自動車市場で販売を拡大−中韓企業躍進への対応−

(イタリア)

ミラノ発

2010年03月25日

自動車、家電分野では、日本企業よりも韓国企業の広告を目にする機会が多い。価格に加え、ブランド力も向上しており、日本企業が手薄な領域で存在感を広げている。

<現代自動車は販売台数倍増>
自動車市場では、韓国車の存在感の拡大を日系企業が実感している。ある日系自動車メーカーは「この1年は特に現代自動車の急成長が目立ち、大都市はもちろん地方でも伸びているようだ」と話す。09年の新車登録台数をみると、現代自動車は3万9,000台で、前年比91%増だった。

国内全体(合計約216万台)のシェアでは、フィアット・グループが3割強を占め、ドイツ系メーカーが約20%、フランス系が15%と続いており、日系は8社合計で11%(約23万5,000台)という状況だ。これに対して韓国系は2社で2.8%(5万9,000台)と、日本のおよそ4分の1にすぎず、シェアはまだ小さい。しかし、現代自動車単独では1.8%(前年は0.9%)で、伸び悩む日系各社を抜き去ってトヨタ(4.4%)、日産(2.5%)に次ぐ規模になっている。

背景には、09年度に政府が実施した新車買い替え支援策の影響もある。「こうした補助金を利用するのは高級車を買う層ではなく大衆車のユーザー。現代は小型車を中心に、この辺りのラインアップを広くそろえていることが大きい」(日系メーカー)ためだ。

また、日本車と比べた韓国車の強みは、やはり価格に尽きるが、近年は性能面でも評価が高まっているという。「日本車ほどではないが、ひと昔前に比べて、韓国車のブランド力は強まっていると感じる」と話す。日本車を買う余裕はないが、国産大衆車のフィアットよりはある程度性能が良く、手が届く価格帯の車が欲しい層に韓国車が受けているとの見方だ。

<電器分野では大きな影響なし>
電器分野については、ある日系電器メーカーは「中国企業による模倣品被害や、ごく低価格帯の製品での競争は少なからずあるが、全体的にみれば、現状でそれほど大きな影響は出ていない」とみている。

同社の主要製品の車載機器については「カーナビゲーションシステムは多額の設備投資が必要なこと、また自動車メーカーとのB2Bでは価格だけでなく、品質とサービスを総合的に考慮して取引が決定されるため、現状で他国製品、特に中国企業との競合は発生していない」と説明する。また、「このところ日系メーカーも価格を下げているので、安価なだけの製品の存在意義は以前より薄れつつあるのではないか」とも話す。

しかし、「韓国メーカーに限っていえば、LG(エレクトロニクス)やサムスン(電子)は携帯から各種家電まで、製品のラインアップが広いことが存在感を感じさせる要因の1つ」と分析する。日本勢の多くが戦略的に製品を絞っているのとは対照的だという。

さらに、「サムスンとLGは価格競争力だけでなく、ブルーレイや3Dなど最新技術を使用した高付加価値製品も持っている。仮にこれらが独自の規格を確立し普及していくようなことがあれば、日本企業にとって脅威になるかもしれない」という。

今後は「中韓企業との価格競争は不可能なので、日系企業としてはアフターサービスの強化などで対応していくことになるだろう」としている。

<過度な値下げ競争はない>
EU・韓国自由貿易協定締結の影響について日系電器メーカーは「車載機器でいえば、韓国車の出荷時に、自国製機器を初期搭載するケースが増えれば脅威になり得る」との懸念を持っている。

自動車では、インタビューした日系メーカーは欧州内での生産割合が高いこともあり、現時点で大きな影響を想定していない。

09年度は買い替え支援策のおかげで各社とも前年並みの販売台数を維持したが、10年度は支援策がほぼ実施されない見込みで、「現在はフィアットを筆頭に各社で値引き合戦が行われている状況」という。ただし、「韓国車も乱売に走ると、ブランドイメージを損なう危険性があり、過度な価格競争を仕掛けることはないだろう」とみている。

景気低迷の影響もあるが、消費者の多くは必ずしも最高レベルのものだけを求めておらず、製品によっては手の届く価格帯でかつ自国品より少し上のレベルであれば満足する傾向がみられる。韓国製品は、日本企業が手薄なイタリアと日本の中間的な品質の領域で存在感を広げているといえよう。

(中川明久)

(イタリア)

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