韓国企業は中間層拡大に歩みを合わせて成長−中韓企業躍進への対応−
サンパウロ発
2010年03月31日
貧困層の所得向上政策、インフレ抑制、金利引き下げなどにより、危機を乗り越えて市場が拡大を続ける中、韓国企業の耐久消費財販売が勢いを増している。本社サイドがブラジルビジネスに寄せる期待も大きく、広告宣伝費をいとわない戦略をとっている。ブラジルでの中韓企業の動向を2回に分けて報告する。
<日本企業と入れ違いに進出>
直接投資額だけをみると日本が常に中韓両国を上回っているが、韓国企業は電気・電子と自動車の分野で大きな存在感を示している。ブラジルには約40の韓国企業が進出しているとみられるが、大部分は繊維、商業などの小規模事業だ。
電気・電子はサムスン電子、LGエレクトロニクスの2社が代表格。ともにレアル・プラン導入(94年)によるインフレ抑制政策でインフレの鎮静化が始まった90年代後半からブラジルビジネスを本格化させた。この時期、バブル崩壊の影響と企業戦略のアジアシフト、さらにブラジルで発生した債務危機とハイパーインフレという負の記憶によって、多くの日本企業がブラジルから撤退するか、大幅にビジネスを縮小させていた。
サムスンは86年に進出し、一度はブラジルの経済危機で撤退を余議なくされたが、販売市場としての潜在性に注目して再び力を入れている。2010〜12年にはエアコン、ブルーレイプレーヤー、液晶テレビ、デジタルカメラなどの生産ラインに1億6,510万レアル(約9,200万ドル)以上を投じるという(「バロール・エコノミコ」紙09年11月18日)。サンパウロ州カンピーナスとアマゾナス州マナウス(テレビ、エアコンなどを生産)に工場を持ち、約5,000人を雇用している(同紙)。
LGの進出は96年。携帯電話、パソコンモニターなどを生産するサンパウロ州タウバテの工場とテレビなどを生産するマナウスの工場で、約5,000人を雇用している。拡大する中間層の購買意欲に対応するため、同社も10〜12年に液晶テレビ、プリント基板などの生産関連に11億レアル(約6億ドル)以上を投じるとしている(同紙)。
業界団体などによると、薄型テレビ(液晶・プラズマ)ではサムスン、LG、フィリップスの3社で60〜70%の販売シェアを占め、携帯電話ではサムスン、LG、ノキア、モトローラの4社で80〜90%を占めている。国内市場は、テレビ(ブラウン管、薄型)で年間1,000万台以上、携帯電話も5,000万台を超える市場に成長している。
<露出度高く、販売は低価格で>
液晶テレビは、ソニー、パナソニック、東芝が現地生産している。携帯電話では東芝が、韓国勢も参入しているワンセグ携帯を販売している。日系企業の知名度は高く、ブランドイメージも良い。しかし、電気・電子部門で韓国勢に勢いを感じる要因は、a.露出度の高さ、b.低価格、c.豊富な商品ラインアップ、の3つに集約できる。
露出度の高さでは、a.テレビ・雑誌・新聞のマスコミ媒体、b.空港のモニターや大型看板などの屋外媒体、c.家電量販店、で、韓国勢の製品をよく目にする。韓国企業は量販店で高価格の売り場スペースを積極的に確保して、より多くの消費者に見せる戦略を重視している。LGは09年に、国内プロサッカー界で3位(注1)のサポーター数を誇るサンパウロFCのメーンスポンサーになるなど、スポーツを利用したマーケティングにも積極的だ。
ボリュームゾーン向けに低スペック製品を販売していることも勢いを支えている。不良率も高くなるが、消費者から申し出があればすぐに新品と交換する方針をとっている。TFT液晶パネルの世界生産シェアで、サムスンとLGが1、2位を占めることによる規模とコスト面のメリットは大きい。金融危機の影響が軽微だったブラジルでは、09年後半以降生産が追いつかないほど販売が伸びたが、年末に生産が追いついて低価格化が加速した。その時期の32インチ液晶テレビの価格は、量販店で1,700レアル(約950ドル)程度まで引き下げられた。
商品ラインアップをみると、薄型テレビ、デジカメ、DVDプレーヤー、パソコンなどは日系メーカーも生産、販売しているが、韓国勢がほぼ「1人1台」まで普及した携帯電話で豊富な製品群をそろえ高いシェアを持っている点は大きいと考えられる。
LGは、日系が本格参入していない冷蔵庫、掃除機、洗濯機などの白物家電も販売し、中間層のボリュームゾーンも含め、消費者の認知度を高めている。新製品の投入にも積極的で、3月2日には国内初の3Dテレビを10年4月から販売すると発表した。
当初は韓国からの輸入で価格も高いと予想されるが、素早い製品投入でプレゼンスを上げる狙いがあるとみられる。サムスン、LGはほかの新興国市場と同様に、ブラジルでも富裕層や貧困層だけに的を絞らず、多様な顧客ニーズに合わせた積極的な商品開発を進めているといえよう。
このほか、韓国勢は連邦、州などの税務当局やマナウス・フリーゾーン監督庁(Suframa)など政府機関との強いコネクション作りを進めているといわれる。
<本社主導のブラジル戦略際立つ>
巨額の宣伝費を投じるなど、韓国勢のビジネスには、本社主導のブラジル重視戦略が際立つ。LGの場合、韓国を除く国別販売額でブラジルは米国に次いで2位の市場となっている。サムスンも、本国が主要生産拠点となっている半導体と液晶パネルを除いて、全生産量の7%をブラジルに集中させている(同紙)。
売り上げの推移(図参照)をみると、両社とも、03年の第1次ルーラ政権発足以降のインフレ抑制や金利の低下、貧困世帯に直接補助金を出すことによる国民の購買意欲の向上に合わせて伸びていることが分かる。
調査会社ダッタ・ポプラールによると、ブラジルでは08年に初めて中間層世帯が全体の50%に達した。同社によると、中間層とは月間所得が最低賃金の3〜10倍の世帯で、08年の最低賃金415レアル(注2)で換算すると、677〜2,255ドル。
LGブラジルのマーケティング担当役員、エドゥアルド・トニ氏は「ブラジル進出以来、為替の不安定化や売り上げの減少など多くの困難に見舞われてきた。しかし、驚異的な市場の伸びが現実に起きており、グループ全体の中でも重要な投資をためらわずに続けていく」(同紙)とブラジルへの意気込みを表明している。
(注1)調査会社ダッタ・フォーリャによる07年12月の調査結果。全国390市で1万1,786人を対象に調査を行ったところ、1位はフラメンゴ(リオデジャネイロ)で17%、2位はコリンチャンス(サンパウロ)で12%、3位はサンパウロで8%という結果が出た。
(注2)08年3月1日〜09年1月31日に適用。中銀によると、08年の対ドルレート(期中平均)は1ドル=1.84レアル。
(大岩玲)
(ブラジル)
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