大型案件獲得を進める中国の太陽電池企業−中韓企業躍進への対応−
サンフランシスコ発
2010年04月22日
環境技術(クリーンテック)分野への中国企業の進出は、コスト競争力を売りに太陽電池市場に偏っている。日本、欧州、米国企業に比べ、技術的にはまだ及ばないが、その積極性には目を見張るものがある。動向を2回に分けて報告する。
<中国のインリーが100MW級の太陽電池工場建設へ>
2009年から10年にかけ、米国のクリーンテック市場で中国企業が注目を集めるケースが相次いだ。ほとんどは太陽電池市場で、インリーは多結晶シリコンの太陽電池を、サンテック、トリナ・ソーラー、カナディアン・ソーラーとソーラーファンは単結晶・多結晶シリコンの太陽電池を製造する。いずれも米国株式市場に上場し、米国進出を本格化させている。中国クリーンテック企業の北米(米国、カナダ)での動きを紹介する。
○インリー(Yingli Green Energy:英利緑色能源)
09年7月15日、ニューヨークとサンフランシスコに米国本部を設置すると発表した。最高経営責任者(CEO)は元ゼネラル・エレクトリック(GE)の太陽電池部門上級職ロバート・ペトリナ氏だ。オフィス開設に際し、ニューヨーク市長とサンフランシスコ市長がそれぞれ歓迎の意を表明した。
10年1月13日、国内で100メガワット(MW)相当の太陽電池製造工場を建設する計画を発表。工場建設に対し、財務省から450万ドルの税控除を受ける。複数の候補地の中から建設地を検討中だ。
10年3月2日、ニュージャージー州の大型太陽光発電事業者のサンデュランス・エナジー(SunDurance Energy)に対し、10年第3四半期までに10MW以上の太陽電池を供給する販売契約を締結した。
○サンテック(Suntech:尚徳太陽能電力)
09年8月5日、サンフランシスコ市が調達する5MW相当の太陽電池供給契約を獲得した。09年第4四半期から納入開始。この調達でサンフランシスコ市の太陽光発電量は計7MWとなり、そのほとんどをサンテック製太陽電池が占めることになる。
10年1月27日、アリゾナ州グッドイヤー市に30MWの太陽電池工場を建設すると発表。工場では70人を雇用する。10年9月に生産開始予定。将来的には120MWにまで拡張可能だ。州知事や市長が歓迎の意を表明した。
10年2月24日、バンクーバー・オリンピックで紹介されたカナダ初のネット・ゼロ・ホーム(消費エネルギーのすべてを再生可能エネルギーで賄う)に対し、6キロワット(kW)の太陽電池モジュールを供給した。
○トリナ・ソーラー(Trina Solar:天合光能)
09年8月11日、コロラド州フォートコリンズのコロラド州立大学に2MWの太陽電池を納入。同大学と20年間の電力買い取り契約(PPA)を結んだリニューアブル・ベンチャーズが同社の製品を選択した。クリーンエネルギーに関するコンサルティング、エンジニアリング、プロジェクト・マネジメント・サービスを提供するコンサルタント会社のAMECが、全体のエンジニアリングを担当する。15エーカーの太陽電池施設は、国内の大学に設置される太陽光発電施設としては最大規模。大学全体の電力の10%以上を賄う。
10年3月10日、アリゾナ州や南カリフォルニア州で電力事業を展開するエスコ・ホールセール・エレクトリックと太陽電池供給契約を締結。10年中にトリナ・ソーラーは25MWを納品し、さらに4MWの追加供給もオプションとして用意している。この契約で同社は、米国で合計40MWの太陽電池を供給することになる。
○カナディアン・ソーラー(Canadian Solar:CSI阿特斯)
09年1月14日、カリフォルニア州サンラモンに米国統括拠点を設置。同拠点は販売、サポート、研究開発を担う。
09年12月3日には、10年中にカナダ・オンタリオ州で200MWの太陽電池工場の建設を開始すると明らかにした。同州の電力の固定価格買い取り(フィード・イン・タリフ)制度を利用して市場を拡大する計画だ。消費者に「メイド・イン・オンタリオをアピールする」と意気込む。工場では500人を雇用する。
