実行金額、4年ぶりに減少−2009年の対中直接投資動向(1)−
北京発
2010年03月29日
2009年の対内直接投資は、実行ベースで前年比2.6%減の900億3,267万ドルだった。減少は05年以来4年ぶり。国・地域別ではおおむね減少する中で、実行金額第1位の香港は12.3%増、第3位の日本も12.4%増となった。業種別にみると、製造業が6.3%減る一方、非製造業は1.5%増と前年水準を維持した。非製造業は、不動産業が9.6%減少したが、卸・小売業が21.6%増、リース・ビジネスサービス業も20.1%増と堅調だった。
添付ファイル:
資料( B)
商務部によると、09年の対内直接投資(銀行・証券・保険分野を含まず)は、契約件数が前年比14.8%減の2万3,435件、実行金額は2.6%減の900億3,267万ドルだった。実行金額は、上半期は前年同期比17.9%減だったが、8月以降は前年同月比でプラスに転じた(表1参照)。
<投資の大型化傾向続く>
近年、1件当たりの直接投資金額が増える傾向にある。03年から05年にかけては1件当たり130万ドル台で推移したが、06年以降は159万ドル、197万ドル、336万ドルと増え続け、09年には384万ドルになった。
1件当たりの投資額拡大の背景については、a.近年の中国ビジネスの競争激化や世界経済情勢の悪化により、対中投資を実行する企業が体力のある大手企業に絞られつつある、b.従来はグリーンフィールド型投資がほとんどだったが、近年はM&A関連法制が整備され、M&A投資の比重が高まった、といった指摘が従来からある。
業種別にみると、製造業が前年比6.3%減の467億7,146万ドル、非製造業は1.5%増の413億3,194万ドル(表2参照)。非製造業は、最大シェアの不動産業が9.6%減少したものの、これに次ぐ規模のリース・ビジネスサービス業と卸・小売業が各2割増となった。
<沿海部では遼寧省と天津市が好調、ほかはほぼ前年並み>
省・自治区・直轄市別の対内直接投資(実行ベース)は表3のとおり。
東北地域は、吉林省が18.6%増の35億6,700万ドル、黒竜江省が22.5%増の26億6,000万ドル、遼寧省は28.5%増の154億4300万ドルと軒並み増加した。
遼寧省は、31の省・市・自治区のうち最高の伸び。香港からの投資が増え、業種別では第二次産業、第三次産業がともに大きく伸びた。第二次産業は設備製造業が33.9%の増加。具体的な案件としては、日本精工の瀋陽での生産子会社設立(精密機器関連製品)、大連長興島に進出済みの造船企業STX(韓国)の増資、インテルの大連の半導体生産工場建設などがある。
第三次産業は金融や投資性公司といった「現代サービス業」に分類される投資が71.8%増と大幅に伸びた。案件としては、ロッテ(韓国)の瀋陽での複合テーマパーク建設、オリックスの大連での中国本部設立などがある。
遼寧省は09年7月1日、「遼寧沿海経済帯発展計画」が国家戦略に格上げされ、国内外の注目を浴びた。さらに現在、遼寧沿海経済帯、瀋陽経済区、遼西北を含めた三大地域発展戦略の一層の推進を目指している。特に瀋陽経済区は、戸籍制度改革(戸籍の統一管理など)や通信改革(市内局番統一化)などを通じて地域一体化を進め、10年中に、「特区」「新区」に続く新しい経済発展戦略である「国家総合改革試験区」として国務院の承認を受けることを目指している。このため各地域でインフラ整備や産業パークの建設が加速化し、投資環境整備が進んでいる。
華北地域では、北京市が0.6%増の61億2,100万ドルと、前年水準をかろうじて維持した。香港からの投資が56%の大幅増となったが、それ以外の地域は総じて不振だった。業種別には、リース・ビジネスサービス業、卸・小売業などが好調だったが、交通運輸・倉庫・郵便、製造業が大きく減少した。
天津市は21.6%増の90億1,985万ドルで、金額は07年以来北京市を上回っている。国・地域別では、香港、韓国からの投資が大幅に増えた。天津市によると、外資系企業に増資案件が目立つという。増資は、契約件数で381件と全体の6割以上を占め、契約金額は19.7%増の49億6,700万ドルと、全体の35.9%(前年比4.6ポイント上昇)を占めた。特にバイオ・製薬分野、新エネルギー分野、卸・小売り・飲食業、交通運輸・倉庫業などで顕著な増加を示した。
山東省の実行金額は2.3%減の80億1,007万ドル。金融危機による世界的景気後退の影響で、海外企業の業績が悪化したことが減少の主因とみられる。業種別にみると、第二次産業は1.0%減で、6割を占める製造業が2.1%減少した。第三次産業は8.1%減。不動産、運輸・倉庫・郵便、卸・小売といった主要業種が減少した。
地域的には、青島市(16%減)、煙台市(2.6%増)、威海市(4.6%増)といった沿海都市が不振なのに対し、済南市(13.4%増)、●(さんずいに維)坊市(39.8%増)への投資は堅調で、省内で内陸・内需シフトの様相を呈している。また山東省への投資は、通年では微減となったが下半期は回復傾向にある。
華東地域(上海市、江蘇省、浙江省)の実行金額は、上海市が105億3,800万ドルで4.5%増え、江蘇省は253億2,300万ドルと省・市・自治区の中で首位をキープしたが0.8%増とほぼ前年並みの水準にとどまった。浙江省は99億ドルで1.3%減と前年水準をわずかに下回った。
