天津市、製造業投資復調で2ケタ増を維持(京津冀地域)−2009年の対中直接投資動向(2)−

(中国)

北京発

2010年03月30日

京津冀地域(北京市、天津市、河北省)の2009年の対内直接投資額(実行ベース)は、金融危機の影響で落ち込みが懸念されたが、北京市、天津市、河北省とも前年比で増加した。特に、天津市の伸び率は21.6%と引き続き2ケタ増を維持した。大型新規案件が増加したほか、増資(契約ベース)の増加が目立った。

<北京市:好調なサービス業投資>
北京市は、契約件数が前年比25.0%減の1,423件、実行金額が0.6%増の61億2,100万ドルと、契約件数が大幅に減り、実行金額では辛うじて増勢を維持した。

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実行金額を国・地域別にみると、第1位は香港で前年比56.0%増の27億295万ドル。第2位の英領バージン諸島は上半期の大幅増から一転し、1.5%減の12億3,201万ドル、第3位のケイマン諸島は45.2%減の4億1,389万ドル、第4位の日本は49.3%減の2億3,905万ドルだった。第5位は米国で、4.1%増の1億8,628万ドル(表2参照)。

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産業別で前年比の伸び率が最も高かったのはホテル・飲食業で、2.5倍の8,427万ドル。次いで農林・牧畜・漁業の88.6%増(3,833万ドル)、リース・ビジネスサービス業の70.4%増(22億5,888万ドル)、卸・小売業の59.8%増と続く。一方、交通運輸・倉庫・郵便業は66.1%減の1億1,873万ドル、製造業も49.8減と大きく減少した。

日本企業の製造業分野での主な投資案件としては、三菱化学、三菱エンジニアリングプラスチックスが中国石油化工集団(シノペック)と共同で、ビスフェノールAとポリカーボネート樹脂の製造・販売会社を設立した。資本金は約7億2,000万元(1元=約13円)で、10年内に製造設備を完成させる予定。

環境分野では、NOKが清華大学傘下の企業連合体・同方社と折半出資(資本金4,000万元)で、水処理機能膜に関する合弁企業を設立した。また、東レも北京市に水処理事業の合弁会社を設立し、水処理膜製品の製造・販売と輸出入を行う。新工場への設備投資額は約5億元で、逆浸透(RO)膜の製膜・組み立てを10年4月から逐次開始する計画だ。

医薬品分野では、三菱商事とメディパルホールディングスが10月に、国内最大の医薬品卸の国薬ホールディングスと包括提携の覚書を締結した。資本金は8,000万元。また三菱商事とメディパルは、国薬控股北京華鴻に出資し、国内で医薬品流通分野での合弁事業を開始すると発表している。

サービス業では、弘電社が2月、北京市に建物の設備保守と賃貸を目的として現地法人を設立したと発表した。投資総額は4億7,000万円。また、三井住友海上火災保険が全額出資する中国現地法人、三井住友海上火災保険(中国)は、5月に北京市での支店設立に関する内認可を取得。10年1月に北京支店が開業した。上海、広東に続く3番目の支店で、北京では日系保険会社初の営業拠点だ。

このほか、セブン&アイ・フードシステムズと北京王府井百貨(集団)、中国糖業酒類集団の合弁会社が7月にファミリーレストラン「オールデイズ」の中国第1号店を北京の中心街にオープンした。また、ゼクスは10月に高齢者向け住宅の開発や福祉に従事する人材を育成する中国企業への出資を発表した。資本金は1,027万元。中国では高齢化が急速に進展しており、特に北京・上海で顕著になっている。同社は、北京市朝●(こざとへんに日)区で223区画のヘルパー付2世帯住宅団地を開発分譲する。今後、上海市や天津市など人口500万人以上の18都市で年間2〜3ヵ所程度展開していく予定だ。

<天津市:濱海新区への投資が全体の6割占める>
天津市への対内直接投資は、契約件数が前年比13.6%減の596件となったものの、契約金額は4.4%増の138億3,817万ドル、実行金額は21.6%増の90億1,985万ドルと、金額ベースでは増加した。

実行金額を国・地域別にみると、第1位は香港で前年比47.4%増の45億3,482万ドル、第2位は英領バージン諸島で22.5%減の9億2,933万ドル、第3位はシンガポールで9.1%減の6億7,222万ドルだった。韓国が2.1倍の6億597万ドルと急増して第4位に入り、日本は24.4%減の3億2,902万ドルで第5位だった(表3参照)。

