低価格戦略でハイエンド市場に食い込む−中韓企業躍進への対応−

(フィリピン)

マニラ発

2010年03月24日

ドイツの市場調査会社GFKの発表(3月)によると、2009年のフィリピンの液晶ディスプレー(LCD)テレビの市場シェアで、サムスン電子がパナソニック、ソニー、シャープなどの日本企業を抑え、3年連続でトップになった。

<低価格戦略がヒット>
大韓貿易投資振興公社(KOTRA)フィリピンのイム次長は、サムスン電子をはじめ好調が続く財閥系韓国メーカーについて「リスクを恐れず積極的に市場ニーズをつかみにいく。(オーナー経営型のため)トップの権限が強く、意思決定が迅速だ」と強みを分析する。

韓国のサムスン電子とLGエレクトロニクスは、フィリピンの家電業界関係者からプライスリーダーと呼ばれている。LCDテレビは従来、日系メーカーがある程度の相場価格を維持してきたハイエンド商品だった。しかし、この1〜2年で、サムスン電子が(LCDテレビの)相場より20%ほど安い価格での販売に踏み切り、フィリピンの上位中間層にも手が届く商品として需要を拡大させた。

<ACFTA発効で価格競争に拍車か>
このようにして始まったLCDテレビ市場の価格競争では、中国メーカーの存在も無視できない。中国を代表する電気機器メーカーのTCL集団は、フィリピンではジューサーやトースターのような小型家電の販売に軸足を置いてきた。しかし近年は、LCDテレビ市場でも徐々にシェアを伸ばしていると業界関係者は指摘する。LCDテレビのようなハイエンド商品の市場でも、中国メーカーは機能性よりも低価格に徹している(表参照)。月給1万5,000ペソ(1ペソ=約2円)以下の低所得者が国民の9割を占めるといわれ、ブランドより安さを求める消費者が少なくないからだ。

地域経済統合の進展も価格競争に拍車をかける可能性がある。05年12月のASEAN・中国自由貿易協定(ACFTA)発効で、12年までに対中国輸入関税は撤廃(ノーマルトラック)される予定だ。その結果、より安価な中国製LCDテレビが存在感を増すことになれば、サムスン電子やLGエレクトロニクス、さらに日系メーカーも中国メーカーとの厳しい価格競争に巻き込まれることが予想される。

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<シャープは競合他社との差別化に活路>
厳しい価格競争の中で、ハイエンド商品の開発に一層力を注ぐ日系メーカーもある。シャープ・フィリピンは09年6月、独自の次世代液晶ディスプレー「メガASV」を搭載したLCDテレビ「アクオス」の65インチ新モデルを発表した。

ジェトロの取材に対し、同社の紀藤一雄副社長は「(ハイエンド商品の開発は)ブランドイメージを維持し、競合他社との差別化を図る上で重要だ。相対的に所得水準の低いフィリピンでは、例えば洗濯機などは安さを追求しても、LCDテレビはローンを組み高品質なブランド商品を求める層が少なからず存在する」と指摘。一方で、「少子高齢化で人口増が見込めない日本や、金融危機の影響を引きずる欧米で、売り上げを伸ばすことはますます難しくなる。今後はBRICsのような新興市場やアジアのボリュームゾーンをターゲットにしていく戦略も必要だ。両方をカバーする二極化戦略で将来の活路を見いだしたい」と今後の方針を語った。

(鎌田桂輔)

(フィリピン)

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