システムキッチンが若者に人気−欧州企業のフロンティア市場戦略(7)−

(セルビア、欧州)

欧州課・ウィーン発

2010年02月23日

国内の白物家電市場では、50%のシェアを占めるスロベニアの大手メーカー、ゴレニエをはじめとして欧州ブランドが人気だ。特に、新たなライフスタイルとして若者にシステムキッチンがよく売れている。特集の7回目は、国内家電市場での欧州企業の取り組みを報告する。

<AV市場では日韓メーカーが健闘>
統計局によると、映像・音響機器、白物家電ともに、2008年ごろまでは増加傾向だった輸入額が、金融危機の影響を受け、09年は軒並み前年比減となった(図参照)。

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映像・音響機器では、ルーマニア(2010年2月19日記事参照)と同様に、韓国と日本のブランドが人気で、欧州ブランドはフィリップスが健闘している程度だ。中でもサムスン電子は特に人気があり、店舗によっては、同社やLG電子の液晶テレビコーナーに販促要員を配置していた。

<大型白物家電ではスロベニアのゴレニエが圧勝>
冷蔵庫や洗濯機など大型白物家電は、中国やトルコのブランドはあまり見かけず、欧州ブランドが圧倒的に強い。特に同じ旧ユーゴスラビアだったスロベニアのゴレニエの白物家電が人気だ。それ以外の欧州ブランドでは、ドイツのボッシュ、イタリアのインデシット、同グループのアリストン、キャンディの商品をよく見かける。ほかにスウェーデンのエレクトロラックス、同グループのザヌッシ、クロアチアのコンチャル、リトアニアのスナイゲの商品も売られている。欧州以外では、米国のワールプールやLG電子の商品もよく見かける。

エレクトロラックス中・東欧支店のマロルド最高執行責任者(COO)は「当社の09年の売上高は前年比で40〜50%落ち込んだ。しばらくは景気の回復を待つしかない。景気が回復すれば需要も伸びてくるだろう」と、しばらくは静観の構えだ。

<購買力向上で便利商品も売れる>
家電量販店テクノマニヤのシヤン取締役は「セルビア人の購買力が上がってきたため、人気商品の種類にも変化がでている。テレビはブラウン管から液晶になり、必需品でないが便利商品の掃除機、アイロン、ジューサー、フードプロセッサーなど、日常で使う小型白物家電も売れている。これは面白い変化だ」と、最近の消費者傾向を話す。

国内の主な量販店には、テクノマニヤ(セルビア資本)、テクノマーケット(ブルガリア資本:K&Kエレクトロニクスグループ)、エレクトロニキ(ギリシャ資本)、ビッグバン(スロベニア資本:メルクールグループ)などがある。また、パソコンなどデジタル機器専門店のコムトレイド(セルビア資本)もある。

エレクトロラックスの国内販路は、4つの流通業者(テクノマーケット、サムゾン、モスコメルツ、WEG)に限られている。投資リスクが低く市場規模が大きい国には販売代理店を設置するが、そうでない国には販売代理店を設置せず、国外にある同社近隣事務所が直接、現地流通業者に販売する。セルビアは後者に属し、同社中・東欧支店が直接、4社と取引している。中・東欧支店はウィーンにあり、中・東欧、南東欧、ロシア、中央アジア、トルコの27ヵ国(うち15ヵ国に事務所を設置)を統括している。

<システムキッチンを家具店で販売する例も>
テクノマニヤのシヤン取締役によると、よく売れている白物家電は、洗濯機、食洗機、システムキッチンだという。特にシステムキッチンは新たなライフスタイルとして若者に人気があるようだ。同社では「キッチンスタジオ」と称したシステムキッチン専門コーナーを広く設け、冷蔵庫、オーブン、食洗機、シンクなどのパーツごとに販売している。また、システムキッチンの側(がわ)や取っ手の部分は、素材や色が分かるよう、サンプルを手に取ることができる。消費者が選び、組み合わせて購入できるように工夫されている。なお、人気のあるシステムキッチンはゴレニエ製だという。

一方、エレクトロラックスは、システムキッチン関連商品を家電量販店ではなく、主に家具店で販売している。マロルドCOOは「当社はセルビアも含む欧州全体で、独立型商品は家電量販店、据え付け型(システムキッチン関連商品)は家具店と販売ルートを分けている」という。

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<歴史背景を生かすゴレニエ>
旧ユーゴスラビアでは抜群の知名度を誇る白物家電メーカーのゴレニエは、本社のあるスロベニアだけでなく、セルビアなど旧ユーゴスラビアの国でも人気があり、「国内白物家電市場では50%のシェアを占める」(家電量販店テクノマニヤ情報)。冷蔵庫などの大型からジューサーのような小物まで幅広く生産している。スロベニアとセルビアに生産拠点を持ち、周辺の中・東欧諸国や中東にも販路を持つ。商品のデザイン面にも力を入れている。フランスデザイナーとのコラボ商品の「オラ・イト」シリーズや、オーストリアのスワロフスキーとのコラボ商品「クリスタライズド」シリーズなどがその代表例だ。

エレクトロラックスのマロルドCOOは「ゴレニエはユーゴ内戦(1991〜95年)で、セルビアで築き上げてきた事業基盤を失ったが、消費者の記憶には内戦前のブランド名と品質の良さがしっかりと残っていた。そのため、現在でも圧倒的な人気を誇っている。これは旧ユーゴスラビア全体でいえることだ」と語る。