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産業別では、製造業は51.0%増の38億7,571万ドル。不動産業も上半期の減少からプラスに転じ、11.8%増の17億9,183万ドルとなった。交通運輸・倉庫業は2.5倍の8億1,882万ドルと激増した。他方、08年に大きく増加した社会サービス業は14.2%減の16億7,836万ドル、卸・小売業も16.9%減の5億2,097万ドルと減少した。ここ2年余り、サービス業を中心とした第三次産業向けが全体の伸びを大きく牽引してきたが、09年は製造業も好調だった。

天津市によると、外資系企業による増資案件が目立った。増資契約件数は381件と全体の6割以上を占めた。増資金額も19.7%増の49億6,700万ドルに達し、契約金額全体の35.9%(前年比4.6ポイント拡大)を占めている。特にバイオ・製薬分野、太陽光発電といった新エネルギー分野と卸・小売り・飲食業、交通運輸・倉庫業などで顕著に増加した。

また中央政府が「全国総合・複合改革試験区」として06年6月に認可した濱海新区への投資は、契約金額が8.3%増の99億3,900万ドルと、市全体の71.8%に達した。実行金額は22.2%増の53億7,800万ドルで、59.6%を占めた。同区の占める割合は年々拡大している。

日本からの主な投資案件は、京セラが2月に太陽電池モジュール工場の生産規模拡大のために、新工場の設立を発表した。同社は太陽電池セルの生産量を650メガワット(MW、11年度を目標)に引き上げることに合わせ、モジュールについても生産体制の拡充を行う。また、日本ペイントは4月、国内の多色化ニーズと需要の拡大に対応するため、粉体塗料だけで年間最大3万トンを生産できる約14万平方メートルの新工場の建設を決定。昭和電線ホールディングスも5月、合弁会社の天津昭和漆包線への6億円の増資を発表した。この背景としては電力インフラ網の整備、自動車・家電の普及で平角巻線など付加価値の高い巻線の需要が高まっていることが挙げられる。

このほか、酉島製作所が5月、中国企業と合弁で新たな生産拠点を天津市に設立すると発表した。これまで輸出してきたハイテク・高効率ポンプを現地生産する。10年11月生産開始予定で、将来的には輸出も行う。また、ニフコは世界最大の自動車市場になると見込まれる中国での事業強化のため、11月に合成樹脂成形品の製造・販売会社を設立すると発表した。資本金は700万ドル。

サービス業では、あいおい損害保険が4月、天津支店を100%出資の現地法人に変更した。同社は天津初の外資系損害保険会社として07年6月に天津支店を開設していた。資本金は2億元。

<河北省:投資の大型化が進展>
河北省では、契約件数が前年比13.3%減の215件、契約金額も9.8%減の26億600万ドルと減少した。実行金額は6月が前年同月比48.1%増の6億9,600万ドルと、単月では08年9月以来で最大の伸びをみせたものの、9月以降は小幅な伸びにとどまり、通年では5.3%増の36億500万ドルだった。

実行金額を国・地域別にみると、アジア地域が10.9%増の21億1,000万ドルと、全投資金額の58.6%を占めた。中でも香港は15億9,000万ドルと全投資金額の44.0%に達した。次いで北米が約4倍の4億2,000万ドルと激増。一方、欧州は4.7%減の1億7,000万ドルだった。

契約金額1,000万ドル以上のプロジェクトは54件に上り、金額も14億1,000万ドルと5割を超えた。また実行金額が1,000万ドル以上のプロジェクトの合計は27億4,000万ドルで、全実行金額の約75%を占めるなど、投資の大型化が進んだ。

日本からの主な投資案件をみると、キッコーマンが6月に合弁会社、統万珍極食品を石家荘に設立すると発表した。華北地域でキッコーマンブランドのしょうゆ販売を行う。同社はキッコーマンの生産技術と統一企業(台湾)の中国での事業経験、石家荘珍極醸造集団の事業基盤という3社の強みを生かした提携で、華北地域で高品質の調味料を製造・販売していく。

東レと東レ・ファインケミカルは6月29日、シノペック傘下の中国石化集団資産経営管理(本社:北京市)とジメチルスルホキシド(DMSO)の生産・販売合弁会社を設立することで合意、7月に合弁新会社・滄州東麗精細化工を河北省滄州市に設立した。年間1万トンのDMSOを生産・販売する。総投資額は約2,100万ドル。

(清水顕司)

(中国)

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