低価格とブランドイメージ上昇で韓国製品が人気−中韓企業躍進への対応−

(ハンガリー)

ブダペスト発

電気・電子製品分野などでは、低価格でブランドイメージも向上した韓国製品に人気が集まってきた。韓国からの投資も衰えず、韓国企業のプレゼンス向上に危機感を感じている日系企業が多い。中国企業のブランドはまだ確立されていないが、積極的な投資や政府間交流を行っている。他方、乗用車の販売では国民車の地位を確立したスズキのシェアが依然として高く、中・韓企業の追随を許していない。

<消費者の低価格品志向にマッチ>
韓国ブランドの人気は、人気ランキング・ポータルサイトKirarkat.huをのぞくと分かる。液晶テレビのカテゴリーで、サムスン電子(韓国)が1〜5位を独占。プラズマテレビは、3、4位にパナソニックが入っているものの、1、2位サムスン、5位LGエレクトロニクス(韓国)となっている(2010年3月12日時点)。

韓国ブランド人気の背景には、財政赤字削減を目指す政府の緊縮財政政策で、個人消費が低迷し、購買対象が低価格商品へシフトしたことがある。金融危機以降も財政出動を伴う消費刺激策などの発表がなく、さらに、雇用不安の増大、ローン貸し出し基準の厳格化などから、09年の個人消費は前年比6.7%減と大きく落ち込んだ。09年の国内小売り売り上げ(自動車・同部品除く)は前年比5.2%減、7兆2,793億フォリント(1フォリント=約0.5円)に落ち込んだ。

<活発な投資を続ける韓国・中国企業>
世界的経済低迷で海外投資に慎重な日本企業に対し、中・韓企業の投資は活発だ。最近では09年9月に韓国の液晶モニター製造ネクスト・ディスプレイが、約60億フォリントを投じてオーストリア国境付近セントゴットハードに工場を設置すると発表。10年1月には、現代自動車やフォルクスワーゲン(VW)向けにタイヤを生産・供給する韓国のハンコックタイヤが、生産拡大のため2億3,000万ユーロの追加投資を発表。11年8月までに生産量を現在の日産1万5,000本から3万本に増やし、12年には年間1,000万本を欧州市場に供給するとしている。

一方、中国企業の動きをみると、09年5月に通信ネットワーク機器製造の華為(ファーウエイ)が、当地の2ヵ所に電子機器の組立工場を設置すると発表。同12月にはバス製造の金龍聯合汽車(King Long United Automotive Industry)が、同社の欧州初となるバス組立工場の進出計画を発表した。同社は10年2月に、国営長距離バス運行ヴォーラン(Volan)のバス45台の調達を落札している。そのほか、化学品などを製造するワンファ(Wanhua)が、当地の同業ボルショッドケム(BorsodChem)の買収を目的に、同社の一部債権を取得した。

<EU・韓国FTAも日系企業の懸念材料>
ハンガリー貿易投資促進公社(ITDH)によると、当地の中国系企業の数は約5,000社で、その多くは商業、サービス分野の零細企業だが、スクリュー製造のチャンスゥオー・スタンダード・パーツ・ファクトリー(Changshu Standard Parts Factory)、旅行・ホテル運営などの北京ツーリズム・グループ、中国銀行といった大手企業もある。また、韓国系企業はサムスン、ハンコックタイヤなど製造業約10社を含め50社。日系企業は112社(うち製造企業40社、09年7月時点、ジェトロ調べ)だ。

こうした韓国企業・製品の当地でのプレゼンス向上に、危機感を持つ日系企業も多い。日系大手家電メーカーA社の南東欧地域販売担当者によると、欧州でのライバルは同業の日系企業のほか、フィリップス(オランダ)、サムスン、LGなどで、特にサムスンは液晶テレビでは、販売量、販売シェア、さらにブランドイメージでも日系企業をしのぐ勢いという。加えて10年中に発効が見込まれるEU・韓国の自由貿易協定(FTA)に、A社や別の大手家電メーカーのB社は「韓国製電化製品が無税で市場に流れてくる」と懸念を示している。一方、中国ブランド製品のプレゼンスは現状では低く、競争相手として意識はしていないという。