またテクノマニヤのシヤン取締役は「ゴレニエはセルビアでも生産(冷蔵庫と温水器)しているため、輸入関税がかからない分、価格競争力がある。一方で、他社商品(主に東アジアからの輸入)には輸入関税が平均15%かかっている」と、ゴレニエのセルビア生産拠点の存在が価格面で有利に働いていると指摘する。

ゴレニエの本社があるスロベニアは、旧ユーゴスラビアの中で唯一のEU加盟国。ゴレニエが得意とする旧ユーゴスラビア諸国はEUに加盟していないが、中欧自由貿易協定(CEFTA)を締結しているため、域内取引は無税となる(2010年2月22日記事参照)。一方で、セルビアがEUから輸入する場合は、EUの安定化・連合協定(SAA)の貿易に関する暫定協定(10年2月1日発効)により、例えば冷蔵庫には10%前後の輸入関税率がかかる。冷蔵庫など高価格の白物家電をセルビアで販売する場合は、EU(スロベニア)からの輸入より、CEFTA域内(セルビア)での生産(輸入)の方がコスト削減幅が大きい。セルビアも含めたCEFTA市場を考えた場合、スロベニアよりもセルビアに生産拠点を置く理由の1つになろう。

EU市場に対して、スロベニアは関税なしで輸出できる。しかし、セルビアもEUの特恵関税により、EU向け輸出には関税がかからない。このため関税でいえば、EU市場向けの生産拠点として、セルビアはスロベニアと比較して不利にはならない。また、セルビアのワーカー賃金はスロベニアよりも安い。ゴレニエは06年にセルビア国内工場で冷蔵庫の生産を開始、全生産量の52%はEU市場向けで、同42%は旧ユーゴスラビア市場向けという構成だ。

<欧州ブランドも歴史的知名度を重視>
エレクトロラックスは、「AEG」(高所得者向け)、「エレクトロラックス」(中所得者向け)、「ザヌッシ」(低・中所得者向け)の3ブランドを展開する。イタリア企業のザヌッシを1984年に、ドイツ企業のAEGを1994年に買収している。

中・東欧支店のマロルドCOOによると、ザヌッシは買収前から旧ユーゴスラビアで知名度があったが、商品の品質と財務状況が悪く、商品開発に取り組めなかった。しかし、エレクトロラックスは、ザヌッシの知名度に可能性を見いだし、買収を決めた。「ザヌッシ買収の目的は直接的な利益追求というより、高い知名度の有効活用だった。ザヌッシと合わせて売り込むことで、知名度が低かったエレクトロラックスを効果的に売り込めた」と振り返る。

AEGも買収前から旧ユーゴスラビアでは人気があった。当時はドイツやオーストリアに出稼ぎに行くセルビア人が多く、その家族も含めてドイツブランドは広く知られ好まれていた。マロルドCOOは「AEGも人気があったため、マーケティングやPRなどに多額の資金を投入せずとも、単に商品を流通させるだけでよかった」と語っている。

エレクトロラックスは現在、特に人気があるエレクトロラックスとザヌッシに焦点を当てて取り組んでいる。

<地元メーカーは低価格路線>
地元セルビアの家電メーカーWEG(West East Group)は、生産コストを抑えて低価格商品を提供している。生産工場を持たないファブレス企業で、中国企業に生産委託し自社ブランドで販売する。液晶テレビやDVDプレーヤーといった映像・音響機器から、冷蔵庫やアイロンといった白物家電まで幅広く取り扱う。国内家電小売店で販売する一方で、自らネットショップを運営している。その特徴は、自社商品とともに日本ブランドなど高価格の他社ブランド商品も取り扱っている点だ。同社商品は中国産で低価格であるため、取り扱う他社商品と顧客がかぶらず、また高価格商品と並べて販売することで、同社の低価格が際立つ。

<日本の白物家電メーカーは現地企業の活用を>
エレクトロラックスのマロルドCOOに、セルビアを含めた西バルカン市場に関心を持つ日本の白物家電メーカーへのアドバイスを求めると、「現地に販売代理店か直接の販売相手となる顧客(小売業)を見つけることが得策」と答えた。その理由として、a.欧州に生産拠点を持たないメーカーでも対応可能なこと、b.特に日常生活に深く関係する白物家電では現地の生活習慣や文化の理解や知識が求められ、現地企業の活用が有効なこと、を挙げる。実際、同社は生産拠点から遠距離にある市場に対しては、同様のアプローチをとっているという。

またマロルドCOOは「西バルカン市場に生産拠点を設けるのもいいだろう。この市場で販売しているメーカーにOEM生産を依頼するのも一案だ」とアドバイスする。

テクノマニヤのシヤン取締役によると、日本の映像・音響機器メーカーはセルビアに輸入販売代理店を置いているが、それら代理店を統括する事務所はセルビア国内に置いていないという。代理店の在庫は少なく、在庫がなくなったときには近隣の物流拠点(主に中・東欧諸国)から取り寄せるが、数ヵ月待つこともある。

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シヤン取締役は「セルビアでは、消費者が決済を済ませて商品を受け取る前に、小売店が倒産することがよくあった。購入後も商品が届かないと、消費者は小売店の倒産を懸念するため、購入商品をすぐに持ち帰れないことを快く思わない」と、消費者の声を代弁する。一方、「セルビアの消費者は日本メーカーの商品を欲しがっている」と話し、日本の映像・音響機器メーカーにも商機があるとみている。

(古川祐、木場亮)

(セルビア)

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