製紙関連、ワイン産業などに影響−地震の被害状況−

(チリ)

サンティアゴ発

2010年03月02日

2月27日未明に発生した南部コンセプシオン北西部を震源地とする震度8.8の大地震は、中部第5州から南部第9州に及ぶ広範な地域の人家、インフラ、産業に甚大な被害を与えた。この地域は林産業の集積地のため、ウッドチップやセルロースなどの重要な輸出産業が大きな被害を受けているようだ。なお、サンティアゴの日系企業が事務所を構える区域の被害は軽微だったが、高層ビルに入居している企業は、ビル側の安全点検が終了するまで入館自体が制限され、本格的な営業再開ができないでいる。

<国際空港は3月第1週末にも正常化か>
今回の震災では、人家の倒壊のほか、港湾施設、道路、空港などのインフラに大きな被害が出ている。港湾施設では、バルパライソ、サンアントニオの2大主要港は被害が軽微で、3月1日からオペレーションが正常化しているが、海軍基地やアスマール造船所があり、漁港でもある南部のタルカワノ港は津波で破壊され、倉庫、港湾施設などは使えなくなっている。また、日系企業のウッドチップ積み出し港のコロネル港も打撃を受け、サンビセンテ港も使用不能になっている。

サンティアゴ国際空港は3月1日現在、到着便だけを受け入れている。滑走路、管制塔は被害を免れたものの、乗客ターミナルビルがかなりの被害を受け、国際便の入国・通関手続きは、サンティアゴ到着前に北部イキケ空港またはアントファガスタ空港で行われている。そのため、サンティアゴ到着までの時間が通常に比べかなりかかっている。出国便はすべて運航が中止されているが、3月第1週中に空港敷地内に仮設テントを張り、そこで出国手続きを行って、出国できるようにする予定だ。

道路の被害も深刻だ。サンティアゴから南部に伸びる高速5号線はチリの貨物輸送の35%を占める物流の大動脈だが、橋の落下や数多くの亀裂で通行できなくなっている。5号線以外の道路を使って物資輸送はできるが、迂回により、サンティアゴへの物資輸送は通常よりもかなり多くの時間がかかっている。

<林産業に大きな被害>
今回の地震は主要産業の1つである林産業に大きな被害をもたらした。第7州、8州、9州にはパルプ工場が密集しており、これらの工場が軒並み被害を受けた。最大手アラウコは5工場のうち4工場が同地域に立地している。特にコンスティトゥシオンにあるセルロース工場は津波で操業不能になっているもようだ。チリ木材組合(CORMA)のカンピノ会長によると、道路の不通、橋の欠落などで木材輸送ができず、ウッドチップやセルロースの原料になる丸太の集材が滞っているという。

主要積み出し港のコロネル港のほかコラル港も損壊しており、日系企業も「生産・輸出再開のめどが立たない」と頭を抱えながら関連企業の関係者の安否確認を続けている状況だ。セルロース業界は、10年は前年比17%の輸出増を見込んでいたが、今回の地震で大幅減は避けられない見通しだ(表参照)。

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第7州から9州にかけては、ワイン産業の集積地でもある。マウレ、クリコ、コルチャグア地域が影響を受けているようで、当地紙にR&Rワイン(バルクワイン大手)関係者が語ったところによると、土壁の倉庫が崩れたり、収穫直前のブドウの実が落ちたりするなどの被害が出たようだ。毎年3月には多くの観光客を集める収穫祭が各地で開かれるだけに、観光面での影響も大きい。ブドウはワイン用以外に生鮮でも輸出されているが、収穫期と重なっていることで今後の影響が懸念される。

なお、果実ではサクランボや桃、イチゴの輸出が多いが、収穫期のピークは過ぎており、被害は大きくないという。

銅産業では、サンティアゴに近い銅山で停電による操業停止があったものの、コデルコ所有のアンディーナ銅山以外は正常化しているとの情報だ。そのほかの銅山は北部にあり、震源地から離れているため地震の影響はない。

漁業では、サーモンは主要養殖地が震源地より南に離れていることから直接の被害はないものの、被害地域に飼料工場がある企業では養殖地への飼料供給が懸念されている。また、道路寸断によるガソリンの買い付け騒ぎが起きており、養殖のためのエネルギー供給についても今後の推移を見守る必要がありそうだ。そのほか南氷洋で操業する漁業については、基地がパタゴニア方面にあるため影響はない。

<日系企業の営業正常化には数日かかる見込み>
震源に近いコンセプシオンでは多くの建物が倒壊し、生活物資の略奪が起きるなど状況が悪化している。サンティアゴは、貧困層の多い西部地区で被害が大きかったが、日系企業の集中する東部地区では耐震設計がしっかりしているビルが多いこともあり、被害は比較的少なかった。地震が週末だったため、ビジネス街でのパニックが避けられたことも大きい。

ただし、外見では被害は分からなくとも、内部では被害を受けているようだ。地震直後の週末は、安全点検のため、ビル管理会社が入館を禁止するケースが多く、かなりの数の日系企業は、3月1日に初めてオフィスの被害状況を確認できた。水道、電気、通信、エレベーターのいずれかが使えないビルが多いようで、正常化にはなお数日かかりそうだ。

生活面では、地震当日からバスが運転され、翌日には地下鉄も動きだすなど、公共輸送機関はほぼ正常化している。電力は、サンティアゴを含む中部地域で6割の世帯が復旧しているが、コンセプシオンでは1割程度しか回復していないようだ。マンションの倒壊は東部地区には見当たらないが、ガスやエレベーターなどの回復がまだのところもあり、完全に施設が復旧するまでには時間がかかりそうだ。

南部の高速道路の寸断された映像が繰り返し放送されていることで、市民の間では生活必需品、特に飲料水や南部から運ばれる小麦、乳製品、野菜などを買いだめする動きがみられる。入場制限を行い、買い物からレジまで4時間かかるスーパーもある。ガソリンスタンドはどこも長蛇の列で、市民生活にもじわじわと間接的な影響が及んできている。

(竹下幸治郎)

(チリ)

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