航を認めることを明らかにした。

(岩田知統)

(欧州・EU)

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