市場に合った商品開発でリードする韓国企業−中韓企業躍進への対応−
広州発
2010年04月19日
日本ブランドの薄型テレビは、高画質が評価されている。しかし、韓国ブランドも評価を高めており、日本ブランドと価格や販売台数シェアでほとんど差がない。日本は、コア技術を開発し続けることはもちろん、韓国が得意とする中国人の嗜好(しこう)に合わせた機能の付加や柔軟な商品開発、価格設定などの戦略を参考にすることも必要だ。
<IT、電子を中心に珠江デルタへ進出する韓国系>
大韓貿易投資振興公社(KOTRA)広州代表処の玉永在館長によると、広東省に進出した韓国系企業の数は、韓国輸出入銀行が把握している限りで700社余り、広東省政府統計(工商登記ベース)によると約2,000社、広東省各地の韓国系商工会組織の会員数合計は1,000社前後だという。業種では深センにIT、電子関連が多く、広州には衣料品関連が多い。
2009年は金融危機の影響で衣服、造船、金融業の業績が落ち込んだが、IT・電子業界は回復してきたという。大手ではサムスン電子が1992年広東省恵州市に、LGエレクトロニクスも翌93年に同じく恵州に進出し、電子製品を製造している。関連の韓国系サプライヤーも広東省内に数十社進出しているという。
最近では、10年に入って、LGディスプレーが広州経済開発区に第8.5世代TFT-LCD(薄膜トランジスタ液晶ディスプレー)パネルの生産工場建設に着手し、話題となった。12年に月産6万枚規模で生産を開始する予定で、関連部品産業の進出に弾みがつくと予想される。
一方、広東省内の日系企業数は、日系商工会組織に加盟している会員数を合計すると約1,800社で、日系の方が韓国系より多い。
広東省に在留する日本人は約1万5,000人(日本総領事館登録ベース)。一方、韓国企業の駐在員は家族帯同での赴任がほとんどのため、在留韓国人数は深セン市で約3万人、広州市で約2万人(玉館長)と、日本人より圧倒的に多いとみられる。
韓国は、09年の貿易依存度(GDP比)が75%(日本は28%)、輸出依存度が38%(同16%)と、いずれも日本の2倍以上だ(韓国貿易協会調べ)。玉館長は、内需に限りがある韓国は、海外市場に活路を求めなければ成長に限界がある。このため、積極的に海外に出ていく傾向が強いという。
<韓国語は採用の要件ではない>
一般的に韓国系企業は韓国語を話す地元の朝鮮族を雇用できるため、言葉の面では有利と考えられる。しかし、玉館長によると、当地の韓国系企業は彼らを採用する際、語学手当を若干プラスする程度で、韓国語ができるからといって優先的に採用、昇格させることはない。なお、広東省随一の外国語大学である広東外語外貿大学では、日本語専攻が1学年に180人以上いるのに対し、韓国語は30人と少ない。玉館長は「韓国語ができる人材の多さは韓国企業のアドバンテージではない。市場のニーズに合わせた柔軟な商品開発と現地化こそが成功の条件だ」と語る。
<家電や自動車では日本製が韓国製より人気>
図1は、ジェトロが10年2月に珠江デルタの消費者を対象に実施したインターネット調査の結果だ。製品別にどこの国の製品を買いたいか、すなわち人気度を示している。韓国ブランドと比べ日本ブランドは「家電(48.7%)」「自動車(29.4%)」「パソコン(20.2%)」で人気が高い一方、韓国ブランドは「衣服(14.5%)」で日本より人気が高い。このほか、自動車はドイツ(37.7%)、化粧品はフランス(32.5%)、衣服は中国(23.9%)、イタリア(16.7%)などの人気が高かった。
<国地域別好感度では韓国が日本より上>
珠江デルタでは、製品別に質問すると日本ブランドが一定の評価を得ているものの、もっと漠然とした、「好感度」という質問をすると、韓国は日本よりも高くなる。韓国は、「とても好き」「好き」の合計が68.3%と、香港・マカオ、欧州、台湾に次いで高い(図2参照)。一方、日本は63.0%と、南米、アフリカに次いで低く、特に「嫌い」という割合が目立って多い。
<価格では日韓欧ブランドが同レベルの薄型テレビ>
日系家電メーカーで薄型テレビの中国営業を統括している上海駐在員A氏によると、日本、韓国、オランダ(例:フィリップス)など外資系ブランドは、規格や付加機能が同等の場合、価格はほぼ同じ。中国ブランドは外資系ブランドより2、3割安い程度という。量販モデル(32インチ)では、ブランドによる価格差はほとんどなくなる。
