航空業界への深刻な打撃を懸念−アイスランド火山活動の影響−
ロンドン発
2010年04月20日
航空管制を行っているナショナル・エアー・トラフィック・サービシズ(NATS)は4月19日(15時30分時点)、英国全土で実施している航空機の発着規制を20日7時まで継続すると発表した。他方、噴火レベルの低下がみられることから、スコットランドの空港は20日に再開するとの見通しを示している。
<火山活動の低下で規制を一部解除>
NATSは19日15時30分時点の情報として、噴火レベルが低下し、放出される火山灰は英国の航空管制に影響を与える高度にまで達していないと公表した。
NATSは、英国全土の航空機発着規制を20日7時まで継続するものの、以降はスコットランド上空とそれより南のティーサイド(北東イングランド)とブラックプール(北西イングランド)を結ぶ線以北に限り規制を解除し、スコットランド(内陸部)の空港は再開するとの見通しを示した。
ロンドンを含むイングランド地域とウェールズ地域については、気象局の最新情報によると火山灰の汚染地域が南方に移動を続けるとみられるため、20日のもっと遅い時間帯に規制が解除される可能生があると伝えている。
また、運航再開を急ぎたい航空各社も約30回のテスト飛行を行っているが、これら航空会社〔KLMオランダ航空、ブリティッシュ航空(BA)、ルフトハンザ、エールフランス〕のテスト飛行に特に問題は発生していないという(「タイムズ」紙電子版4月19日)。
<スーパーへの影響は軽微>
物流への影響について「タイムズ」紙電子版(4月19日)は、貨物機が運航できない影響として、マイクロチップ、切り花、郵便物などの配送が停止していると伝えている。一方、医薬品は国内に大量の備蓄があるため大きな影響はないとしている。
大手スーパーへの影響については「イチジク、パパイヤ、ライム、アボカドなど一部トロピカルフルーツの品ぞろえに影響があるかもしれないが、重大な問題はないと思う」とのウェイトローズのスポークスマンのコメントを紹介している。また、テスコやマークス&スペンサーも、取扱商品のうち空輸されているものは1%未満で影響は軽微だと伝えている。
<航空会社の株価は下落>
航空機の発着規制は、航空会社の経営に大きな影響を与えている。「ガーディアン」紙電子版(4月19日)は、発着停止措置のために発生する1日当たりの損失額は1,500万〜2,000万ポンド(1ポンド=約142円)で、EUと英国政府に補償を求めていくとのBAのコメントを伝えている。また「インディペンデント」紙電子版(4月19日)は、イージージェットがこれまでに4,500便を運休して20万人に影響し、被害総額は4,000万ポンドに上ると発表したと伝えた。
「タイムズ」紙(4月19日)は、4月16日のBAの株価が3.3%下落したと報じている。そのほかの関連業種の株価動向について「ガーディアン」紙電子版(4月19日)は、主要旅行会社のトーマスクックの株価が4.5%、TUIの株価が4%下落したと伝えている。
「ガーディアン」紙電子版(4月19日)は、航空会社の中には経営破綻に追い込まれるところも出てくる可能性があるとの航空業界専門家の懸念を伝えた。火山活動の影響が出る前にも、国際航空運送協会(IATA)は世界の航空業界が10年に28億ドルの損失を出すとの予測を発表しているため、今後飛行停止措置が延長すれば深刻な影響が出る可能性も否定できない。
同紙は、BA、ライアンエア、イージージェットといった英国の主要航空会社は合わせて40億ポンド近い現金残高を持っており、飛行停止措置が長引いた場合にも生き残れる可能性が高いと伝える一方、英国最大の操縦士組合の英国航空操縦士協会が「航空会社が経営破綻しないよう、政府は介入すべきだ」と表明していることを報じた。
<陸路・海路に振り替え客が殺到>
空路が閉鎖されたことで、移動手段を陸路と海路に求める人が相次いだ。「タイムズ」紙電子版(4月19日)は、フェリー(ブリタニー・フェリー、P&O、LDラインズ)を利用する旅客数が急増したとしており、ブリタニー・フェリーは17〜18日には通常の4倍の1,600件の「Foot passenger(車なし乗船)」の予約が入ったと伝えている。
また同紙は、長距離バスのユーロライン(英国)が英国発着のサービスのためバス約100台を追加投入したと伝えている。
このほかの影響として、「タイムズ」紙電子版(4月19日)によると、4月19日から新学期が始まる予定だった多くの学校で、教師と生徒が集まれず休校となった。また、多くの国際交換留学の学生グループが外国で足止めされており、米国や中国にいる学生は5月初めまで帰国できない可能性があるという。
外国で足止めされている英国人の帰国支援について「ガーディアン」紙電子版(4月18日)は、状況が悪化した場合、政府は海軍軍艦やクルーズ船、商船の活用、帰国のための中継地点としてのスペインの活用などを検討している、と報じている。
(中本健一、ジェームズ・ターナー)
(英国)
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