生鮮野菜・果実の輸入時検査手続きの変更を延期−WTOのルールを尊重−

(タイ)

バンコク発

2009年07月16日

保健省食品医薬品局(FDA)は、生鮮野菜・果実輸入時の新たな検査手続きについて7月実施を延期した。政府内関係部局との協議の結果、WTOのルールにのっとって対応すべきと判断したためだ。現在、新検査手続きの実施に先立ち、WTO加盟国に対する事前通報に向けた検討が行われている。

添付ファイル: 資料PDFファイル( B)

FDAは6月29日付で、生鮮野菜・果実を扱う国内輸入業者などの事業者に対し、7月1日から開始予定だった生鮮野菜・果実輸入時の新たな検査手続きの実施を延期すると通知した(2009年6月1日記事参照)。延期の理由として、WTOのルールへの対応を挙げている。

FDAでこの問題を担当する輸入・輸出検査課のプラポン課長は7月14日、ジェトロなどに対し、新検査手続きの実施延期について次のように語った。

<過去の違反件数に応じて検査頻度を変えて実施>
政府内関係部局との協議で、新検査手続きの実施に先立ち、WTOのルールにのっとって事前通報を行った方がよいとの意見が出され、延期を決定した。WTOの規定に基づく事前通報(注)は、新たな措置を実施する60日以上前に行う必要がある。現在、政府内では事前通報に向けた検討が行われている。

FDAには、世界各国から国内に輸入される生鮮野菜・果実などの残留農薬について、過去の検査データが蓄積されている。新検査手続きでは、これらのデータに基づき、過去に農薬の基準値(添付資料参照)超過があった国から輸入される品目については、残留農薬分析の証明書がない場合、原則としてすべてのロットに対して、輸入港での抜き取り検査(一次検査)を行う予定だ。一方で、過去に農薬の基準値超過がない国から輸入される品目については、従来どおりの頻度で抜き取り検査を行うなど、検査頻度は過去の違反件数に応じて国ごとに設定する予定。

輸入される日本産の生鮮野菜・果実は、量がそれほど多くない上、FDAに蓄積された過去のデータからは、農薬が基準値を超えて残留したケースはなかったと認識している。

また、抜き取り検査の結果が判明するまでの、輸入港での輸入食品の留め置きについても、抜き取り検査は検出キットを用いて2〜3時間程度で終了する簡易なもののため、生鮮野菜・果実へ影響はないと考えている。

<残留農薬については今後も注意が必要>
プラポン課長の説明によると、今回の新たな生鮮野菜・果実の検査は、あくまでも「延期」であって、WTOのルールにのっとった手続きがされれば実施に移される可能性が残されている。

一方で、仮に新検査手続きが実施に移されても、日本産の生鮮野菜・果実の抜き取り検査はすべてのロットに対してではなく、従来どおりの検査頻度で行われる。5月下旬の時点では、過去の違反状況は考慮されておらず、残留農薬分析の証明書がない場合には原則として、輸入される生鮮野菜・果実のすべてのロットに対する抜き取り検査が行われる予定だったことと比較して、新検査手続きの内容が若干変化した点は注目される。

抜き取り検査の頻度は、農薬の基準値超過の有無によるとのことから、生鮮野菜・果実のタイ向け輸出に当たっては、基準値を超えて農薬が検出されることがないよう、散布時にはラベルに記載されている使用方法を守るなど、引き続き農薬の適正使用を心がける必要がありそうだ。

(注)WTOのSPS協定(衛生植物検疫措置の適用に関する協定)で、WTO加盟国は、食品安全または動植物の健康に関する措置を新たに制定・変更する際、それがほかの国の貿易に大きな影響を及ぼす可能性がある場合には、制定・変更内容をほかの加盟国に事前に知らせなければならないことになっている。これはSPS通報と呼ばれ、各国の政府からWTO事務局を通じてほかの加盟国に通報する。ほかの加盟国は、通報した国に対し質問やコメントをすることができる。

(井上知郁)

(タイ)

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