景気後退を受けて6割減に−09年上半期の対中直接投資動向−

(台湾)

中国北アジア課

2009年08月27日

世界的景気後退の影響で、2009年上半期の台湾の対中直接投資額(認可ベース)は、前年同期比59.3%減の19億4,071万ドルにとどまった。他方で、08年5月の馬英九政権発足以降、中台間で進む各種規制緩和を受け、エチレンプラントなど従来制限されてきた業種への投資に向けた動きも出てきている。

<世界消費低迷が直撃>
09年上半期の台湾の対中直接投資(事前認可ベース)は、件数で前年同期比74.4%減の79件、金額で59.3%減の19億4,071万ドルとなり、件数・金額ともに大きく減少した(表1参照)。欧州、米国、日本といった最終消費地の消費低迷を受けて、台湾企業の受注量は急減しており、本格的な景気回復の見通しが立たない中で、事業拡大のための対中投資を控える傾向にある。

なお、対中直接投資は、原則として経済部投資審議委員会への事前申請が必要だが、08年3月から事後申請も可能になった。09年上半期の事後認可案件は89件で、事前認可分を上回った。事前、事後の合計では、件数は55.0%減の168件、金額は56.4%減の22億1,900万ドルになる。

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<3大業種が軒並み半減>
業種別にみると(事後認可案件を含む)、86.0%を占める製造業は、前年同期比51.9%減の19億824万ドルと半減した。従来対中投資を牽引してきた3大業種は、「電子部品」が51.6%減、「パソコン・電子製品・光学製品」が64.5%減、「電力設備」が53.0%減と軒並み減少した(表2参照)。「電力設備」は、減少幅の小さい「機械設備」(10.1%減)に抜かれ、第4位に落ちている。

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中国の「家電下郷」政策(農村地域での家電普及促進策)により、液晶パネルや電子部品などで特需があったものの、投資審議委員会の張銘斌・副執行秘書は「新たな設備投資の必要性がないことが、対中投資の大幅減少につながった」と説明している(「中央通信社ニュース」7月20日)。

他方で、「パルプ・紙・紙製品」は8.1%減と、減少幅は上位10業種で最も小さかった。この要因としては、中国市場での原料コストの値下がりや工業用紙の需要増を背景に、製紙大手の栄成紙業や正隆などが増資したことが挙げられる。

対中投資額の14.0%を占める非製造業は、前年同期比72.3%減の3億1,074万ドルと、減少幅は製造業より大きい。「卸・小売り」は48.5%減、「情報通信・放送」は68.7%減だった。

<規制緩和を見据えた投資が拡大>
近年、投資案件は大型化する傾向にあったが、09年上半期は、4,000万ドル以上の対中直接投資案件は2件にとどまった(表3参照)。この2件は、ともに石油化学品関連メーカーの長春企業グループの長春石油化学と長春人造樹脂廠による、長春化工に対する増資案件。09年5月、福建省泉州市の泉港区石化工業区で、台湾企業による台湾石油化学産業集積地、「台湾石化専区」の建設計画が発表されたと同時に、長春化工は、ほかの台湾企業と合同で同地区にエチレンプラント建設に向けた枠組み協定を泉州市政府と締結した(注)。

エチレンなどの石油化学産業の川上分野は、従来台湾当局によって対中投資が制限されてきた分野だが、台湾のメディアは同業種を含む規制緩和が今後予定されていると報道しており、これらの動向を見据えた取り組みとみられる。

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投資先を地域別にみると、投資額の37.5%を占める江蘇省(53.5%減)、14.1%を占める上海市(72.3%減)はともに5割を超える減少(表4参照)。第2位の広東省は24.8%減だった。広東省のうち東莞市(40.0%減)と広州市(55.4%減)は減少したが、深セン市(29.3%増)は増加した。

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伸び率がマイナスとなった地域が多数を占める中、山東省は35.3%増となった。これは青島市のスポーツジム経営・同機器製造の英派斯集団の大型案件があったためだ。

<中台経済交流の拡大が弾みをつけるか>
08年5月の馬英九政権誕生以降、中台間を結ぶ空運・海運の直行便の運航開始や台湾企業の対中投資累計額の上限規制緩和などが実現し、ヒト・モノ・カネの移動の自由化が急速に進み、台湾企業の中国事業展開の自由度は増してきている。さらに現在、前述の対中投資の業種別規制緩和のほか、金融機関の相互進出を盛り込んだ金融覚書(MOU)や、経済協力枠組み協定(ECFA)の締結に向けても双方で準備が進められている。

現在、台湾企業の対中投資には、欧州、米国、日本の景気後退の影響が強いが、今後は中台間の経済交流のさらなる拡大が見込まれ、台湾企業にとっては対中投資のインセンティブは高まりつつあるといえよう。

(注)川上・川中・川下分野にまたがる台湾の石油化学産業の集積地が中国に建設されるのは初めてで、「台湾石化専区」の建設は中台双方から注目されている。

(森詩織)

(台湾)

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