強力な韓国ブランド製品に対抗し、A社は、a.新規市場の開拓、b.欧州で未展開の商品の投入、c.ボリュームゾーンを狙った商品展開、の3点をマーケティング戦略に掲げている。特に一部家電分野は、欧州系ブランドが強く、韓国系はそれほどでもないので、勝算があるとみている。なお、長期的には新規市場として、環境関連分野(省エネ、蓄エネ)での投資を増やしていくという。

また、B社のマーケティング担当者によると、特に当地の消費者は、ポーランドやルーマニアなどほかの東欧諸国と比較して低価格志向が強く、韓国系ブランドが優位に立っているという。また、韓国企業の強みは価格だけではなく、商品デザイン、トップダウンによる企業意思の決定力、プロモーション力などにもあると指摘する。しかし電気・通信分野では、中長期的にはハードからコンテンツの勝負となるため、この点で日本は韓国に先行していると分析している。

<自動車市場ではスズキがトップ譲らず>
他方、自動車市場では様子が一変する。ハンガリー自動車輸入協会によると、09年の乗用車新車販売台数は、市場シェア1位のスズキ1万3,599台(シェア17.1%)に対し、起亜(韓国)2,013台(同2.6%)、現代(韓国)847台(1.1%)、双龍(中国)3台(0%)と、韓国車のシェアは低く、中国車に至ってはないに等しい。

スズキの国内販売C社の関係者によると、スズキ車のライバルはフォード、シュコダ、VW、オペルなどだ。韓国車は潜在的な競争相手ではあるものの、現状は市場シェアが小さく、また消費者がスズキ車と韓国車を比較するケースもほぼないため、直接の競争相手とはみていないという。

この関係者はまた、韓国車のシェアが大きく伸びていない理由について、a.体制転換後まもない91年から北部エステルゴムに生産拠点を持っているスズキの車は、国民車的な見方をされている、b.スズキ車は価格もリーズナブルで、メンテナンスのコストも安い、c.韓国車の品質は上がっているが、特別に新しいテクノロジーはない、d.韓国車を所有してもステータスシンボルとは見なされない、の4点を挙げている。

なお、金融危機以降の個人消費の冷え込みで、09年の国内新車乗用車販売台数は、前年比50.5%減の7万8,590台と大きく下落した。10年も大きな回復は期待できず、業界の厳しい状況はしばらく続きそうだ。

<中国は政府間交流を活発化>
一方、政府間交流の分野では中国の動きが活発だ。09年5月、中国投資誘致機関CIPAは、中国企業の投資支援などを目的に、初めての海外事務所を当地に開設する同意書に署名、準備が進められている。ハンガリー貿易投資促進公社(ITDH)によると、この海外事務所開設の立地選定理由として、a.地理的優位性(欧州の中心)、b.ブダペストと北京間の直行便、c.中国銀行の存在、の3点を挙げている。中国は当地を欧州市場向けの製造・物流拠点と見なしているという。

09年7月には、ピーター・バラージ外相が上海を訪問し、中国の楊潔チ外交部長と会談。10月には、習近平国家副主席が来訪し、両国間の経済関係の強化、貿易インバランス解消に向けたハンガリー製品の中国への輸出促進などについて、政府と合意した。さらに、09年12月には、最大野党のハンガリー市民連盟(FIDESZ)のオルバーン党首が、北京を訪問。習近平国家副主席と会談を行うなど、10年4月に予定される総選挙後を見据え、中国との関係作りに動いている。

なお、ITDHは経済関係強化のため、10年3月に中国国内で3ヵ所目となる事務所を重慶市に開設した。

(和波拓郎)

(ハンガリー)

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