10年3月9日、カリフォルニア州のアーモンド栽培工場ミンターン・ヒューラ協同組合の敷地2エーカーに540kWの太陽電池を納入。同組合の消費電力の20%を同社の太陽電池が発電する。
○ソーラーファン(Solarfun:林洋新能源)
09年10月22日、ブルース・ルデマン氏を北米総括に任命した。同氏はフューエルセル・エナジー、シーメンス、エンジニアリングメーカーのABBの上級執行職を歴任した。
<韓国のサムスンもカナダで契約>
このほか、サムスン電子が10年1月21日、韓国電力公社と共同で、カナダ・オンタリオ州で複数の風力発電(400MW)、太陽光発電(100MW)開発プロジェクトに約60億ドルを投資する契約を結んだ。最終的な発電量は同州電力需要の約4%に当たる2,500MWに達する予定だ。
<大きな案件を獲得し、広く宣伝する>
中韓企業の動きにはいくつかの特徴がある。
(1)大型案件の契約や投資が目立つ。各社とも一般住宅用の太陽電池についてきめ細かく対応するというよりは、電力会社や商業施設向けの数百〜数十万kWの大規模発電を狙っている。コスト競争力がある上、「赤字覚悟の低価格で落札している」(米国環境コンサルタント)との声も聞こえる。
(2)米国政府や自治体との関係づくりに注力しており、工場開設や契約締結の際には大型のPRイベントやプレス対応を展開する。地元への雇用貢献や米国人の幹部登用に関しても積極的に情報発信している。オリンピックなどの注目度の高いイベントを活用したプロジェクトも目につく。
(3)米国に比べ競争の緩やかなカナダ市場での大型案件獲得にも積極的だ。カナダは豊富な化石燃料エネルギーと水力発電に恵まれており、本来、再生可能エネルギーが競争力を発揮するのは難しい。しかし環境保護の意識は強く、温室効果ガスの削減圧力、固定価格買い取り制度導入効果もあって、市場が拡大し始めた時期にあり、後発組の中国、韓国企業も参入しやすい。太陽電池市場の規模(設置ベース)は、米国の100分の1(08年、Global Markets Direct調べ)と小さく、それだけ伸びしろは大きい。
(4)カナディアン・ソーラーが典型だが、トリナ・ソーラー、サンテックなど、一見して中国企業と分かる社名はつけず、またウェブサイトもよく読まないと中国企業だとは分からない場合が多い。中国ブランドの弱さを示すと同時に、北米(グローバル)企業として認知されたいとの意識がうかがえる。
08年の大型太陽光発電施設プロジェクトは、サンパワー、ファースト・ソーラー、ソレック(現サンキング・ソーラー)、ソロン、BPソーラー、京セラ、シャープなど米欧日のブランドで占められ、中国ブランドは見当たらなかった(Global Markets Direct調べ)。依然として、米国市場での中国ブランド太陽電池シェアも小さい。しかし今後は、大型案件獲得をテコに、徐々にシェアを上げてくるだろう。
<価格競争に苦慮する日系企業、品質で勝負>
日本の大手太陽電池メーカーの米国営業担当者は次のように話している。
「08年以降、中国製太陽電池がかく乱要因となって、市場価格を引き下げてきた。利益が出ているとは思えない赤字覚悟の値付けだ。中国ブランド品もそうだが、中国で製造する米欧ブランドも同様に毎月価格を引き下げてきた。当社も苦しいが、負けずにコスト削減に取り組んでいる。一方で、太陽電池は20年以上高い発電効率を保たなければいけない。効率、耐久性、安全基準、無害材料の使用、リサイクル性、デザインなど、コスト以外にも消費者が重視する要素は多い。安かろう悪かろうではなく、信頼のおける製品を導入しようとするユーザーは多い。コスト競争力はもちろん必要だが、わが社としては、太陽電池はそれだけではないという点をアピールしていきたい」
中国企業が参入して巻き起こす価格競争は、先行者の日系企業を脅かす。しかし、日系企業は価格以外の要素の重要性を効果的にアピールできれば、勝ち目は十分にあるはずだ。
(中島丈雄)
(米国・カナダ)
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