拡大するFTA貿易−完成目前、ASEAN+1FTAの影響−

(マレーシア)

クアラルンプール発

2009年09月03日

自由貿易協定(FTA)締結により輸出が増加していることが、「マレーシア国際貿易産業省白書2008」(MITIレポート)で明かになった。ASEANが進めるASEAN自由貿易地域(AFTA)、ASEAN・中国FTA(ACFTA)、ASEAN・韓国FTA(AKFTA)をはじめ、2008年1月1日から発効したパキスタンとの2国間FTA(MCPEA)などを活用した輸出も、金額ベースで堅調に伸びている。またマレーシア日本経済連携協定(MJEPA)を活用した輸出も、前年比25.4%増の84億リンギ(1リンギ=約26.4円)と好調だった。

<AKFTAを活用した対韓輸出は10倍増>
国際貿易産業省(MITI)が発表した「MITIレポート2008」によると、08年の貿易額は、1兆1,851億リンギ(輸出:6,635億リンギ、輸入:5,216億リンギ)だった。貿易相手国上位5ヵ国(シンガポール、米国、日本、中国、タイ)で、総貿易の52.5%を占めた。

08年のFTAの相手国・地域別の貿易動向をみると、07年6月に発効したAKFTAを利用した対韓輸出は、前年比10倍の143億リンギと大幅に増大した(表1参照)。原産地証明書発行数も2万119枚と前年の7,950枚から約2.5倍に増えている。主要輸出品目は、石油、ガス、パーム油、化学品、塊錫、機械・機器だった。

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ACFTAを活用した対中輸出は、前年比13%増の63億リンギで、原産地証明書発行数は、10.3%増の1万3,723枚と2ケタの伸びをみせている。主要輸出品目は、ゴム製品、植物性油、石油、パーム核油、ステアリン酸、酢酸となっている。中国との貿易はACFTA効果もあり、この数年で大幅に増加。マレーシアの輸出全体の11%を占め、米国、日本と並ぶ重要な貿易相手国へと成長している。

<EPA利用の対日輸出は25.4%増>
一方、ASEAN+1の貿易だけでなく、2国間FTAの利用促進も進んでいる。マレーシアは、現在、パキスタンと日本との間で2国間協定を発効しているが、06年1月からアーリーハーベストを実施していたMCPEAは08年1月1日に発効し、本格的に利用が拡大したことで08年の対パキスタン輸出額は40億リンギと前年比72倍となった(表1参照)。原産地証明書発給件数は、7.4倍の2,424枚。主要輸出品目は、パーム油、パーム油関連製品だった。

また、06年7月13日に発効したMJEPAでは、08年の原産地証明書発行数は、前年比0.7%減の4万5,714枚と微減したが、AFTAに次いで2位の発行数となった。輸出額は25.4%増の84億リンギになっている。主要輸出品目は、パーム油、プラスチック、化学品、木材、ゴムだった。

このほか、オーストラリア、米国、チリ、インド、韓国との2国間FTAを交渉中で、ニュージーランドとは09年6月に大筋合意し、09年末までに署名の予定だ(2009年6月19日記事参照)。ニュージーランドとの貿易は、輸出額62億リンギ、輸入が36億リンギ。主要な輸出品目は、機械、石油、電気機器、油脂など、輸入品目は、鉱物燃料、油、肉、鉄鋼製品など。2国間FTAにより、今後の同国との貿易の一層の増加が期待される。

<08年のCEPT利用輸出は19.3%増>
AFTAの共通効果特恵関税(CEPT)を活用した輸出は、FTA活用の貿易額では最も多く、引き続き堅調に伸びて、マレーシア総輸出の9.4%を占める。08年のCEPTを活用した輸出は、金額ベースで前年比19.3%増の161億リンギ(前年は135億リンギ)、原産地証明書発行数は、前年比7.5%増の13万9,894枚となった(表1参照)。主要な輸出品目は、精製・漂白・防臭パーム油、エアコン、制御装置、エチレン重合体、ブラウン管だった(表2参照)。

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輸出が最も多い相手国はタイ(シェア29.4%)で、インドネシア(26.6%)、ベトナム(21.1%)、フィリピン(16.3%)が続く。インドネシア、ミャンマー向けの輸出の伸びが著しく、前年比でそれぞれ32.75%増、14倍と急増している(表3参照)。

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政府は、CEPTスキームの下で、10年1月1日から、a. 2,123品目の関税撤廃、b.熱帯フルーツ、たばこ、たばこ製品の関税を5%まで引き下げ(現行10%〜100%)、c.コメ、コメ製品の関税をそれぞれ20%、15%まで引き下げ(現行40%)、を実施する予定で、これらの品目の貿易増加が期待される。関税が撤廃される品目の内訳は表4のとおり。

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<インドとのFTA締結を望む日系企業>
政府は、FTAに対するマレーシア企業の認知度が低いとの認識を持っており、MITI、マレーシア貿易開発公社(MATRADE)などが主導してFTA活用セミナーを開催し、原産地証明書の入手方法や関税メリットなどを説明して企業への普及を進めている。また、手続き迅速化を推進するため、原産地証明書発行の電子化を09年1月から開始、MITIのウェブサイト経由で申請できるようになった。このシステムを利用すれば、コスト分析証明書の入手もオンライン上ででき、利用者の利便性が高まった。

進出日系企業からは、「CEPT、ASEAN+1FTAは最大に活用している。特にCEPTは、スケジュールどおりに関税引き下げが実行され、中長期的な計画が立てやすい」(大手日系家電メーカー)と、ASEAN関連のFTAに対する評価は高い。今後については、「新規市場として、電気・電子ではインドが有望。インドとのFTAがあり、輸出に関税がかからないタイとの国際競争に負けている。一刻も早く、ASEAN・インドまたは、マレーシア・インドのFTAを締結してほしい」と、多くの日系電気電子企業から要望が出ている。インド市場のポテンシャルは高く、進出日系企業は対インドFTAに高い関心を示している。

(手島恵美)

(マレーシア)

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