中国のBYDが電気自動車市場に参戦−中韓企業躍進への対応−

(米国)

サンフランシスコ発

2010年04月22日

中国の電池・自動車メーカーの比亜迪汽車(BYD)は、携帯用バッテリーで世界的企業に成長し、電気自動車(EV)、エネルギー貯蔵、再生可能エネルギーへと業態を広げ、米国市場参入をうかがっている。EVについては技術的に未知数だが、著名投資家ウォーレン・バフェット氏が投資し、ダイムラーが技術提携する。

添付ファイル: 資料PDFファイル( B)

<10年中に米国EV市場参入か>
成長企業や成長市場に詳しい「ファスト・カンパニー」誌(2010年2月号)は、「10年で最も革新的な企業50社」を発表し、その第16位にBYDを選んだ。同誌はBYDについて「10年中に電気自動車(EV)『e6』を投入する計画だ。どの州にもまだディーラーを持っていないが、同社の強みは独自のリン酸塩リチウムイオン電池。BYDによると、価格が既存電池の5割で、2,000回の充電に耐え、フル充電で200マイル(1マイル=約1.6キロ)の走行が可能だという。太陽電池を作るBYDが自動車でも成功すれば新たな成功物語になる」と紹介した。BYDは米国でBuild Your Dream(「夢を創る」)の略で通っている。

このほか「最も革新的な企業50社」には、アジアからHuawei(中国)、アリババ(中国)、HTC(台湾)、サムスン電子(韓国)、VNL(インド)、ファーストリテイリング(日本)、Huayi Brothers(中国)などが入った。同誌は選定基準を明らかにしていないが、財務などのデータよりも「企業がどのように行動しているか」を重視しているという。

<「米国企業でもある」と強調>
10年1月24、25日にロサンゼルスで開催された環境系イベント「VX2010」で、BYD アメリカのフレッド・ニ(Fred Ni)社長が基調講演した。概要は以下のとおり。

BYDは1995年に従業員わずか20人で創業し、現在、投資家のウォーレン・バフェット氏が株の一部を所有している。つまりわれわれは急成長中の米国ローカル企業でもある。

BYDの第1の柱はグリーンエネルギー。ニッケル・カドミウム電池では世界のシェア70%を占め、ハイブリッド車に使われるニッケル・メタル水素電池のシェアも世界第3位だ。中国の工場では、毎日100万個の携帯電話用電池を生産している。

第2の柱が自動車。われわれは03年に自動車ビジネスを開始し、05年の販売台数は2万台にすぎなかった。それが09年には年産45万台に達し、中国で第4位に成長した。15年までに世界最大の自動車メーカーになる。

3つ目の柱はITのODM(相手先ブランドの設計製造)。ノキアの携帯電話の30%、モトローラの主力製品「Razr」の80%を製造している。キッチン用品・工具のブラック&デッカーも主要顧客だ。

08年12月にプラグインハイブリッド車の「F3DM」を中国市場に投入した。世界最初の量産プラグインハイブリッド車だ。走行距離60マイルまでは電気だけで走り、それ以上はガソリンで発電機を回す。100%EVの「e6」も中国で販売した。10年末には米国でもデビューさせる。急速充電器を使えば10分で50%の充電が完了する。電力が最も安い時間に自動的に充電する仕組みも用意している。

また、再生可能エネルギー、エネルギー貯蔵システム、水の浄化システムを組み合わせた街づくりの実証実験を中国で進めている。これは南カリフォルニアの気候にも合うシステムだ。特に今後、再生可能エネルギーが電気系統につながれていく場合、出力の不安定なこれらのエネルギーの弱点を、われわれのエネルギー貯蔵技術によって補正することができる。

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<10年半ばのEV量産計画は断念との報道も>
ニ社長の講演は、随所に米国市場・消費者を意識した企業名、製品名、都市名を散りばめ、米国市場に早く受け入れられたいという思いを感じさせた。新興企業のためブランド力に劣り、実際米国では、自動車でも環境・エネルギー分野でも実績がほとんどない。米国人は「バフェットが投資したBYD」、「ダイムラーが提携したBYD」は知っていても、実際にその完成品に触れた経験がほとんどないため、講演内容はそうした点への配慮がにじんでいた。

例えば、プラグインハイブリッド車の60マイル、EVの200マイル超という走行可能距離は、一般に米国で望ましい水準と考えられているものだ。

なお「ブルームバーグ」と香港の「サウスチャイナ・モーニングポスト」紙(3月16日)によると、BYDの王伝福会長は「10年半ばまでにEVを量産する計画を断念した」と述べたという。事実だとすると、米国でのデビューもそれに合わせ、大きく遅れることになる。

会場では「米国市場で中国ブランド(の自動車)は難しいだろう」(米系電源部品メーカー)との声のほか、「米国でも間違いなく大企業になる」(薄膜太陽電池メーカー・G24i共同創設者のロバート・ハーツバーグ氏)との声もあった。まずはEV「e6」の投入待ちというところだ。

<売り上げ重視、利益は後回しの路線が続くか>
米国で上場している環境技術(クリーンテック)系中国企業の業績について、10年3月25日時点で入手可能な株価、売り上げ、利益、利益率などを添付資料にまとめた。

それらの企業の特徴をみると、第1にいずれも創業15年に満たない若い企業だ。5年以内に設立された企業も3社ある。これらの企業が既に数千人から1万人を超える従業員を抱え、米国の株式市場に上場し、年間5億ドルを超える売り上げがある。その急成長ぶりはやはり目を見張るものがある。ちなみに米国企業では半導体のサイプレスの売り上げが4億6,000万ドル、ネットワーク機器製造のネットギアや特殊音声技術のドルビー研究所が7億ドルといったところだ。

第2に、売上高(3年間)の伸びに比べ、利益の伸びが非常に低く、全般に利益を犠牲にして拡張路線を進めている。最近1年間は、売り上げもマイナスまたは鈍化傾向だ。利益率は軒並みマイナスまたは1ケタで、唯一トリナ・ソーラー(天合光能)が10%を確保している。それはアナリストの評価にも表れており、同社株は表に掲示した8社の中で唯一、アナリスト(平均)が「強く買い」に推している。

第3に、株価はナスダックが52週(1年)間で59.5%上昇を示す中、それを上回っているのはインリー(英利緑色能源)、トリナ・ソーラー、カナディアン・ソーラー(CSI 阿特斯)の3社だけだ。アナリストの評価も「買い」〜「強く買い」はこの3社と、ナスダックとほぼ同じ51.6%の株価上昇を示したリニソーラー(四川瑞能)の4社に限られ、そのほかは「様子見」となっている。

大型契約締結のニュースとは裏腹に、経営は楽観視できる状態にはないようだ。米国の環境関連市場は今後も引き続き伸びていくため、企業が契約を獲得するチャンスはたくさんあるが、それが実態を見えにくくしている。売上高偏重の拡張路線を脱し、適切な利益を上げることができなければ、米国で長期にわたってビジネスを続けることは難しい。しかし、それは「コスト競争力」という中国企業の現在の最大の強みが発揮しにくくなることでもある。

(中島丈雄)

(米国)

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