雇用維持しつつ労働コスト削減に集中−各国の雇用情勢と企業の対応−

(スリランカ)

コロンボ発

2009年07月24日

雇用情勢は、アパレルなどの輸出産業を中心に悪化している。企業にとっては、人的コストの削減が喫緊の課題となっており、新規雇用の凍結や自主退職スキーム導入などの対応が取られている。

<衣料産業の雇用に金融危機の影響>
スリランカ人口調査・統計局によると、2009年第1四半期の失業者数は45万人、失業率は5.5%(北部を除く)となった。08年度第3四半期の失業率は5.5%、第4四半期は5.4%で、金融危機の前後で大きな変化はみられない。

しかし、雇用への影響は徐々に出始めている。金融危機の雇用情勢への影響については、ILOが09年第1四半期の状況を調査している。調査を担当したILOのコンサルタント、ラマニ・グナティラカ氏による報告内容が、6月末から7月初めにかけて複数のメディアで報道されている。ポイントは以下のとおり。

(1)09年第1四半期に、工業部門で9万6,000人、うちアパレル部門で6万人、建設部門で3万6,000人の雇用が喪失した。その一方で、農業部門で20万3,000人、サービス部門では12万9,000人の新たな雇用が創出された。セクターを超えた労働者の移動があるため、失業率の大幅上昇には至っていない。

(2)主要輸出市場は今なお不況下にあるため、雇用喪失は09年後半も続くと見込まれる。

(3)現在の経済危機で最も大きな被害を受けているのは、アパレル産業。

中央銀行の発表によると、4月と5月の衣類輸出額はそれぞれ前年同月比10.1%減、22.7%減となっている。アパレル産業は多角的繊維協定(MFA)撤廃後も大きな変化はなかったが、主要輸出先の欧米の不況の影響が徐々に出始めているようだ。

当地の中小アパレル企業の1つに電話取材すると、厳しい雇用情勢を裏付ける次のような回答があった。

「アパレル産業では、大企業は順調な一方、いくつかの中小企業は工場を閉鎖せざるを得ず、多くの失業者を生み出している。対応策として、業界では政府との合意の下で、特定の期間中一時的に雇用を停止し、その期間の終わりに状況が改善すれば雇用を再開するという計画(いわゆる「一時解雇」)を導入した。ほかの産業の工場も、業務の減少により閉鎖せざるを得ない状況になっている」

<企業の多くは通常の労働コスト削減策で対応>
ILOのグナティラカ氏の報告によると、企業にとっては廃業や従業員の解雇は最終手段であり、多くの企業は、a.新規採用の凍結、b.労働者の自然減、c.生産ラインの閉鎖、d.工場の合理化、e.勤務日数の削減、f.特別手当の廃止・縮小、といったコスト削減策を行っている。

実際、海外でもビジネスを展開する当地有力企業も、「新規採用は中止しているが、状況の早期改善を期待して現在の雇用を維持」と語っている。

金融危機全体に対する雇用者側の対応は必ずしも積極的(proactive)とはいえず、もっぱら通常の労働コスト削減に集中している、というのがグナティラカ氏の見解だ。

こうした通常のコスト削減以外にも、当地ビジネス・コンサルタントによると、当座の対応策として、自主退職スキームを導入してコスト削減を図っている会社もあるという。このスキームは主に管理職を対象に行われているようだ。

(崎重雅英、ティッサ・ガラゴダ)

(スリランカ)

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