排出権売却益を住宅の省エネ補助金に利用−欧州各国の環境ビジネス支援策−

(チェコ)

プラハ発

2009年09月15日

政府は2009年4月、住宅部門でのエネルギー効率化などに対して補助金を支給する「グリーン省エネプログラム」を開始したが、申請者は開始から4ヵ月間にわずか200人にとどまった。そのため政府は8月に適用対象を大幅に拡大すると発表、より広い住民層が申請できる内容に改めた。

<住宅関連の3分野が対象>
「グリーン省エネプログラム」は、主に日本に売却した温室効果ガス排出権の収益を利用した補助金制度。環境省は09年3月末に、日本の新エネルギー産業技術総合開発機構(NEDO)と、京都議定書上の排出権(AAU)4,000万トンの国際排出量取引に関する契約を締結した。同省は、この収益を国家環境プログラム財政機関である国家環境基金の収入に組み込み、NEDOの了解を得て選定したプログラム実施だけに利用する義務を負う。プロジェクトは、いずれも住宅エネルギー部門を対象としたもので、次の3分野に集約される。

(1)住宅部門での省エネ促進
(2)住宅部門での再生可能エネルギー(バイオマス、太陽エネルギー)利用促進
(3)住宅部門での「パッシブハウス(無暖房住宅)」基準による建設促進

<補助金の支給条件を大幅緩和>
環境省は3分野それぞれの補助金プログラムを作成、09年4月22日から申請者募集を開始した。しかし、応募が少ないため同省は8月10日、補助金支給条件の大幅な変更に踏み切った。

同省は09年4月、同プログラム専用ウェブサイトを開設し、コールセンターを設置した上で、各新聞に広報を掲載するなど大々的に申請の募集を開始した。しかし、受付開始1ヵ月後の申請者数はわずか11人と、国民の関心は低かった。

その要因として考えられるのは、a.申請手続きの負担感が大きい、b.プログラム適用条件が厳しいと考えられている、c.提出が必要な計画書の作成に対して補助金が支給されない、d.補助金支給が工事完了後になるため、工事費用を立て替える資金がない、などだ。

このため、同省は4月以前に開始された工事作業も申請対象に含めることとし、適用条件を緩和した。資金問題対策では、民間銀行とタイアップすることで同プロジェクト用特別ローンの提供を促した。

しかしそれでも申請者数は、受付開始2ヵ月後で35人、8月10日時点でも205人と微増で、同省の期待した効果はみられなかったため、今回の大幅な変更が行われた。

変更点として、まず、これまで対象外としていたプレハブの集合住宅について、建物全体の省エネの場合に限り、補助金対象に加えた。また、住宅の防寒措置について、これまでは窓の交換と外壁の断熱材導入など、2種類以上の措置の組み合わせが条件となっていたが、これを撤廃し、エネルギー効率が20%以上改善されれば、窓の交換だけでも補助金対象に追加した。また、プロジェクトの計画書作成費用にも、補助金が支給されることになった。

<戸建てだけでなくアパートも対象に>
変更後のプログラム内容は以下のとおり。

(1)住宅暖房に関する省エネ
a.住宅全体
○戸建てには、1平方メートル当たりの暖房年間消費量が40キロワット時(kWh)以下の場合には1平方メートル当たり2,200コルナ(1コルナ=約5.2円)を、70kWh以下の場合は1,550コルナを支給。

○アパート(プレハブを含む)には、1平方メートル当たりの暖房年間消費量が30kWh以下の場合には1平方メートル当たり1,500コルナを、55kWh以下の場合は1,050コルナを支給。

b.住宅の一部
○エネルギー効率が20%以上改善:戸建てには1平方メートル当たり650コルナ、アパートには450コルナを支給。

○エネルギー効率が30%以上改善:戸建てには1平方メートル当たり850コルナ、アパートには600コルナを支給。

(2)住宅暖房を目的とした再生可能エネルギーの利用
a.バイオマスボイラーもしくは効率の高いヒートポンプへの交換、あるいは新規据え付け
○戸建てには、バイオマスボイラーの場合、タイプにより5万〜9万5,000コルナ、ヒートポンプの場合、タイプにより5万〜7万5,000コルナを支給。

○アパートには、バイオマスボイラーの場合は2万5,000コルナ、ヒートポンプの場合はタイプにより1万5,000〜2万コルナを支給。

b.ソーラーシステムの据え付け
○戸建てには、温水システムの場合は5万5,000コルナ、温水+暖房の場合は8万コルナを支給。

○アパートには、温水システムの場合は(1フラット当たり)2万5,000コルナ、温水+暖房の場合(同上)3万5,000コルナを支給。

(3)パッシブハウス(無暖房住宅)基準による建設促進
○戸建てには、年間エネルギー消費量が1平方メートル当たり20kWh以下の場合、25万コルナ支給。
○アパートには、年間エネルギー消費量が1平方メートル当たり15kWh以下の場合、1フラット当たり15万コルナ支給。

<申請に必要な計画書づくりにも補助金>
(4)その他の補助金
a.エネルギー量計測手数料に関する補助金は、プロジェクト、住宅の種類により1万〜1万5,000コルナ。
b.計画書作成に関する補助金は、プロジェクト、住宅の種類により2,000〜4万コルナ。

具体的には、(1)に関しては、住宅全体の防寒措置、住宅の一部の防寒措置(外壁、屋根など一部の建材交換、窓、ドアの交換など)に対する一定のエネルギー効率化の達成を条件に一定額を支給する。(2)では、石炭ボイラーからバイオマスボイラーへの交換、温水器へのソーラーコレクター(太陽熱収集機)接続などに対するコストの一定額を負担する。(3)では、住宅の種類(戸建て、アパート)によって一定額を支給する。

プロジェクトの補助金予算総額は250億コルナで、うち09年分は100億コルナが割り当てられている。最終的な申請締め切りは12年6月30日。

<住宅以外の産業へも適用を求める声が>
国内企業は、環境省が省エネプログラムを発表した当初から、同プログラムが住宅部門だけを対象としていることに不満を表明していた。産業連盟のミール会長は、4月末に「プログラムの資金源となった排出権売却は、主として国内製造業がより環境にやさしいテクノロジー導入へ投資を行ったことで可能になったものだ。全体で兆単位に達するこの大型投資に対して、政府は製造部門への還元を約束してきた。このため、われわれは政府が、研究・開発(R&D)部門への支援に排出権売却資金を利用することを求める」との声明を発表した。

同様に経済会議所のホレツ副総裁は8月10日に、「排出権売却資金の一部が住宅以外の部門、例えば工業部門のエネルギー効率化に利用されることを特に歓迎する」と同資金の利用対象を拡大するよう求めた。プログラム変更に関しては、「潜在的申請者層を大幅に拡大する」として、これを歓迎、さらに今回の改正により、国民による資金の効果的な利用が可能となり、このことは業者の受注増大にもつながると、同会議所は期待している。

変更後のプログラムは、8月17日から申請受け付けを開始した。

(中川圭子)

(チェコ)

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