爆発事件で多数の死傷者、情勢緊迫化

(タイ)

バンコク発

2010年04月23日

バンコクで4月22日夜、複数回の爆発事件で多数の死傷者が出るなど、緊張が高まった。治安当局による再度の強制排除との観測が一時駆けめぐり、反政府団体(UDD、通称赤シャツ)の警戒が強まるとともに、周辺日系企業も対応に追われた。赤シャツ、反タクシン派の黄シャツ以外の市民グループも、赤シャツに対抗する集会を行った。4月22日時点の情勢を報告する。

<シーロムで爆破事件発生>
4月22日20時過ぎ、シーロム通りに所在するBTSサラデーン駅付近で、複数回の爆発が起きた。サラデーン駅周辺には、日本人も多数利用する繁華街が近接する。23日1時時点での報道によると、死者3人、負傷者70人以上に達している(「バンコク・ポスト」紙4月23日速報)。他方、シーロムでは赤シャツとシーロム地区住民の間で瓶を投げあうなど小競り合いが起きたもよう(「バンコク・ポスト」紙4月22日速報)。

さらに軍と思われるヘリコプターが付近上空を旋回し、それを威嚇するためと思われるロケット花火が数十発発射されるなど、シーロム地区近辺の緊張が高まった。

22日深夜、ジェトロが複数のルートに聞いたところ、23〜25日にかけて治安当局が強制排除を計画している可能性が高まった、ラチャダムリ周辺に居住する日本人駐在員が別地域へ一時転居(避難)を始めた、といった情報があった。

<治安要員の配置強化で赤シャツの警戒強まる>
22日までの情勢を整理すると以下のとおり。

赤シャツは、伊勢丹など商業施設が集積するラチャプラソン交差点での集会を継続している。同交差点を中心に、寝食をする生活場所や救急処置用としてのテント、簡易トイレや水浴び所、Tシャツや鳴子などのグッズを販売する露店や飲食用屋台などが路上に立ち並び、東西約2キロ、南北約2.5キロの道路を封鎖、占拠している。一般車両の通行は赤シャツの検問により著しく制限され、事実上通行できない状態が続いている。

他方、赤シャツがシーロム通りでの座り込み占拠を目指す動きをみせたことから、19日以降、治安当局はシーロム地区を中心に周辺の治安要員の配置を強化した。このため赤シャツは、治安当局による強制排除を警戒し、占拠地域の端側に位置する交差点などで、車両、タイヤ、竹やりなどによりバリケードを作り検問を強化した。

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<赤シャツに反対する新たな市民グループ登場>
赤シャツの主張する即時下院解散や市街地占拠に反対する市民グループも、活動を活発化した。報道などでは、この市民グループは、インターネットやSMS(携帯電話のショート・メッセージ・サービス)の呼び掛けで自然発生的に集まっているとされる。反タクシン派の黄シャツ、タクシン派の赤シャツに対して、中立の意味で服の色を特定していないことから、マルチカラーグループ(Multi-colored group)と呼ばれ、昼時や夕方にさまざまな場所で集会を開いている。

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21日17時ごろからシーロム地区の市民がドゥシタニホテル近くのシーロム通りに集まり始め、ラマ4世通りを挟んでバリケードを築いている赤シャツとの間で非難合戦がエスカレートした。23時ごろにかけて瓶などの投げあいとなり、赤シャツが花火のようなものを発射する事態に発展、警察が仲裁に入ったが、複数の負傷者が発生した(「バンコク・ポスト」紙4月22日など)。

出会い頭に不測の衝突が生じかねない情勢だ。

<一層警戒を強める日系企業>
シーロム地区で治安当局と赤シャツの衝突があると懸念された19日以降、市民間の対立があり、21日には、ラチャプラソン交差点の集会地点が治安当局による強制排除を受けるといったうわさが駆けめぐったことから、周辺の日系企業では緊張感が一層高まった。ジェトロの入居するオフィスビルでも一時休業、あるいは業務場所を一時変更する企業がみられ、多くの企業で何らかの対応を迫られる状況となっている。また、ジェトロ入居ビルの隣では、タイ大林が高級ホテル「セントレジスバンコク」を建設中だが、赤シャツの道路封鎖に遭い、物理的に車両が入れず作業ができなくなっている。

ジェトロが日系企業などに21、22日、再度聞いたところ、各社の対応は次のとおり。

○シーロム通りにある日系A社
事務所は一時閉鎖中で、ナショナルスタッフも含め自宅待機中。ビジネスへの影響は大きい。今後のプロジェクト実施が、政情不安を理由に延期されないか懸念している。

○シーロム通りの南側に並行して走るサトーン通りにある日系B社
伊勢丹などに卸している一部食品産業に影響が出ている。本社側はタイへの不要不急の渡航は自粛している。タイでジョイントベンチャーを組んでいる企業の株主総会の時期に当たるが、バンコク郊外の工場の会議室で株主総会を開催することにし、出張者も出席する。

○シーロム通りの北側に並行して走るスリウォン通りにある日系C社
物流自体に大きな影響は出ていない。顧客メーカーは大きな支障はないという。オフィス自体も通常営業中。

○赤シャツがテントを張り通行が制限されているラチャダムリ通りにある日系D社
今まで決算作業もあり頑張って業務を続けていたが、22日午後からやむなく事務所を一時閉めた。23日はパソコンを持ち出し、外部で業務を継続する。ドゥシタニホテル近くで小競り合いなどもあり、オフィスがさほど離れていないことから、家族を含めたナショナルスタッフの間に動揺が広がった。赤シャツはヤワラート(中華街)方面へデモ行進するとも報じられており、どこで何が起きても不思議ではない。アピシット首相の私邸が日本人居住区に近く、どの場所が安全かを予見することはかなり困難。

○ラマ4世通りにある日系E社
19日から17時退社、残業禁止となっている。この混乱がいつ収束するとも知れず、いったん渡航禁止とすると、それを解除する時期を決めるのが逆に難しくなるので、出張者の渡航は禁止していない。

(鶴岡将司)

(タイ)

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