華南地域では、広東省は1.9%増の195億3,500万ドルとわずかながら増加した。契約金額の減少(38.7%減)は先行きに対する1つの懸念材料だが、広州市は広汽ホンダ、東風日産、広汽トヨタと日本の自動車大手が出そろう自動車の街で、3社の乗用車販売台数(109万台)は、中国全体(1,033万台)の1割を占める。自動車販売の好調を反映してか、09年には、東風日産、ジヤトコ、ユニプレスと日系自動車関連企業の投資発表が相次いだ。自動車市場の急拡大に加え国産化の要請への対応もあり、広東省では今後も自動車産業を中心に対内直接投資の増加が予想される。
福建省は、前年比1.2%の微増で57億3,700万ドル。契約ベースでは、金額(25.0%減)、件数(14.7%減)ともに減少した。
<香港、日本、ドイツは増加>
実行金額を国・地域別にみると、第1位は08年と同様香港だった(表4参照)。金融危機下でも12.3%増の460億7,547万ドルとなり、シェアは51.2%と5割を超えた。香港の税制は、対中直接投資に有利で、受取配当がもともと非課税な上、中国企業が香港企業に配当する際の源泉徴収税率(5%)も、ほかの地域(10%)に比べ優遇されている。「香港は対中投資の導管」(香港総商会)であり、中国経済が回復するに従い、このような税制上の優遇措置の効果が現れてきたと考えられる。
第2位も08年と同じく英領バージン諸島だが、29.2%減少している。第3位には日本が入った。金融危機下にもかかわらず12.4%増の41億497万ドルとなり、順位を1つ上げた。日本は、06年、07年と減少したものの、08年は1.8%増、09年は2ケタ増となった。
<日本の対中投資は国際収支ベースで3.1%減>
09年の日本の対中直接投資は、日本の財務省統計(国際収支ベース、速報値)によると6,493億円で3.1%減少した(表5参照)。ただし、日本の対外直接投資全体に占める中国のシェアは、前年の5.1%から9.2%に高まった。
09年の日本の対外直接投資は、46.8%減少した。これは、08年に日本の投資先として上位を占めた米国、ケイマン諸島、英国が、それぞれ77.6%減、47.1%減、69.8%減と激減したことが大きい。そうした中で対中投資の減少幅3.1%は相対的に小幅といえる。
国際協力銀行の調査によると、3年程度のスパンで日本企業が有望と考える事業展開先国・地域として中国は近年、インドの猛追を受けていたが、09年は盛り返した(図参照)。中国を有望視する理由のトップは、従来から「現地マーケットの成長性」で変わらないが、これを挙げる企業の比率は08年調査の77.6%から、09年調査では84.8%に高まった。金融危機が世界に広がる中、底堅く推移する中国経済に日本企業の関心が再び強まった様子がみてとれる。
また、日本の財務省統計で最近の業種別の対中投資動向をみると、現時点で判明している09年1〜9月期については、非製造業が前年同期比20.7%増なのに対し、製造業は1.5%減となっている(添付資料の表6参照)。製造業では主力の機械関連が総じて減少した。非製造業では、「金融・保険業」が大きく増加した。09年の金融・保険業の大型案件としては、三井住友銀行の現地法人設立(資本金70億元、1元=約13.5円)がある。
日本の対中投資額を日中両国の直接投資統計で比較すると、金額は日本のデータが2倍近い(日本側:約72億ドル、中国側:41億ドル)。この理由としては、日本と中国の直接投資統計の集計方法の違いが挙げられる。
日本の対外直接投資データは国際収支ベースで、a.株式資本(直接投資企業の株式、支店の出資持ち分およびその他資本拠出金)、b.再投資収益(直接投資企業の未配分収益のうち、直接投資家の出資比率に応じた取り分と直接投資家に未送金の支店収益)、c.その他資本(上記2項目に含まれない直接投資家と直接投資企業または支店との資本取引)、からなる。これに対し中国の対内直接投資データ(実行ベース)は、新規投資に増資を加えたもので、日本側統計に含まれる再投資収益やその他資本が含まれない。また、中国側統計には金融(銀行・証券・保険)が含まれていない。
日本の統計で対中投資をみると、「金融・保険業」が07年1,098億円、08年80億円、09年(1〜9月)793億円と変動が激しく、日中統計の投資の伸びの相違の大きな原因の1つといえよう。
<09年の日本の対中投資に4つの傾向>
金融危機により世界的な景気低迷の年となった09年、中国に投資した日本企業は、中国のどのような点に注目していたか。09年のプレスリリース資料をみると、4つの傾向が読み取れる。まず(1)中国市場の中長期的成長や需要の高級化への期待がうかがえる。その代表は食品と自動車だ。また、(2)公共事業・インフラ関連、(3)環境・省エネ関連も注目点といえそうだ。そのほか、中国国内市場の開拓という点で、(4)中国大手企業との提携や合弁企業設立も有力な選択肢の1つになっている。
中国国内市場の開拓は、中国のWTO加盟前後から日系企業が特に高い関心を払ってきたテーマだ。その後、中国一極集中のリスクを回避しようとチャイナプラスワンが志向されたり、日本からの輸出が好調だった時期には製造業に日本国内回帰の機運が生じたりしたが、金融危機とその後の中国経済の回復ぶりに、日本企業は中国の内需への関心を再度強めているかにみえる。
4つの傾向がうかがえる事例と日系企業による主要対中直接投資案件(09年)の詳細は添付資料の表7参照。
(箱崎大)
(中国)
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