また、A氏は「中国ブランドはわずか2年足らずの間に大きく販売台数シェアを伸ばした。中国ブランドは量販モデルの出荷台数が多いことも影響しているが、08年5月時点では最高で60%近くあった外資系ブランドのシェアが、現在では平均30〜35%程度まで落ちている」と指摘した。国慶節や春節といった、国内で最も消費が盛り上がる1〜2週間の短期商戦では、外資系のシェアが瞬間的に40%を超えることもあるが、通常期は中国ブランドが常に70%以上を占めるようになっている。
メーカー別シェアは、中国の海信(Hisense)、創維(Skyworth)、TCL、康佳(Konka)がそれぞれ10〜13%とトップで、外資系ブランドではシャープが8〜9%でトップ、次にサムスン、LG、ソニーが6〜7%で並んでいるという。
<品質をアピールする日本、付加機能を強調する中国>
日本ブランドの薄型テレビ各社のPRポイントは、シャープは亀山工場、堺工場でのパネル生産、東芝は独自の半導体技術と大分工場、パナソニックは発光効率を大幅に高めた「日本産」プラズマ・ディスプレー・パネル(PDP)と、いずれも「日本品質」をうたい文句にしている。
サムスンやLGは、発光ダイオード(LED)をバックライトに用いた液晶パネル(LCD)の採用による、より薄型のデザインで1歩先んじている。
中国系ブランドは、有線デジタルテレビ・チューナー一体型、インターネット接続機能で、映画・ゲーム・カラオケを楽しめるといった付加機能と低価格で差別化している。
外資系ブランドが中国系ブランドと同じ土俵で勝負をするには、価格差があり難しい状況だ。このため、差別化を図るには、液晶が苦手とする全方位画質や、高速画像の残像処理に差の出やすい大型画面の開発を急ぎ、多少高くても品質でカバーするしかないのが現状だ。
<韓国は消費者のニーズに合わせた商品開発が得意>
広州市の国美電器天河城店の売り場担当者B氏は韓国ブランド製品について、「サムスン電子は、自分自身を撮る際に便利なようにタッチパネルを前面にも装備したデジタルカメラや、コンピュータ型キーボード配列の携帯電話、そして特殊な波長の光線で野菜の鮮度を保つ冷蔵庫、デリケートな衣服を洗える手洗いモード付きの洗濯機など、新しいアイデアを真っ先に中国市場に投入し、人気を集めている」と語る。現地の消費者が欲しいと思う製品をいち早く開発し、投入することに重点を置いている。好景気を背景に、多機能商品の売れ行きが伸びている中国市場に合った商品を売り込み、成功しているといえよう。
一方、A氏によると、日系ブランドは中国でのラインアップを日本本社と中国法人の間で何度も協議し、最終的には日本本社が決定するという。また、現在のラインアップでは、録画機能やブロードバンド対応といった日本特有の機能を、中国モデルでは外している一方、中国モデルに特化した機能は付けていないという。従って、現地化を一層進め、意思決定を早めるような仕組みづくりを検討する余地がありそうだ。
<社会貢献も積極的にPRする韓国>
韓国ブランドが現地の嗜好を積極的に取り入れるのは、製品開発面だけではない。ジェトロが3月11日に開催した内販促進セミナーで講演した電通パブリックリレーションズの鄭燕氏は「中国の消費者は、企業の社会貢献度を重視し、消費者が能動的に情報を発信する」という。
鄭氏によると、サムスン電子はそれをよく理解しており、社員の個人的な週末のボランティア活動までもホームページで紹介し、社会貢献をアピールしているという。一方、同氏は「日系企業は社会貢献をしていても、積極的なPRをしないため販売増加に結び付いていない」と語った。
<高まる省エネ志向で、日本の技術力が問われる>
B氏によると、中国ブランドの薄型テレビは、パネルに奇美など台湾企業製のほか、サムスン、LGなど韓国企業製を採用していることがほとんどだという。日本ブランドも台湾製のパネルを採用している例が多い。こうしたOEM供給が一般的になっている一方、製品コスト全体に占めるパネルの原価が6〜7割と高い現状では、パネル製造のコア技術を持つかどうかがメーカーの利益を左右する。グローバルスタンダードを常に獲得できるような技術革新を絶やさぬよう、研究開発や特許出願のための政策支援も必要だ。
またA氏は、薄型テレビの消費電力は200ワット前後と高いため、消費者の間で省エネ機能に対する関心が高まっているという。日本ブランドの技術力があらためて試されるところだ。
韓国ブランドは現地の消費者の嗜好に合わせた商品投入で優位に立っている。日米欧などの主要市場が回復したとしても、引き続き中国市場が世界各社の主戦場となると思われる。日本ブランドにとっても、中国市場のさらなる開拓に当たって、企業の意思決定の迅速さや中国の消費者ニーズに沿った商品開発などが課題となりそうだ。
(西澤成世、鄒淮英)
(中国)
ビジネス短信 4bc820c9ac5d0