白物家電は低・中所得者向けブランドが人気−欧州企業のフロンティア市場戦略(5)−

(ルーマニア)

欧州課・ブカレスト発

2010年02月19日

国内の家電市場をみると、映像・音響機器では日本ブランドが健闘しているものの、白物家電では国産やイタリアなどの欧州ブランドが人気だ。

<映像・音響機器市場は緩やかに回復>
2008年の映像・音響機器市場は、4億ドル弱(図1参照)だったとみられるが、金融危機の影響を受けた09年は一時的に落ち込んだ。10年以降は緩やかに回復に向かう見通しだ。

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業界トップの家電量販店アルテックスのモアンタ取締役は「これまでの新規需要による販売ブームは終わったが、テレビはブラウン管から液晶への買い替え時期で、まだまだ潜在的な需要がある」とみている。実際、同社の09年の売上高に占める割合が最大の商品は液晶テレビだった。地上デジタルテレビ放送が10年中に開始される予定で、アナログテレビ放送は12年中に終了するため、液晶テレビへの買い替えには追い風になっている。

一方、国内の大型白物家電(冷蔵庫、洗濯機、食洗機、電子レンジ、オーブンなど)の市場は07年で約4億6,000万ドル規模。世帯当たりの所有台数も順調に伸びてきた(図2参照)。

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しかし、モアンタ氏によると、国内が建設ラッシュだった06〜08年ごろは、新築のアパートに備え付ける家電製品を取り込んだ革新的モデルのシステムキッチン(ビルトインタイプ)がブームになったが、現在は不動産投資が下火になり、あまり売れていない。そのため、中規模の家電量販店(店舗面積1,000〜1,500平方メートル)では、場所を取るシステムキッチンの販売を取りやめているという。

<ソニーとパナソニックが家電販売の系列店を展開>
家電販売は、郊外型の大規模量販店、外資系小売り、中心街に多い中規模量販店、個人経営の小売店、メーカー系列店、ネット販売に大別される。中・大規模量販店を展開するアルテックス、ドモ、フラミンゴの3大量販店は金融危機の影響を受け、09年の売上高は落ち込んでいる(図3参照)。アルテックスのモアンタ取締役は「09年4〜5月ごろに景気は底を打った。10年は前年よりも売上高が10〜15%増加し、ゆっくりとした回復基調にある。完全に回復するのは11年となるだろう」とみている。

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モアンタ氏は郊外型大型商業施設内への出店メリットとして、「販売者側としては広い売り場を確保でき、消費者側としては駐車場やカフェが併設されていて買い物に便利」なことを挙げる。

アルテックスは郊外型の大規模量販店「メディアギャラクシー」も展開している。メディアギャラクシーは平均2,000平方メートルの売り場を確保しており、家電メーカーそれぞれの独自色を出した販売スペースを設けられることが販売促進上、メリットになるという。特に薄型テレビでは販促のため、壁面スペースの取り合いが激化している。モアンタ氏は「10年もショッピングセンターやハイパーマーケットの新規出店は続くだろう」と話す(2009年4月15日記事参照)

カルフールなどの外資系小売りでも家電製品を扱っているが、商品の種類は限られている。品質、価格ともに低・中クラスの製品だけだ。ただ、カルフールなどのハイパーマーケット内の流通チャネルは、国内主要都市のカバー率が高いため、重要な販路の1つといえる。量販店もネット販売を展開する動きはあるが、まだ本格的には浸透していない。

メーカー系列店はソニーとパナソニックが展開している。ソニー中・東欧ブカレスト支店の石川支店長は「ソニー商品として高い品質と購入後のアフターサービスを重視する顧客が現在多い。今後も当社商品を専門に扱うソニーセンターのほか、量販店、外資系小売り、ネット販売のそれぞれのチャネルでバランスよく売っていきたい」と話す。

映像・音響機器市場で液晶テレビは日本、韓国ブランド商品が多く販売されている。欧州ブランドではわずかにオランダのフィリップスが、ハンガリーの生産拠点から供給する液晶テレビで健闘しているだけだ。アルテックスの人気ブランドは、液晶テレビはソニーとサムスン電子、デジタルカメラはソニー、キヤノン、ニコン、サムスン電子、ノート型パソコンはアスス(台湾)、エイサー(同)、ソニー、ヒューレット・パッカード(HP)、富士通だという。

なお、ビジネスユースでは、ドイツの液晶モニターメーカーのコンラックが、ルーマニアなどの欧州を中心に空港の案内掲示板のモニターを納入している。

<白物家電は低所得者向けブランドが人気>
白物家電は、欧州系、トルコ系の企業が大きなシェアを占めている。モアンタ氏によると、冷蔵庫は国産ブランドのアークティック(02年にトルコ資本アーチェリックが買収)が40%のシェアを占めていて、人気があるという。また、ワールプール(米国)も品質がいい割に価格が比較的安いため、人気とのこと。

家電量販店に並ぶ白物家電では、国産(アークティック)とイタリア(ザヌッシ、インデシット、キャンディなど)が目立つ。

ザヌッシ、AEG、エレクトロラックスの3ブランドを展開するスウェーデンのメーカー、エレクトロラックス中・東欧のマロルド最高執行責任者(COO)は「ルーマニアの白物家電市場では高級ブランドの売れ行きはよくない。当社の3ブランドの中でも、低・中所得者向けのザヌッシと中所得者向けのエレクトロラックスは人気が高いが、高所得者向けのAEGはそこまで売れてはいない」という。

同社は、国内サトゥマーレ市でキッチン関連商品を大量生産していたザヌッシ(元イタリア資本)の買収後は、AEG(元ドイツ資本)商品の生産拠点も、同工場に移している。ほかにも中・東欧ではポーランドとハンガリーにそれぞれ複数の生産拠点を持つ。また、インデシットは近隣諸国ではポーランド(冷蔵庫、キッチン関連、洗濯機)とトルコ(冷蔵庫)に生産拠点を持っている。

<必要なターゲットに合わせたブランドの投入>
映像・音響機器では、既に液晶テレビを中心に日本ブランドも多く進出しており、欧州ブランドよりは韓国ブランドとの競争になっている。映像・音響機器の専門見本市として、ハイファイ・アリーナがあるため、同見本市の活用による売り込みも可能だ。

一方で、白物家電は、LG電子やサムスン電子の韓国ブランド商品も売られてはいるものの、国産やイタリアなどの欧州ブランドが根強い。モアンタ氏は「日本ブランドの白物家電が、アークティック、エレクトロラックス、ワールプールなどの人気ブランドを差し置いて、シェアを伸ばすのは難しい」とみている。

しかし、「ルーマニアの消費者は、基本的に日本ブランド商品は品質が良いと信用している」(同氏)と日本ブランドも評価している。ただ、品質の良さを売りにするとしても、高級ブランドの売れ行きが悪く、低・中所得者向けブランドで攻めるエレクトロラックスのように、ターゲット層に合ったブランドの投入が必要になるだろう。

(古川祐、余田知弘)

(ルーマニア)

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